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【論文レビュー】ジョブ・クラフティングの先行要因とその効果:細見・関口(2023)

『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』の第8章では、JD-Rモデルのジョブ・クラフティング(以下JC)の主要な先行研究であるBakker et al.(2012)とDemerouti et al.(2015)の二つについて、日本で追試研究したものです。修士時代にオリジナルモデルのJCを用いた質的研究を行ったので、どちらかというとオリジナルモデルに親近感をおぼえてしまうのですが、そのような身でも両論文には目を通していたので、文字通り主要な先行研究と言えそうです。

Bakker et al.(2012)の追試結果

まず結論から言うと、日本での追試によって、Bakker et al.(2012)が提示したSEM(構造方程式モデリング)の分析結果は概ね再現されたとしています。というわけで、元論文の分析結果図を見てみます。和訳するのがメンドイのでそのまま貼りますが、日本語で理解したい方は、本書では著者たちが和訳してくださって掲載しているのでぜひお手元でご確認ください。

Bakker et al. (2012) p.1369

まず、本書では「PP特性」と表記されているものが、元論文では「Proactive Personality」であることが分かります。元論文では、これを測定するためにBateman and Crant’s (1993)のProactive Personality Scaleを用いているようですが、本研究ではMorrison & Phelps(1999)のリスク志向で代替されています。この代替が、結果に影響したかもしれないと著者たちもされているので、研究目線では留意が必要でしょうが、実務目線では概ね整合されたという理解でOKかと思います。

厳密に言えば、日本での追試ではProactive PersonalityからIn-Role Performance(役割内職務行動)への直接効果が認められず、JCとワーク・エンゲージメント(以下WE)を媒介した効果が認められたとしています。というわけで「概ね整合された」というわけです。

Demerouti et al.(2015)の追試結果

こちらも結論から言うと、日本の追試におけるSEMで導き出されたモデルは、元論文での「理論枠組みを概ね支持する結果となっている」(188頁)としています。こちらも、元論文のモデルを添付します。メンドイので和訳は、(以下同文)。

Demerouti et al. (2015) p.92

著者たちは183頁に和訳した図を掲載してくださっているのですが、なぜか元論文にある性差による文脈パフォーマンス(上司評価)への統制効果の記載が除かれています。紙幅の都合なのでしょうが、こうしたことがあるので先行研究を孫引きで留めるのはキケンだなぁと改めて実感しました。

元論文と追試での相違点

元論文と追試での相違についてみていきます。元論文でWEに影響を与えていたのは、構造的資源向上(Seeking Resources)と妨害的要求度低減(Reducing Demands)の二つでしたが、追試では挑戦的要求度向上(Seeking Challenges)でした。また、元論文で生活充実感(Flourishing)に影響を与えていたのは構造的資源向上でしたが、追試では挑戦的要求度向上と妨害的要求度低減の二つです。

全体のモデルは近しいものの、WEも生活充実感という二つの媒介変数に対する矢印の出元が、元論文と追試とで全く異なっているために、著者たちは「理論枠組みを概ね支持する結果となっている」(188頁)という表現をされたのだと推察します。


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