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「木綿のハンカチーフ」、悪いのは男なの?

気がついたら口ずさんでいる曲ってありませんか。
料理や掃除中、お風呂の中とかで知らず知らずに。

私はあります。
高頻度で『赤いスイートピー』と『木綿のハンカチーフ』なんですよ。
曲そのものが好きというのはありますが、物語世界に没入しやすい。
特に『木綿のハンカチーフ』は思い入れが抜群です。
1975年の太田裕美のヒット曲です。

歌は4番まであって、見事にひとつの物語が終結している。
故郷の田舎と、遠く離れた都会で暮らす恋人どうしの歌です。
作詞は松本隆
ちなみに『赤いスイートピー』も手掛けた松本隆は、ヒット曲を次々と生みだし、歌謡界の一時代を築き上げました。松田聖子が24曲連続オリコン1位をとった曲の中、なんと17曲が松本隆の作詞だったりしますから(wikiより)。

『木綿のハンカチーフ』はオリジナルよりも、エレカシの宮本浩次や橋本愛のカバーで知っている人も多いでしょう。



ポップな曲想 ✖️ 恋の破局

歌詞は面白い構成で、男の気持ちと彼女の気持ちが呼応するように流れていきます。
でもよく聞くと、ふたりはまったくすれ違っているんですね
都会に出た男は、故郷に残してきた彼女のことをどんどん忘れて行く。そんな様子が歌になっています。
最後はもう、「故郷には戻らないよ」ってトドメを刺す。

こんなにつらい歌詞なのに、曲は軽快な8ビートのポップなメロディ。筒美京平のセンスです。不思議なくらい明るくて、しかも太田裕美の可愛くて透明感のある歌声で、晴れ模様が似合う曲なんですよ。

リズミカルな曲想のせいか、聴いてるだけじゃちょっとせつなくなるくらい。
だけど自分で歌うとダメですね。情景が鮮明に浮かぶから。4番まで歌い終わると、掃除中だろうが料理中だろうが泣いてしまう。

ああ、男は故郷に置いてきた恋人なんか忘れるんだ。都会の色に染まって捨てられるんだって、やるせなくて仕方ない。


口ずさんで気づいてしまう、気持ちのすれ違い

曲のノリがいいから、私、何度も何度も口ずさむんですね。無意識に。
明るい曲だと余計悲しくなるんです。

こんなに歌っているから、まあ、いい加減気づくわけですよ。

これは男も悪けりゃ、女も悪いわと。
いや、どっちも悪くない。このふたりは別れるべくして別れたんだと。

やるせない。せつなすぎる。むしゃくしゃしてまた歌って泣く。
そして最後、「なんやねん、この名曲は」って必ず呟く。
もはや独り言の決め文句になりました。


*Sony Musicの公式YouTubeチャンネルより転載↑



『木綿のハンカチーフ』、男と彼女の物語を追う

歌詞を掲載できればいいのですが、著作権の関係でできません。
ですので、ここでは歌詞の物語世界を追ってみます。

(歌詞はこんな物語)

地方の片田舎、ふたりは幸せな恋人どうしだった。
でも今日、男は都会へ旅立っていく。
夢を追いかけ、新しい仕事を目指して意気揚々と。
故郷には、彼女がひとり残された。
男は夢を追いかけながらも彼女を想う。
せめて自分の代わりにと、遠くから贈り物をするしかない。
彼女はそんなものは欲しくなかった。
男に帰ってきてほしい。そう思いながら待つしかなかった。

会えない日が積み重なる中、男は都会暮らしを謳歌していた。
都会の毎日が楽しくて仕方ない。彼女のことなど忘れていた。
そして男は思ってしまう。もう故郷へは帰らないと。
愛する人よ、どうかどうか許して欲しいと。

彼女はもう、待つことさえ許されなくなった。
そして最後にたったひとつ、男に贈り物のわがままを言う。
涙を浮くための、ハンカチをくださいと。

歌詞の物語化:タカミハルカ



これが歌詞の物語世界の全貌です。
残された彼女が可哀想。ここで涙が溢れてきて……。

でもどうですか。
男の方だけが悪いなんて言えるのかしら。



歌詞の背景と未来予測

男は自分の夢を追いかけました。それは自分の未来です。新天地には新しい仲間がいると希望に満ちています。
彼女と一緒に旅立たなかったのは、それぞれ違う未来を見たからでしょう。
彼女はきっと、男が帰ってくると思っている。
男の夢を一緒に追うよりも、ただただ寂しくてたまらないのです。

離ればなれになったときから、ふたりの気持ちは真逆を向いていました。
自分を変えて羽ばたきたい男。変わらずただ待ち続ける彼女。
ふたりとも歩み寄れない思いを抱えています。
どちらも悪い。そしてどちらも全然、悪くない。

10年、15年後、男が成功しているとは限りません。
仕事もうまくいかず、同じ会社の後輩と結婚するも離婚して、傷心を抱えて故郷に帰ってくるかもしれません。
あの優しかった恋人はどうしているだろう。きっと子供を産んで暖かな家庭を築いているだろうな。もう会うわけにはいかないな。
そんな逆転の未来があるかもしれません。



でも、こんな妄想は不要です。
『木綿のハンカチーフ』の恋人たちは、永遠に続く時の中で歳を取らずに生きていく──。

だから悲しい。だからせつない。だから胸焦がす思いに襲われる。

作詞の松本隆にも震えますが、こんなに明るくて軽妙な曲をのせた筒美京平、天才ですね。
職業作詞家、職業作曲家の威力です。

昭和歌謡、時代を超えて口ずさんでしまう曲がたくさんある。
物語が蘇る曲がたくさんある。

私、また歌いますから。
そして多分、また泣くでしょう。

今日はそんなことを話したくなりました。

最後に少しだけ本音を言わせてください。
ハンカチーフをねだる彼女に涙しながら、
私は男の気持ちもわかるのです。

夢を追いかけていて、可能性が光の粒ほどでも見えたなら、
私だったら何もかも放り出して突き進むから。

いつまでも変わらずに待ってる人を、どこまで愛せるでしょう。
あるいは変わらない人だから、心の拠りどころになるのでしょうか。
もし、私だったら……。


サムネ写真は、
Image by Anneliese Phillips from Unsplash 
文中のイラストは、
イラストACよりのりの部屋さんのイラストをお借りしました。
イラストACよりtom106106 さんのイラストをお借りしました。
イラストACよりたかっしゃんささんのイラストをお借りしました。



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