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【論文レビュー】ジョブ・クラフティングを続けるための周囲の支援:森永(2023)

『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』の第5章では、編著者のお一人である森永先生がジョブ・クラフティング(以下JC)を継続するための周囲の支援というポジティヴな側面と、JCがもたらす副作用というネガティヴな側面に焦点を当てて、質的調査によって明らかにしています。

JCを促進する四つの支援

インタビューは、JCを行っている当事者に加えて、上司、同僚、人事部といった周囲の人々にも行っています。自身および他者へのインタビューの結果として、JCを促進する支援として、①機会提供、②能力開発、③アウトプット支援、④方向づけ支援、という四点が明らかになりました。

①機会提供は、社内FA制度や社内公募制度といった個人のキャリアにおける志向や希望を支援する制度があり、JCを行いやすい職場や部署への配置がなされていることが挙げられています。②能力開発では、短期的な部署における成果につながるものでなくても長期的な成長や革新のために受ける個人の社内外での学習機会を提供することが明らかになりました。③共有支援においては、個人によるJCを個人にとどめるのではなく周囲に情報共有することで個人起点のJCが社内の状況に適合させる作用をもたらすとして考察されています。

これらの三点はJCという行動そのものが起きることを支援するものであったのに対して、④方向づけ支援は、フィードバックなどを通じてJCのやり方への支援です。なお、③共有支援は、行動促進の支援であるとともにやり方への支援にも当てはまると著者はしています。

JCがもたらす副作用

他方で、JCがネガティヴな作用をもたらすときもあり、それらの特徴として三つの「すぎる」行動がインタビューの結果として挙げられています。

第一に、仕事へのこだわりは、自発的なものではありながらも勤務時間が長くなり個人にとっての心身の負担が増加するリスクがあります。第二の仕事の偏りは、自身の好きな領域にエネルギーを割き過ぎてしまい潜在的なのびしろの成長機会を逸してしまいかねません。三つ目の仕事の抱え込みは、現状での特定の業務にばかり集中して、他者の育成機会を失うことに繋がりがちです。

JCを薔薇色のものとして賞揚するのではなく、周囲からの支援によって促したり、副作用に目を向けてリスクに対して事前に対処することが重要と言えそうです。

支援と自律のパラドックス

JCを続けるために支援が効果的であるということはその通りなのでしょう。ただ、JCは個人の自律性に因るものであることに改めて着目するべきです。

個人の自律を周囲が支援するという、ともするとパラドキシカルになる構図を、著者は十二分に理解された上で本章を展開されておられます。実務では、こうした背景を除いてキャッチーな部分のみを捉えてしまう傾向があるので、見過ごさないようにしたいものです。


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