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【論文レビュー】ジョブ・クラフティングがもたらす職業性ストレス研究の新たな展開:横内(2023)

『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』の第4章では、ジョブ・クラフティング(以下JC)のオリジナルモデルの理論的系譜を整理し、そこからJD-Rモデルが何を引き継ぎ、何を継承しなかったかについて、JD-Rモデルの系譜が解説されています。横内陳正先生(東京大学)の奥行きのある整理がとても勉強になる、素晴らしい章です。

ワーク・デザイン研究からJCオリジナルモデルへ

JCのオリジナルモデルはワーク・デザイン研究の流れを汲むものです。横内先生は、①科学的管理法に基づく職務設計アプローチ、②内発的動機付けに基づく職務再設計アプローチ、③複雑化した社会における知識労働者の働き方の変化に基づくJCアプローチ、という三段階に分けて解説されています。

①は外発的動機づけの観点から、働く人々は合理的経済人であり、ジョブに対して従属的な存在として描かれているとしています。②では、職務自体によって社員は動機づけられるものであり、社員はそれぞれに自己実現欲求を持つ存在として、ジョブの影響を受けながらもジョブに対して能動的に働きかけることも可能であると捉えられています。

③では、より多様化・複雑化している社会を踏まえ、働く人々は、第3章でも言われていたように、仕事の有意味性を追求する意味充実人として考えています。その上で、人とジョブとが相互に影響を与え合う動的なプロセスとして捉えています。

ここまでをまとめるとこんな感じです。きれいにまとめてくださっている横内先生に感謝しつつ、以下に抜粋します。

85頁

職業性ストレス研究の系譜としてのJD-R

職業性ストレス研究は、ミシガンモデルから始まったとされています。このミシガンモデルでは人とジョブとを切り離して捉え、ジョブによって人が影響を受けるという関係性を示しています。この考え方は、JD-CからJD-Rへと移る中でも受け継がれているので、ミシガンモデルを理解しておくことはJD-Rモデルを考える上でも重要と言えそうです。

91頁

理論的系譜から見るJD-Rモデル

ワークデザイン研究の系譜からのオリジナルモデルの影響を受けつつ、職業性ストレス研究の流れにおけるJD-Rを色濃く受けるJD-RモデルのJCの特徴として、著者は最後に三つの特徴を示しています。

第一に、JD-Rがジョブを客観的に捉えていることから、JD-Rモデルではジョブの客観的側面のみを対象としています。そのため、オリジナルモデルの三次元を引き継ぎつつ、そのうちのタスクと関係性の二次元を扱っています。

第二に、オリジナルモデルでは複雑人としての個人がジョブとの相互作用をもたらすと捉えるのに対して、JD-Rモデルではジョブの特性と個人が適合しない状況がJCの動機になると捉えています。

第三に、オリジナルモデルもJD-Rモデルもジョブと個人との相互作用を射程に入れている点では共通するものの、認知次元を捨象したJD-Rモデルではそのメカニズムの多様性が減衰している、としています。


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