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フラ・フラダンス

本当、テレビアニメの劇場版でも、DVD/Blu-rayの販促であるイベント上映でもない劇場用オリジナルのアニメ映画はヒットしないというのを実感する。国内の劇場用オリジナル作品で興収20億円以上が3作品(「君の名は。」、「この世界の片隅に」、「聲の形」)も出た2016年が例外なだけなんだよね。

細田でも新海でもない、ディズニー・ピクサーやイルミネーションなど海外勢でもない劇場用オリジナル作品なんてほとんどヒットしないのに、2016年の大成功の味を忘れられずに次から次へと劇場用オリジナルのアニメ映画が公開されている。

細田・新海、海外勢以外でヒットした作品を見てみると、2017年はそれでも、「メアリと魔女の花」と「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の2作品が興収15億円以上のヒットになっているが、2018年と19年はゼロ。20年公開作ではマルチ商法まがいと批判された集客で話題になった「えんとつ町のプペル」がヒットしただけ(年間チャート的には21年度対象作品)。今年になってもその傾向は続いている。

今年下半期に公開された主な劇場用オリジナルのアニメ映画で自分が見たものは以下の通りだ。

7月
竜とそばかすの姫
サイダーのように言葉が湧き上がる
8月
岬のマヨイガ
10月
神在月のこども
アイの歌声を聴かせて
11月
サマーゴースト(日本アカデミーの審査対象となる上映時間ギリギリの40分の作品だが)
12月
フラ・フラダンス(本作)

ほぼ毎月のように劇場オリジナル作品が公開されている。
しかし、このうちヒットしたといえるのは(興収10億円以上)、細田作品の「竜とそばかすの姫」だけだ。
この作品は、邦画・洋楽、実写・アニメ問わず、今年の日本の映画興行で3番目に大きなヒット作品となっているので、かつてのジブリ映画のポジションを細田作品および新海作品が担うようになっていると言っていいのではないだろうか。

「竜とそばかすの姫」以外の作品が凡作とか駄作かというと、そうでもないんだよね。どちらかといえば、名作とか傑作とはいかなくても、良作とか快作と呼んでもいい出来だと思う。

というか、ぶっちゃけ、このラインナップの中で一番の凡作は「竜とそばかすの姫」だと思う。

でも、これらの作品はヒットしないんだよね。本作だって公開2週目にして上映回数が大幅に削られてしまっているので、見に行く劇場を探すのに苦労したくらいだ。

ヒットしない理由は明白だ。

製作陣が一般層にアピールするために本業でない声優をメインキャストに起用するケースが多いからだ。
ジブリ作品もうそうだし、細田作品や新海作品もそうしたキャスティングで成功しているから、“あの夢よもう一度”的な感じでそうなるのも仕方ないことなのかもしれない。
上記掲載の下半期公開の主な劇場オリジナルのアニメ映画は全ての作品で主要キャストに本業でない顔出しの俳優などが声優として出演している。

個人的にはアニオタが何かというと、本業でない人が声優を務めるとブーブー文句をいう風潮は好きではない。だったら、声優の歌手活動も批判すべきだと思うしね。

声優の歌手活動は同じ喉を使う仕事だから問題ないと擁護するなら、実写作品に出ている俳優が声優仕事をするのだって同じ演技なんだから問題ないんだよね。それから、何かにつけて本業でない人の声優演技は下手だから認めないと言う人もいるが、歌手活動をしている声優で人気がある人の中には、単にアニメ声で歌っているだけの人や、お世辞にも上手とは言えない人だって結構いる。
だから、アニオタ連中の批判は無視していいと思う。でも、アニオタを動員しなければヒットできないのも事実なんだよね。

細田や新海はブランドとして定着したけれど、アニオタでない一般から見ると、こうした劇場用オリジナルのアニメ映画の画柄は深夜アニメのように見えるんだよね。
一般層にはオタクっぽいキャラデザ、ストーリーと思われているのに、一般層に向けて非本業声優を起用したって効果は薄いんだよね。

「劇場版 鬼滅の刃」や「シン・エヴァンゲリオン」は本業声優だけでヒットしたし、「コナン」や「ドラえもん」、「クレしん」、「ポケモン」などファミリー向け定番アニメの劇場版はゲストキャラに非本業声優を起用するにとどめている。でも、これらの作品はヒットしているわけだからね。
結局、人気俳優やアイドル、芸人をメインキャラの声優に起用しても興行収入のアップにはつながらないってことなんだよね。

だったら、オタクに目を向けた方が興行収入はアップすると思うんだけれどね…。

実際に作品を見た感想としては、まぁ、ディーン・フジオカとか山田裕貴はアニオタでなくても批判したくなるレベルだった。
そして、さらに酷かったのが富田望生だ。実写作品では名演技を見せているのにね…。まぁ、声優演技が向いていないんだろうね。

その一方で、“専業”声優でない人でも好演していた人がいた。

主人公役の福原遥の声優演技は安定していたと思う。彼女は最近、女優という肩書きで紹介されることが多いが、声優を目指す女子たちを描いた深夜ドラマ「声ガール!」に出ていた頃は、女優で声優もしくは声優で女優みたいな肩書きになることが多かったしね。ただ、誰が聞いても福原遥と分かる演技なのはどうかなとは思ったが。

先輩ダンサーを演じていたでんぱ組.incの相沢梨紗は前情報なしで見れば彼女だと分からない人が多いのではないかと思う。まぁ、彼女はこれまでにも声優仕事をコンスタントにしているし、元々、声優オタクだから、声優業に対する研究もしっかりしているんだろうなとは思うかな。

本業の声優に関しては、“アノ人を使っておいて、あの程度の扱いなの?”ってのが多かったかなとは思った。

主人公の幼少時代を演じた東山奈央なんて、ほんのちょこっとしか台詞がなかったしね。
主人公の亡くなった姉役の早見沙織は憑依したマスコットキャラクターのぬいぐるみとしての演技を含めれば、そこそこの出番はあったけれど、生きていた時代の生身の人間、もしくは憑依から解かれた後の霊体としての台詞はそんなにはなかったかな。そして、終盤の感動的な妹とのシーンで彼女が“アロハ〜”と言う際のイントネーションが胡蝶しのぶにしか聞こえなかった。

ところで、この手の東日本大震災を題材にした作品って、映画の「護られなかった者たちへ」にしろ、朝ドラの「おかえりモネ」にしろ、本作と同じフジテレビとアニプレックスが組んだアニメ映画である「岬のマヨイガ」にしろ、そうなんだけれど、大震災を題材にしながら、発生の瞬間を描かないものが多い。

わずか10年前のことであり、家族や同僚、同級生などを失った人も多いし、生き延びていてもその際に負ったケガの後遺症に悩んでいる人だっている。
そういう人がPTSDを発症しないようにという配慮なのかもしれないが、個人的には、そういう配慮をするなら、東日本大震災を題材にするなよって思う。
本作は一瞬だけれど、大震災が発生した瞬間も描かれていたし、それで姉が命を落としたことにも言及されていた。その点は評価できると思う。

でも、登場人物が安易に“震災”って言い方をしているのはやっぱり気になるよね。

別にそういう言い方をする登場人物が出てくるのは本作に限ったことではないし、先述した「岬のマヨイガ」でもそういう言い方はされていた。
それどころか、ニュース番組やワイドショーなんかでも、平気でキャスターやコメンテーターが“震災”という言葉を使っている。

でも、それって東日本大震災以外の地震は“震災”ではないって言っていることになるんだよね。

東日本大震災のわずか16年前に発生した阪神大震災を過去のものとして風化させるどころか、東日本大震災の5年後に起きた熊本大地震ですら大したことないと言っているようなもので、本当にこの言い方は好きになれない。
というか、震度1の地震で棚から皿が落ちて割れても“震災”だと思うしね。

作品自体に関しては、深夜アニメって感じだった。まぁ、フジテレビは今回、東日本大震災関連のアニメ作品として、劇場アニメ2作品(本作と「岬のマヨイガ」)と深夜アニメ枠のノイタミナで放送するテレビアニメ1本を作ると発表していたので、本作の画柄にしろ、ストーリーにしろ、ノイタミナっぽいテイストなのは当然なんだけれどね。現実の話に突然、ファンタジー要素が入ってくるところなんて(本作でいえば姉が憑依したぬいぐるみ)、いかにもノイタミナって感じだしね。

だから、尚更、2時間にも満たない尺の映画として完成させるよりかは、12〜13話のテレビシリーズとして描いた方が良かったんじゃないかなって思うんだよね。主人公以外の同期メンバーや姉、姉と同期の先輩ダンサーなんてあたりにクローズアップしたエピソードとかがあれば、個々のキャラに対する感情移入度も増すしね。

あと、国際感覚をアピールしているフリして、前近代的、保守的、差別的なのもフジテレビ的って感じかな。

同期の中に太ったメンバーやハワイ出身のメンバーがいるのは、ルッキズムとか人種差別の問題に配慮した最近の海外エンタメ作品ではおなじみのポリコレ要素だと思う(太ったメンバーに関しては、同じスパリゾートハワイアンズを題材にした映画・舞台の「フラガール」にも出てきたが)。

でも、その太ったメンバーの体型いじりがあったり、外国出身メンバーのみを呼び捨てにしたりと(=人種差別)、主張しているテーマとやっていることが合致していないんだよね。
その辺が本当、フジテレビらしいって感じ。フジテレビのワイドショーって、平気で日本人のみに敬称をつけ、外国人は呼び捨てにするってことをやっているからね。

他局は原則として何人だろうと全て敬称をつけるか、あるいは、外国人しか出てこない話題の時には全員呼び捨てにするけれど、同じ話題に日本人と外国人の両方が出てくる場合は両方に敬称をつけるという形で放送している。
でも、フジテレビは同じ話題の中でも日本人のみに敬称をつけるという報道をしているからね。

本当、そういうフジテレビのクソなところもよく描かれていた作品だと思う。

そういえば、半年に1回の査定で上期終了時点で最下位だった主人公が、次の査定(3月末)では頑張ると言っていたが、この結果ってどうなったんだ?なんか、同期5人で大会に出場してダメだったことを描いて満足してしまったのか?それとも、5人が一致団結したんだから、5人の中で誰が上で誰が下かを争うのは意味ないでしょってこと?

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ところで、主題歌“サンフラワー”を歌っているフィロソフィーのダンスだが、ちょっと前まではドルオタ以外にもアピールできるような楽曲を歌う楽曲派アイドルとか、本格的なダンスを披露するグループなどと呼ばれていたけれど、前のシングル“ダブル・スタンダード”がテレビアニメ「魔法科高校の優等生」のED曲となっていて、アニメ仕事が続いているが路線変更か?

去年、メジャーデビューを果たしたことによって達成すべき売上枚数とかの基準が上げられたので、楽曲派とか本格的なダンスなんて言っている余裕はないってこと?それで、とりあえず人気上昇のきっかけになりやすいアニメタイアップに力を入れ出したって感じか?

《追記》
フラダンスという言葉遣いに関しては、フラというハワイの言葉の中に踊りの意味が込められていることから、間違った言い方だとよく言われている。
チゲ鍋なんて言い方もそうだけれど、要は頭痛が痛いと同じ誤用ってこと。
まぁ、日本の地名の英語表記は相変わらず、おかしな“○○通りストリート”とか、“△△寺テンプル”とか、“×︎×︎川リバー”なんてやっているけれどね。

なので、本作のタイトル「フラ・フラダンス」なんて気になって仕方なかった。フラダンスだけでもダブっているのに、さらにもう1回、フラがつくのかよって感じだしね。

おそらく、主人公が踊りがヘタでフラフラしている(しかも、メンタル面や進路の面でもフラフラ)という親父ギャグ的なネーミングなんだろうけれどね。

でも、タイトルの英語表記を見ると、Hula Fulla Danceとなっている。
つまり、中黒より後のフラダンスは踊りという言葉を繰り返す誤用の言い方であるフラダンスではないようだ。どういう意味なんだろ?

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