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繰り返し観たくなる、映画『フィッシュストーリー』を勝手に解説!

大人気作家・伊坂幸太郎氏の『マリアビートル』が、ハリウッド制作で映画化されるという。ブラッド・ピット主演だ。映画化された伊坂作品は数多いのだが、今度はハリウッド。期待もあるが裏切らないでと願いつつ、今日は過去に映画化された伊坂幸太郎作品を振り返りたい。

中でも、原作との好相性が際立つ中村義洋監督作品は要チェックだ。今回はちょっとクセのある『フィッシュストーリー』を紹介しようと思う。


▼映画『フィッシュストーリー』はこんな話し

この映画は決してメジャー路線ではない。凝り過ぎている。なのにラストの強烈なカタルシスと爽快感の感動で、2度3度と繰り返し、最初から確認するように観たくなる。そんな構成と演出の妙がとことん味わえる快作なのだ。

ざっくりいえば9割が物語の伏線で、ラストの1割でそれが明かされるという構成。

まずは物語の紹介を。
2012年、地球はあと5時間で彗星衝突による滅亡の運命に瀕していた。もはや終わりかと思われたときに現れた、1人の天才数学者に最後の望みが託される。

この救世主が現れる運命は、すでに決まっていたのか? その秘密はかつて人知れず解散したパンクバンド「逆鱗げきりん」の、最後のレコーディング曲「FISH STORY」が握っていた─。

*著作権の関係上、現存する予告編動画の
掲載を控えました。
予告編映像は上記のリンク「GYAO」の
サイトでご覧いただけます。

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『フィッシュストーリー』2009年制作
112分 / 監督:中村義洋 / 脚本:林民夫
出演:伊藤淳史・高良健吾・多部未華子・
濱田岳・森山未來・大森南朋


▼謎が解き明かされる快感─物語構造の面白さ

この映画は、「年代が違う世界」の短編が次々展開されるオムニバス形式になっている。そのどれもが、クライマックス直前で終わるのだ。どの短編もコミカルでスピーディーな展開だが、見慣れていない人は混乱するかもしれない。

最初の短編は、地球滅亡まで5時間を切った2012年の世界。

次の短編は、気弱な大学生男子が、勇気を振り絞って暴漢されそうな女性を救おうと立ち向かう1982年の世界。

次は、修学旅行中にフェリーに残された女子高生がシージャックに遭い、1人の青年に助けられる2009年の世界。

そしてパンクバンド「逆鱗げきりん」が、「FISH STORY」という曲をレコーディングして人知れず解散する1975年の世界。

最後は、2012年の彗星衝突までわずかとなった世界に戻る。この終盤戦で、これまでの短編全てが繋がる壮大な事実が明かされる!


*Victor Entertainmentチャンネルより

▼小説とは違う、映像ならではの面白さ

映画『フィッシュストーリー』が初めてWOWOWで流れた当時、中村義洋監督と気弱な大学生役で出演した濱田岳の対談も同時放送された。

そこで中村監督は、ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』(`99)や『アンブレイカブル』(`00)のように、伏線を繋げて最後に解き放つ構造にしたかったと語っている。

その言葉通り、『フィッシュストーリー』は各短編で伏線が張りに張られ、ラストの数分でこれまでの謎が一気に明らかになるという構成に仕上がった。

中村監督は原作の行間を巧みに読み取り、映像ならではの展開を生み出したのだろう。ストーリーの改編はしているが、原作の空気感にはきちんと寄り添っている。このさじ加減が絶妙にうまいのだ。原作の世界観を壊さないことで、映像版サイドストーリーを確立させたのである。

そんな中村監督に、原作者の伊坂氏も厚い信頼を寄せているようだ。『映画音楽太郎主義 サウンドトラックの舞台ウラ』岩代太郎著)には、原作権をめぐる面白いエピソードが書かれている。

中村監督が伊坂幸太郎原作を初めて手掛けたのは『アヒルと鴨のコインロッカー』(`07)である。映画製作業界において伊坂原作は人気が高く、他の監督も多数映画化している。中村監督が次に何か撮りたくても、作品のほとんどの原作権は他社に取られていた。

そんな中、『フィッシュストーリー』ならまだ空いていると、原作者である伊坂氏の方から中村監督に話しがあったそうだ
原作者と映画監督の信頼の中、映画『フィッシュストーリー』は生まれたのである。

映画を観ると、原作が読みたくなる。原作を読むとまた映画が観たくなる。映画は何度も観たくなる。観るごとに面白い発見があるからだ。


▼斉藤和義サウンドが弾ける物語世界

そしてもうひとつ、この映画に欠かせない大事な要素がある。
それは物語の世界観を決定している要素、音楽である。音楽が物語世界とシンクロし、音楽と共に感情が弾ける。

音楽プロデュースの斉藤和義氏は、伊坂幸太郎作品の映画音楽を多数手掛けている『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』を始め他もそうだが、原作世界との相性は抜群に良さそうだ。
繊細で、大胆で、切なくて楽しくて、郷愁感の入り混じった多くの楽曲が、物語世界に息吹を与えた。むしろ斉藤和義ワールドをとことん楽しむ映画と言っても過言ではない。

物語が音楽に寄り添い、音楽が物語を包み込む。斉藤和義サウンドは、物語という体を構成する細胞のような存在なのだ。



▼ここから先はネタバレを匂わす要素あり。未視聴の方はご注意▼

▼MV風の演出で、時空の繋がりを一気見する

すでにこの作品を観られた方なら、ラストの爽快感と痛快さを十分感じられているだろう。

それぞれの短編が終わり、最後に物語は2012年の世界に戻る。もはや彗星衝突寸前となった地球だが、ここで全ての謎が解き明かされる。
ここまでの短編の無関係な出来事は、地球を救う断片として少しずつ繋がっていたのだ。

その数奇な運命が、『FISH STORY』のミュージックビデオ風カット繋ぎでスピーディーに展開する。セリフはない。まさに音楽と映像が織りなす、走馬灯を眺めるようなドライブ感。息もつけないカタルシスに、しばし呆然となるだろう。

▼エンドテロップでも気を抜かないで

謎が解き明かされると、勢い続きでエンドテロップが流れ出す。でもまだ油断してはいけない

出演者の役柄を、注意して見て欲しい。例えば、レコード店の店長は誰なのか。
過去と繋がる現在、そして未来に続く繋がりに、より感慨深くなるだろう。

「FISH STORY」に込められた思いは、時空を越えて未来へと繋がった。これはひとつのバタフライエフェクトだ。

「現在」は「過去」の思いが積み重なって出来ている。「未来」も「過去」と地続きだ。「思い」はまっすぐ届かないかもしれない。でも誰かの何かに、いつか、少なからず影響を与えるに違いない。



●欄外記●
伊坂作品『ゴールデンスランバー』を紹介されている1980さんの記事がある。そのコメント欄で『フィッシュストーリー』をお勧めさせていただいたのだが、1980さんはありがたくも同作をご覧になり、感想を上げてくださった。ありがとうございます。


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