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【読書メモ】『ヒューマンカインド(下巻)』(ルトガー・ブレグマン著)

上巻を読んで先日ベタ褒めしたところですが、下巻も大変興味深い内容でした!なかなか研究領域と離れている書籍を読む時間が取れていないのですが、読書も大事ですね。

善性ゆえの戦争

上巻では人間の持つ善性に焦点が当たり、著者は性善説について語ってきました。下巻では、こうした性善説と矛盾しているようにも受け取れる、戦争という行為に人々が向かう理由について冒頭で描かれます。なぜ人々は戦い合ってしまうのかという疑問に対する理由はシンプルです。

彼らが戦い続けたのは、ナチスの基本思想である「千年帝国」や「血と土」のためではなく、戦友を救うためだったのだ。

p.20


イデオロギーや打算的な理由によって他国の人々と戦うのではなく、自分の友人を守るための行為として戦争で人々は戦闘行為に向かうとしています。つまり、善的な意図が他国に対するネガティヴな行為として外化してしまうという皮肉な結果をもたらすということです。なかなか辛いものがあります。

テロも戦争と同様に友情から

友情が故に戦争における戦闘行為へと人々を向けることは、テロ行為も近いものがあるとしている著者の指摘は読んでいて辛く感じます。私たちは、テロリストとは過激な思想の持ち主であり、エキセントリックな行為を好む異常者として捉えがちですが、そうではないと述べています。

もしテロリストに共通して見られる特徴が一つあるとすれば、それは影響されやすいことだと専門家は見ている。彼らは他人の意見に影響されやすい。権威に影響されやすい。家族や友だちに、正しいことをしていると見られたいし、そう思われることを行いたい。

p.24


テロ行為を行う人もその背景は戦争へと向かう人と似たようなものがあると言えます。それに加えて、他者からの影響の受けやすさや近い人々から認められたいという欲求が強いというような自己肯定感の低さとも言えるものも影響しているようです。

テロというと思想やイデオロギーの強さによる狂信的な集団というイメージを持ちがちです。そうしたイメージはメディアによる報道によって形成・強化されることがままありがちなので、著者のこうした指摘にも傾聴したいものです。

ピグマリオン効果は今でも有効!

上巻では、科学的知見として「正しい」と思われていた仮説がいくつも反証されていました。下巻でもビクビクしながら読み進めていたところ、まずピグマリオン効果は今でも有効だとされています。

 当初、わたしは、一九六〇年代にマスコミを賑わせた多くの実験と同じく、ローゼンタールの実験も、今では誤りが暴かれているはずだと思った。
 それはとんでもない間違いだった。五〇年たった今でも、ピグマリオン効果は心理学研究における重要な知見であり続けている。

p.77

他方で、ピグマリオン効果の有効性とともにその反対にあるゴーレム効果もまた現代でも有効であるとしています。

ポジティブな期待が現実になるのと同様に、悪夢も現実になる可能性があるのだ。ピグマリオン効果の裏面はゴーレム効果と呼ばれる。ゴーレムはユダヤ教の伝説に登場する怪物で、プラハの市民を守るはずが、夜な夜な街を破壊したと伝えられる。ピグマリオン効果と同様に、ゴーレム効果も至るところに見られる。誰かについてマイナスの期待を抱いている時、わたしたちはその人をあまり見ようとしない。その人とは距離をおくだろうし、笑いかけることもない。

p.78

いやはや読んでいて反省させられる内容です。。。

デシの内発的動機づけも有効!

エドワード・デシの内発的動機づけも有効だと著者はしています。ソマパズルの実験(子供はパズルを解くだけで動機づけられるのに、解くことで外的報酬を得るとその後にパズルを解こうとする意欲が低下するという実験)で内発的動機づけが明らかになったものです。

これ自体は良いものの、この内発的動機づけが日々の実践で生かされていないという著者の以下の指摘はどうなのでしょう。

 残念ながら、エドワード・デシの教訓は、日々の実践にほとんど生かされていない。依然として人間がロボットのように扱われることがあまりにも多い。オフィスでも、学校でも、病院でも、社会サービスでも。

p.91

たとえば、内発的動機づけの数年後にはハックマン&オルダムが職務特性理論を提唱し、その後の組織による社員への職務アサインメントを通じた動機づけへと企業において実践へと応用されています。また、個人で職務に工夫を加えるWrzesniewski & Duttonのジョブ・クラフティングも2001年に提唱されて企業の中で取り入れられつつあると言えます。こうした知見があることは企業で働く身としては意識したいものです。


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