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【論文レビュー】世代論と捉えてはいけない若手社員の勤務地問題:林(2023)

「Z世代は転勤を嫌う」と言われることがままありますが、世代論には注意が必要です。今回は、大学生の勤務地に対する志向性について、リクルートさんが出されているレポートを取り上げ、大学生(≒若手社員)の勤務地に関する意識の背景について考えます。尚、今回取り上げるレポートを見つけたのは、法政大学大学院・石山研究室(後期博士課程)の小山さんの転勤に関する論考を拝読したのがきっかけでした。昨今の転勤の課題について網羅的かつ読みやすくまとめられているので、ぜひこちらをご覧の上で、リクルートさんのレポートに移ると良いかもしれません。

引用・参考文献一覧

小山さんの転勤記事①はこちら↓

小山さんの転勤記事②(①の後編です)はこちら↓

リクルートさんの記事はこちら↓

大学生の勤務地志向の変化

まず大学生が自身が望む特定の地域で働くことを重視していることは、著者のレポートから言えるようです。

林将大(2023)「特定の地域で働きたい学生が増えているのはなぜか?大学生の働きたい組織の特徴の研究レポート①」p.1より引用

直近約10年間の経年データからは、微増傾向から2022年卒以降に増加傾向へと移っていることが読み取れます。

三つの理由

特定の地域で働くことを希望する大学生が増えたことの背景には三つの理由があると著者はしています。

①学生の価値観の変化

これについては世代論とも整合するものかもしれません。新卒での就職先として組織を選ぶ際に重視する志向性の変化について2017年卒と2024年卒とで比較すると、働き方の柔軟性や勤務地の希望が通るかという二つの項目の伸び率が高いと著者は指摘しています。以下の表を見るとその指摘には納得できます。

林将大(2023)「特定の地域で働きたい学生が増えているのはなぜか?大学生の働きたい組織の特徴の研究レポート①」p.2より引用

②経済的な理由

学生時代に利用していた奨学金の返済のために、実家で同居して生活費を安価に止めようという理由と指摘しています。これについては、経年比較がないので判断が難しいところですが、考える余地はありそうです。ちなみにですが、私個人は学生時代も実家暮らし、新卒入社後も2年半は実家で生活していたので親の脛齧り状態だったことを白状しておきます。。

林将大(2023)「特定の地域で働きたい学生が増えているのはなぜか?大学生の働きたい組織の特徴の研究レポート①」p.3より引用

③コロナ禍の影響

コロナ禍の影響はやはりあるようです。下表の通り、コロナ禍によって以前と就職先を選ぶ際の基準を変えたと回答する人が2割弱おり、これらが地元志向を強めたと考えられます。

林将大(2023)「特定の地域で働きたい学生が増えているのはなぜか?大学生の働きたい組織の特徴の研究レポート①」p.3より引用

個人的な感想

私自身は就職氷河期世代にあたる人間ですが、企業による一方的な勤務地変更には忌避感があります。念のために申し添えれば、これまで何度か転勤を経験していますが、いずれも私からキャリア志向や生活志向を企業に伝え事前に擦り合わせた上でのものであったので前向きに行えました。

もちろん、海外勤務によって異なる文化での仕事を経験して成長したり、国内でも異なる環境で働くことによる成長促進の効果はあると思います。私自身も後者は経験しましたし。ただ、そうした効用が生じる前提として企業と個人との事前のやりとりが重要であることは、本レポートでも冒頭の小山さんの記事にも書かれている通りだと感じます。

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