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【徹底解説】キャリア構築理論とは何か?(6)アクター:Savickas(2013)

前回の徹底解説シリーズでは、個人が(1)アクター、(2)エージェント、(3)オーサー、という三つの社会的役割を持っていると話をしました。今回は、このうちのアクターについてマニアックにみていきます。

Savickas, M. L. (2013). Career construction theory and practice. Career development and counseling- Putting theory and research to work, 2, 147-183.

社会の始まりは家族

行動する個人として、まず私たちが接する社会は家族です。家族の中で振る舞い、また家族の文化的なディスコースを学習することをもとに、近所や学校において発揮する人格を形成するとサビカス先生はしています。

The base of the character arc coconstructed in the family of origin will, in due course, help to shape the individual’s career theme.
(ざっくり和訳)
家庭での生い立ちで共創的に形成された人格全体の一部(※)の基盤は、やがて個人のキャリア・テーマを形成する助けとなる。
※「arc」は直訳すると「弧」ですが、円の一部であり物語の一部とも意訳できるためこのような訳にしました

p.151

家族での生活を第一歩として、将来にまで続く個人のキャリアテーマの形成が始まるようです。同じ両親であっても年長のきょうだいがいた状態なのか、年下のきょうだいが生まれたのか、祖父母も一緒に暮らしているのか、といった相違によって家族という社会での相互作用には大きく差異があるでしょう。「きょうだいなのに価値観が全く違う」と言われるケースはむしろ当たり前のことなのかもしれません。

ガイドとモデル

両親やきょうだいといった幼少期に同居していた家族は、私たちに影響を与えるガイドであるという捉え方をサビカス先生はしています。つまり、私たちが一緒にいることを選択したというよりは、所与の存在として私たちに影響を与え、私たちがその環境の中で自分自身の役割を見出していく存在、ということです。

他方で、家族以外の社会において私たちに影響を与える存在をモデルと呼びます。ロールモデルとかのモデルです。家族とは異なり、私たちが選択できる存在です。そのため、サビカス先生のキャリアのワークシートで「あなたにとってのロールモデルは誰ですか?」というような問いがあるのですが、家族を選ぶことはできません。もちろん、両親を尊敬するということはよくあることと思いそのこと自体は大変望ましいことだと思いますが、両親はモデルではなくガイドである、ということをキャリア構築理論は言っているわけです。

ホランド理論の発展的継承

外的な存在としてのモデルの行動を真似してみたり、役割を演じることによって自身のものへと内面化しようと私たちはします。つまり、外界との相互作用によって行動を基にして内面へと影響を与えるという矢印です。この辺りの話は、インサイドアウトではなくアウトサイドインで自身は形作られるとしていた第2回のまとめにも詳しいので気になるマニアックな方はご笑覧ください。

こうした内面化による自己形成をタイポロジーによって支援する存在として、サビカス先生は師匠の一人であるホランドのRIASEC(俗にいう六角形モデル)を有効に活用できるとしています。以前の私自身のnoteでは、ホランドのRIASECがキャリア構築理論にどのように影響したかがわからない、としていたのですが、アウトサイドインによる自己形成のタイプとして用いている、というのがホランドを受け継ぎ発展させたロジックのようです。

ホランドとヴィゴツキー

このnoteはマニアックな内容に終始していますが、最後にさらにマニアックに深掘りします。サビカス先生はアクターの説明の最後に、ホランドを通じてヴィゴツキーを引用するところまで踏み込んでいます。

As Vygotsky (1978) noted, ‘‘There is nothing in mind that is not first of all in society’’ (p. 142). In this regard, Holland (1997) theorized that RIASEC types develop through a child’s preferred activities, which in turn lead to long-term interests and competencies.
(ざっくり和訳)
Vygotsky(1978)は「社会の中に全く存在しないものが心の中に存在することはない」と述べている。この点に関してホランドは、RIASECの六つのタイプは、子どもの好む活動を通じて発達し、それが長期的な興味や能力につながると理論づけている。

p.155

ヴィゴツキーを引用した意図は、ピアジェのような心理構成主義の立場ではなく、ヴィゴツキーの社会構成主義で捉えますよ、と言いたいからでしょう。インサイド・アウトではなくアウトサイド・インだ!という前の部分と整合しているように考えられます。

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