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【論文レビュー】産業保健におけるジョブ・クラフティング:櫻谷(2023)

『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』の第7章は、ジョブ・クラフティング(以下JC)の発揮を促進することでワーク・エンゲージメントにどのような影響を与えるか、に関する介入研究を扱っています。JCをテーマにした研修デザインについても精緻に描いているので、実務家でJC研修の企画・実施を検討している方にとって参考になる部分が多い章と言えます。

ワーク・エンゲージメント

JCと有意な関係があるとされているワーク・エンゲージメントは、日本企業でもエンゲージメント・サーベイで測定されているところも多いのではないでしょうか。ワーク・エンゲージメントは、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」(146頁)であり、①熱意、②没頭、③活力、の三つの側面から構成されるものと言われています。

ワーク・エンゲージメントを測定する英文のオリジナル尺度では、上記の三つの側面がそのまま三つの因子として出てきているのですが、日本語版の翻訳尺度では一因子構造になっていることは過去のnoteで紹介した論文にある通りです。

JC研修のポイント

冒頭でも少し触れましたが、本章はJC研修を企画・デザインする上でのTipsが詰まっている実務家向けの内容が含まれています。JC研修をデザインする際のポイントが第3節で丁寧に書かれているので、JC研修を職場でやる必要がある方は、ぜひ本書を手に取って熟読されると良いでしょう。

私自身がとても参考になった点は、研修の中で、JCを自分は行えるというマインドセットを丁寧に説明するという点でした。研修転移研究では、研修後の「職場で実践できそうだ!」という自己効力感が現場での行動変容に繋がるわけなので、JCという新しい概念に関する抵抗感を下げて、使ってみたいマインドセットを扱うことは大事なのでしょう。研修転移について詳しく知りたい方は、以下のnoteをご笑覧ください。

JC未実践者と若手社員に介入効果が高い!

JC研修を実施するという介入施策の検証として興味深かった点は、効果が出た対象についてです。第一に、これまでJCを実施してこなかった対象者は、研修実施3ヶ月後のワーク・エンゲージメントが向上した、と結論づけています。目の前の仕事で工夫はあまりできないと思っていた方が、研修によってJCを実施してみようと思って試してみると、働きがいが高まるということなのでしょう。

第二に、若手社員(本調査では36歳以下の群)での研修後のJCの実施度合いが高かった、という点も示唆的です。若い社員ほど認知的な柔軟性があり、新しいことに興味関心が強い、という先行研究の知見を理由として著者は掲げています。

どのような対象に、どのようなコンテンツを提供すると効果的か、という点について興味深い事例の紹介のある章でした。


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