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【論文レビュー】協同志向ジョブ・クラフティングの可能性:藤澤(2023)

『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』の第10章では、協同志向ジョブ・クラフティング(以下JC)という概念が提示されます。プロボノでの取り組みによって、日常の職場と異なる文脈での経験から仕事の意味経験が変化するプロセスによって協同志向JCが生じることを質的研究から仮説構築し、量的調査によって実証しています。

協同志向JCとは何か

本章では、まずプロボノ活動の参加者13名に対するインタビューを基に考察が行われています。そのインタビューでは多くの参加者から「これまでより自分や他者の個人的感情を優先し、協同的な活動や関係性を強調する変化が語られた」(228頁)として、こうした一連の変化を協同志向JCと著者は整理されています。

インタビューの内容を基に考察され、この協同志向JCにも関係性、タスク、認知の三つの次元と関連するものがあることが挙げられています。

協同志向JCの意義

JCにおいて協同的作用を提示したのは本章の研究が初めてというわけではありません。有名なところでは、Leana et al.(2009)で協同クラフティングは取り上げられています。

では、本章で明らかになった協同志向JCの意義は何かというと、Leana et al.(2009)ではタスクにのみ焦点が当たっていたのですが、著者による研究では、関係性および認知についても新たに明らかになりました。つまり、協同志向JCとしてタスクに加えて関係性、認知にまで拡げたことが本章の意義と考えられます。これによって、協同志向JCは私から私たちへという境界変更を伴うものであると著者はしています。

協同志向JCがもたらす仕事の意味の変化

質的研究で抽出された協同志向JCが仕事の意味の変化にどのような影響を与えるのかについて、仕事の有意味感ワーク・アイデンティティを目的変数に置いて重回帰分析を行っています。その結果、協同志向JCのうち協同志向関係性JCが両者に対して有意に影響を与えていることが明らかになりました。

個人で行うことに焦点化された通常のJC(自己志向JC)に加えて、他者との協同に焦点が当たっている協同志向JCが存在し、かつその中でも協同志向関係性JCが仕事の意味の変化プロセスに影響するという点は、なかなか興味深いものがあると感じました。


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