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アリスとテレスのまぼろし工場


岡田麿里作品のイメージは、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」などのユニット、超平和バスターズ名義のものも含めて、一般的にはこんな感じだろうか。

社会に馴染めない若者たちを中心にしたドロドロとした人間関係を描いているが感動する。
若者たちを中心とした話だがノスタルジックな要素が多いため中年にも支持される。

それにプラスして、日常生活メインの話なのにファンタジー要素が入り込んでいたり、性的な描写があったり、権力(大人)に対する抵抗が描かれていたりとというのも岡田マリー作品の特徴と言っていいのではないだろうか。

そういう観点からすれば本作は間違いなく王道のマリー作品だ。

ただ、いつものマリー節とは若干異なるテイストもある。それは、本作が時代に合わせて思考や生き方を変えられず、どんなに悪政を続けていても自民党を支持し続けるアホな日本人を批判するものなのか、それとも、ネトウヨ的思想から日本人なら変わらなくていい、下手にリベラルや左派に政権を任せて失敗するくらいならどんなに問題だらけでも半永久的に自民党政権で良いと主張する作品なのか、テーマが定まっていないからだ。

少なくとも、超平和バスターズ名義の作品、「あの花」や、「心が叫びたがってるんだ。」、「空の青さを知る人よ」、そして、マリーの初監督作品である「さよならの朝に約束の花をかざろう」では、時代に合わせて変わろうとしない大人は悪役に近い存在として描かれていたし、変わりたくても変われない大人に関しては苦悩する姿も描かれていたように思えたが、本作に関してはそういう描写が少ないように感じた。



というか、本作の比較対象はこれまでのマリー作品ではなく、宮﨑駿の最新作「君たちはどう生きるか」なのではないかという気がする。

「君生き」ほど退屈な作品にはなってはいないが、言いたいことは同じだと思う。要は思春期の若者がこれまでとは異なる環境で生活せざるを得なくなった時に、若者がそれにどう適応していくかという話だ。そして、そのメタファーとして、若者は現実とファンタジー、二つの世界を行き来することになるというものだ。「君生き」という新作どころか、「ふしぎの国のアリス」などの古典的作品でもおなじみの作劇法だ。

「君生き」や「アリス」との相違点と言えば、これらの作品では現実世界の少年少女がファンタジーの世界に迷い込むのに対して、本作ではファンタジーの世界に生活する人間が実は自分たちの世界が現実世界ではないと知るというところくらいだろうか。

もっとも、自分たちが住む世界に異変が訪れているが、それはその世界が実は現実世界ではないからだということを登場人物たちが悟るという作品なんて、「マトリックス」や「アザーズ」をはじめとして山程ある。

そういう意味でも決して目新しい作品とは言えないと思う。

ただ、中盤くらいまではそういう作品とは気付きにくいように展開しているので、先が読めない作品として楽しむことはできた。

もっとも、二つの世界を比較した作品だと分かってからは先が簡単に読める展開になってしまい、そこからはちょっと退屈に思えてきたのも事実だ。

なので、マリー作品としては満足度の低い作品と言わざるを得ないとは思う。



それにしても、このタイトルってネタバレでは?

あと、製鉄所の事故以降、動きを止めたコミュニティが本作では描かれているが、それって、東日本大震災の福島第1原発事故がモチーフになっているのでは?それにプラスして、経済的にはこの30年間ほど成長を止めてしまい、思想的には後進国になった日本のイメージを重ね合わせているようにも思える。本作の時代背景がおそらく90年代初頭となっているように見えるのも失われた30年を描いているからなのではないかと思う。

その停滞や後進国化の原因は明らかにこの期間のほとんどの時期に政権についていた自民党にある。悪夢の民主党政権というが、確かに彼等はど素人で世間知らずだったのは事実だ。しかし、民主が政権を担っていたのは停滞した三十数年のうちのわずか3年だし、民主党以外も含めても自民でない政党が政権を担っていた時期はわずか4年しかない。つまり、日本経済が停滞し、後進国化した原因のほとんどは自民にある。でも、国民は何故か、その原因を作った自民を支持し続けている。そういうメッセージが込められているようにも感じた。そう考えると、本作はやっぱり、これまでのマリー作品同様、反権力スタンスの作品なのかな?



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