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【徹底解説】キャリア構築理論とは何か?(10)オーサー:Savickas(2013)

少し前に扱ったように、私たちは社会との接点を持つ上で(1)アクター、(2)エージェント、(3)オーサー、という三つの役割を持ちます。前回まででエージェントまで終えたので、今回はオーサーについて扱います。

Savickas, M. L. (2013). Career construction theory and practice. Career development and counseling- Putting theory and research to work, 2, 147-183.

総合ではなく統合あるいは止揚!?

物語る私は具体的に何をするのでしょうか?物語るために私たちは過去の経験を内省してパターンを見出すわけなのですが、それは単に過去の経験からの学びを蓄積して総合するわけではないとして、サビカス先生は以下のように述べておられます。

This identity narrative is not a summing up but a synthesis (Erikson, 1968), a configuration that reconciles multiple abstractions to produce an integrative solution to the problems in making the transition from school to work and from adolescence to adulthood.
(ざっくり和訳)
このアイデンティティの物語は総合ではなく統合/止揚であり(Erikson、1968)、学校から仕事へ、そして青年期から成人期へ移行する際の問題に対する統合的な解決策を生み出すために複数の抽象化を調和させる構成である。

p.163

エリック・エリクソンを引きながら、物語ることでアイデンティティを構築することは、過去のトランジションにおける多様な課題解決の総合ではなく統合止揚であるとしています。では、過去の経験を統合したり止揚したりして物語るというのはどのようなことなのでしょうか?

筋(plot)ではなくテーマ

オーサーとして物語るためには(plot)ではなくテーマであるとサビカス先生は解説しています。両者の違いに関する本論文での例示は、英語的なものであるにもかかわらず珍しく(?)わかりやすいので触れます。「王様が亡くなった後、お妃様が亡くなった。」は話の筋の説明であり、「王様が亡くなった後、お妃様はその悲しみで亡くなった。」はテーマであるというのです。サビカス先生の例示は日本人の私にはわかりづらいものが多いのですが(失礼!)、これはちょっとわかりませんか?

では両者では何が具体的に異なるのでしょうか。

Authoring deeper, private meaning to accompany the public explanation of plot requires a theme.
(ざっくり和訳)
より深い個人的な意味を作成するには、筋の公的な説明に伴うテーマが必要である。

p.164

端的に言えば、話の筋に意味性が付与されるとテーマになるとしています。キャリアに置き換えれば、外的キャリア(職務、ポジション、役割など)から内的キャリア(価値観、志向性など)へと深掘りしていく上では自分なりの意味を見出すことが求められるわけです。

キャリア・テーマ

こうして筋がテーマに昇華することによって何がもたらされるのでしょうか?

A career theme brings more than unity to a plot; it brings continuity because it traces how a person remains identical with self despite diversity across micronarratives.
(ざっくり和訳)
キャリアのテーマは筋に統一以上のものをもたらす。それは、小さな物語全体にわたる多様性にもかかわらず、人がどのように自己と同一であり続けるかを追跡するために継続性をもたらす。

p.165

キャリアにおけるテーマをキャリア・テーマとサビカス先生は呼び、それは私たちに継続性をもたらすと解説しています。ナラティヴな動的なものなので、キャリア・テーマは不変のものというよりも一定程度の安定性を示す存在であると考えられます。

始まりの欲求から終わりの意味性へ

意味性が付与されたキャリア・テーマがもたらすものは、欲求に基づく課題解決ではなく人生の目的や目標に向けたものだとサビカス先生はしています。

As a carrier of meaning, themes hold the character arc or overarching narrative thread that extends through the entire macronarrative. The character arc portrays where the individual started, is now, and wants to end up on some essential issue.
(ざっくり和訳)
意味の伝達手段として、テーマは人の弧または小さな物語全体に広がる包括的な物語の糸を保持します。人の弧は、その人がどこから始まり、現在、そしてある本質的な問題に行き着きたいと考えているかが描かれる。

p.165-166

なかなかにして難しいですが深い内容ですね。陳腐な解説はやめておいて、ぜひ上の部分をご自身で読み解いていただければと思います。

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