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【論文レビュー】上司のジョブ・クラフティングと部下のジョブ・クラフティングの関連:池田・高尾(2023)

『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』の第6章では、池田めぐみ先生と高尾義明先生が若手社員のジョブ・クラフティング(以下JC)に焦点を当てて論じられています。上司のJCそのものや上司との関係性は若手社員のJCにどのような影響を与えるのか、がテーマです。若手社員が自律的に働くにはどうすれば良いか、という点に興味・関心がある経営者、マネジャー、人事部門の方にとってヒントの多い一章です。

研究上の二つの仮説

本章では二つの仮説を基にして実証研究を行なっています。仮説1は、上司のJCを若手社員が観察することでメンバーは自らもJCを行うようになる、というものです。若手社員は、職位が低いために目の前のタスクに集中せざるを得ない状況で、知識・スキル・経験も相対的に低く、自律的に働くことが難しい環境下にある傾向が多いです。しかし、上司のJCを観察することができれば、工夫のしかたを社会的に学習して自身もJCを行うことができるのではないか、という考え方です。

仮説2は、上司と部下との関係性が良好であれば第一の仮説の影響関係は強化されるのではないか、というものです。学術的な言い方になりますが、上司と部下との関係性はLeader Manager eXchange(LMX)で見ていて、LMXが上司のJC→若手社員のJCを調整するかどうか、を分析されています。LMXについては、以前わりと丁寧に書いたのでご関心のある方は以下をご笑覧ください。

仮説1は棄却

上司のJCがメンバーのJCに影響を与えるという仮説1は、先行研究では支持されていたものの本研究では棄却されています。著者たちの考察としては、コロナ禍におけるリモートワークが影響しているのではないかとされていて、納得的に感じました。先行研究はCOVID-19の感染拡大前に調査されたものであったのに対して、本調査は2021年12月〜2022年1月に実施されたため、若手社員が上司のJCを物理的に観察する機会が少なかったことが想定されます。

仮説2は一部支持

仮説2のLMXについては、人間関係次元では支持され、タスク次元は支持まではされないものの有意傾向が見られ、認知次元では支持されなかった、という結果でした。人間関係やタスクといった観察することができるものについては上司と部下との関係性が良ければポジティヴな影響を与える可能性があり、観察できない認知については関係性は影響しない、と考えられます。

実務的に考えたこと

仮説1が棄却されたことの意味は、実務にとって重たいものがあると感じました。というのも、リモートワークでは、ミーティングでコミュニケーションを取れるものの、上司や先輩社員が結果に至るまでのプロセスにおいて何をしているかがブラックボックスになりがちで、若手社員は周囲の社員のプロセスを真似することが限定的になりかねないからです。

もちろん、リモートワークは業務効率性やウェル・ビーイングにポジティヴな影響を与えるという別の調査結果もあるので多様な働き方に有効であることは間違いないでしょう。他方で、リモートワークによる制約について、マネジャーや人事部門は自覚的になる必要があり、新入社員や中途入社社員といった新規に組織に入ったメンバーの観察学習に大きな制限がかかっているという点には留意が必要でしょう。

重要な補足情報

本章の著者の一人である池田先生ご自身が、JCの概要から本章の要約も含めてまとめておられます。ここまでの文章を読むより、以下をお読みになる方が、若手社員のJCを促すポイントを理解できるのでぜひご一読ください!


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