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アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

日本と同じ週に公開された世界130以上の国と地域で本作が映画ランキングで首位に立たなかったのは日本だけというのは映画ファンとしてかなりの衝撃だった。しかも、3位だからね…。公開3週目の「THE FIRST SLAM DUNK」に首位の座をキープされただけでなく、公開6週目の「すずめの戸締まり」にも2位に居座られたわけだからね…。

日本の映画ランキングは世界で主流の興行収入ではなく観客動員数で発表されているので、どうしても学生料金や小人料金の観客が多いアニメや特撮ものが上位に入りやすくなる。洋高邦低だった80〜90年代でも「ドラえもん」などテレビアニメの劇場版がランキング上位に入ることが多かったのはそういう理由だ。

でも、今回は違う。興収ベースで見ても本作はかろうじて2位とランクを1つあげているだけで、首位は変わらず「THE FIRST SLAM DUNK」だ。
本作の興収のかなりの部分が3DやIMAXなど高額料金の特殊上映によるものであることを考えると大敗北と言っていいと思う。

要はライト層の観客の話題になっていないのだ。

前作の時点でも日本では「アバター」というコンテンツはそれほど盛り上がっていたわけではなかった。同じジェームズ・キャメロン監督作品である1997年の「タイタニック」は世界興収22億ドル、日本の興収262億円(当時は配収発表だったので興収換算した数値)に対して、2009年の「アバター」は世界興収は29億ドルと大幅にアップしたのに、日本の興収は156億円と6割程度の数字しかあげていない。

その背景にあるのは日本人のCG嫌いにあることは間違いない。「アバター」の登場人物の多くは役者をモーションキャプチャーしてCG処理したものなので受け入れられなかったのだろう。
アニオタと呼ばれる連中はCGによる作画を毛嫌いしていて、いまだにCGによる作画は手抜きと思っているのが多いが、世界的にはCGアニメーションが主流となっていて、一般の観客は手描きアニメはダサい、古臭いと思っているのが現状だ。

アカデミー長編アニメーション賞でCGでない作品が受賞したのはたったの2回しかない。日本の手描きアニメ「千と千尋の神隠し」と英国のクレイ・アニメーション「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」だけだ。CG以外の技術とのハイブリッドである「スパイダーマン:スパイダーバース」を含めても3本にしかならない。

また、新しい技術を受け入れられない老害思想の者というのは一般的には右寄りであり、こうした人たちは環境保護とか人種差別、障害者差別といった問題を扱った作品を毛嫌いする傾向が強い。そうしたテーマをストレートに扱った作品をそうした老害が好むわけがないんだよね。

つまり、そんな老害思想によって日本で「アバター」は過小評価されていたということだ。

とはいえ、確かに世界と比べると物足りない数値ではあるが、前作は興収156億円を記録した。これは歴代では12位。実写作品限定では5位。洋画でも5位となる立派な成績だ。

大ヒットとなった背景にあるのは言うまでもなく3D技術のおかげだ。
昔の赤と青のセロファンのメガネをかけていた時代はさておき、現在のシステムの3D上映が2000年代に復活してからの洋画作品は字幕がきれいに映写できないという理由で吹替版のみの上映のことが多かった。

しかし、技術が進んだおかげで字幕版でも上映できるようになったことから、劇場で吹替版を見ることを嫌う洋画ファンが劇場に駆けつけヒットに繋がったのだと思う。

ただ、その後、3Dブームは長続きしなかった。
それは、現在の立体映像というのがセロファンのメガネの時のような飛び出すものではなく、奥行きを重視したものであるからだ。
日本人には視力の悪い者が多いし(自分もそうだが左右の見え方が違ういわゆる乱視の人も結構いるようだし)、日本のシネコンは小さいスクリーンも多い。
だから、日本人は現在の3Dシステムで上映された作品を見ても立体感を得られなかったのだと思う。
もしかすると、人種によって目の大きさや色が違うことも影響しているのかなと思ったりもしたが、中国の大作映画やCGアニメーションは相変わらず、3Dで上映されているようだから、視力と映画館の大きさというのが大きな要因だと思う。

自分も3D上映は避けていたクチだ。今回の「ウェイ・オブ・ウォーター」は去年の秋にリマスター版として再上映された前作を除くと、実に「ドクター・ストレンジ」以来、6年ぶりに見た3D映画となったくらいだしね。

それから、前作は20世紀フォックス配給だったが、その後、フォックスはディズニー傘下となり、スタジオ名も20世紀スタジオと変わってしまった。
そして、コロナ禍になってディズニーはDisney+での配信事業に注力するようになったことから、日本では映画館、特に東宝・東映・松竹の邦画3大メジャー系のシネコンがディズニー映画上映の際に力を入れなくなり、若者を中心にディズニー映画は配信で見るものとなってしまった。
それは、ディズニー本体のアニメーションだろうと、ピクサー作品だろうと、マーベル作品だろうと、旧フォックス系の作品だろうとそうだ。

そう考えると、「ウェイ・オブ・ウォーター」の現時点での日本での興収はコロナ禍に入ってからのディズニー配給作品としては最高の25億円だから、現在の国内のディズニー映画市場から見れば、十分、大ヒット作品なんだよね。ただ、海外の成績と比べると大コケと言わざるを得ないんだけれどね。

また、日本での興行成績が伸び悩んでいる背景には3時間12分という上映時間の長さもかなり影響していると思う。

音楽の世界では、イントロや間奏の短い曲、それどころか総尺の短い曲が好まれるというのはストリーミング時代に入って世界共通で起きている現象だ。日本でも去年、ネットニュースやワイドショーでこの現象が大きく報じられた。

ところが映画になるとこの現象は世界共通にはならない。日本では、録画したものを見たり、配信サービスを利用する際に映画やドラマ、アニメを倍速視聴したり、場合によっては違法にアップロードされたダイジェスト版動画を見て作品を見たことにしている人が若者を中心に増えている。

ところが、海外、特にハリウッドの大作映画では長尺作品が最近増えている。この背景としては、日本人はエンドロールまできちんと見る人が多いとか、途中でトイレなどで退席するのは制作者や他の観客に対して失礼だという考えが浸透しているからというのもあるとは思う。

でも、最大の要因は、日本社会が今流行っているもの、みんなが面白いと言っているものを見なくてはいけないという同調圧力が強いことではないだろうか。
配信サービスが次から次へとローンチされ、話題となる作品も増えている。映画だって、国産のアニメやキラキラ映画を中心に次から次へと新作が公開されている。だから、2時間半とか3時間とかあるような作品をじっくり見ている余裕がないというのが本音なのではないだろうか。

というか、そもそも、邦高洋低の興行になって久しいというのもある。この傾向は2000年代前半からあったが、「劇場版 鬼滅の刃」に抜かれるまで長らく日本の興行記録樹立作品だった「千と千尋の神隠し」が公開された2001年夏は、「A.I.」、「パール・ハーバー」、「ジュラシック・パークⅢ」、「猿の惑星」、「ハムナプトラ2」という洋画の大ヒット作品が目白押しだった。
いまだに実写日本映画最大のヒット作品となっている「踊る大捜査線 THE MOVIE 2」が公開された2003年夏には「マトリックス・リローデッド」、「ターミネーター3」、「パイレーツ・オブ・カリビアン」、「チャーリーズ・エンジェル フルスロットル」といった米国作品のみならず、中国映画の「HERO」まで大ヒットとなった。

だから、日本人が洋画に対する興味を失ってしまったのは2000年代後半以降ということになる。
そうした状況からすれば、本作の興収25億円というのは立派な大ヒットなんだと思う。

ただ、内外格差がありすぎるから、大コケにしか見えないんだよね…。

そんなわけで、やっと見ることができた。足を運んだシネコンでは最大スクリーンが「名探偵コナン」の総集編映画にあてがわれているし、2番目に大きいスクリーンは12月以降ずっと観客動員数ランキングの首位に立っている「スラムダンク」を上映している。そのため、このシネコンで2番目に小さいスクリーンで本作を見ることになった。一応、3D上映ではあるが、IMAXでもHFR上映でもないので、そんなに満足度の高い上映環境ではなかった。

前作から13年経って3D映像の技術は進化したか否かという点については、水面が映るシーンについては確実に前作よりもすごい技術だというのは実感できた。しかし、それ以外のシーンに関しては鑑賞したスクリーンが小さいということもあり、そんなに満足度の高いものではなかった。

内容に関してはネトウヨ老害が反日映画とか騒いでいるが、そうした要素はほとんど感じられなかった。クジラのような生物を乱獲する集団の船に日本語と思われる文字が書かれていると連中は騒いでいたが、小さなスクリーンで見た自分には分からなかった。この老害どもは、嫌いなCG作品をわざわざ、料金が高いIMAX上映で見たのか?

それから、乱獲する集団の中にアジア人がいるのは日本批判のためだとか言っていたが、アジア人っぽいのが映ったのはわずかな時間だし、この一味のほとんどは白人なんだけれど、それのどこが反日映画なんだ?このネトウヨ老害どもは本当に本作を見たのか?捕鯨批判っぽいシーンがあるという情報だけで見もせずに、“反日ガー”と騒いでいるだけでしょ。
というか、作品の環境保護メッセージがツッコミどころ満載だった。クジラのような生物に刺さった矢のようなものを取ってあげるのはいいんだけれど、その取ったものを海底に捨てちゃダメでしょ!

ツッコミどころといえば、主人公ジェイクは完全に青い種族になってしまったし(しかも出番は激減)、前作の敵役でジェイクとの戦いに敗れ死んだ大佐は、大佐の記憶や人格を植え替えられた青い種族となって登場する。
どちらにしろ、アバターではないよね。自分の分身ではないからね。ジェイクも大佐も青い体が現在の本体なんだしね。

ただ、マイノリティ問題に関しては結構しっかりと描いていたと思う。
青い種族が有色人種のメタファーであることは言うまでもないが、本作ではマイノリティ間でも差別があるという描写がされていた。

水の種族がジェイクら森の種族を見下したり、青い種族と人間のハーフであるキリや元人間のジェイクの子どもたちに対して差別的発言をしたり、片ヒレが短いクジラのような生物を毛嫌いしたりするのはそうした現実社会でも有色人種間で差別があるということを描いているのだと思う。

自分たちは差別されていると主張する黒人がアジア系を見下したり、同性愛者をバカにしたりしているが、そういうのを青い種族の世界で表現したようにも感じた。

それにしても、今回の続編における可愛いヒロイン的存在のキリを演じているのが73歳のシガニー・ウィーバーとはね…。ビックリだ!

とりあえず、長尺ものだけれど尿意や睡魔に襲われず、何とか乗り切ることができた。可もなく不可もなくって感じかな。


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