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“ちょいと本屋に顔出してくる“

嬉しい話を耳にした。

街の一角で、元気に賑わっている小さな本屋さんがあるらしい。

街からどんどん本屋さんの姿がなくなって、大型新刊書店も閉店したり、寂しい話題にうんざりしていた矢先。これはホットな情報だ。

「ちょいと本屋に顔出してくる」

そんな感じでご近所さんが、
注文した本を取りに行ったり、
今日のラインナップを見に寄ったりして、
本屋さんでの時間を愉しんでいるらしい。

え、ほんと? 
そんな風景、昭和の残像かと思っていたのにワクワクするな。

街の小さな、元気な本屋さん……。

うんちく語る店主がいて? 
オタ姉ちゃんの店員がいて?
私が『毒と薬の蒐集譚しゅうしゅうたん』なんかをレジに持ってくと、カバーかけながらニヤリとされたりしたりして?

なーんて漫画の設定みたいな妄想は置いといて。

噂を聞いて行って来ました、この2軒。
東京は目黒区・学芸大学駅おりてすぐの恭文堂書店と、文京区・千駄木駅から5分ほどの往来堂書店

2軒とも、『だれが「本」を殺すのか』(新潮文庫/佐野眞一著)で取り上げられていたので名前だけは知っている。

■『だれが「本」を殺すのか』(新潮文庫/佐野眞一著)

当時の出版不況の正体を暴くべく、書店・取次・版元(出版社)の関係や、図書館や新古本業界の裏事情を鋭くエグくあぶり出したルポルタージュ。
著者のやや主観本位な書きクチは気になるが、業界構造がわかる興味深い内容。


この本の「出版業界内で評判の、魅力ある書店」に、恭文堂書店、往来堂書店は名を連ねていた。

それが20年以上経て、「今行っても面白いよ」と聞きつけたのだ。
遅咲きの訪問なんである。
やっぱり楽しみなんである。



▼恭文堂書店(東京都目黒区・学芸大学駅すぐ近く)


最初に行ったのは恭文堂書店。商店街にポンと佇む本屋さんだった。



開店前の恭文堂書店さん。
シャッターが閉まっていても
店外ディスプレイが楽しめる。
この後、開店を待つご近所さんらしき
人たちが集まって来た。
本屋の開店待ち人、なんか嬉しい!


本棚が印刷されたシャッター。
タイトルも全部読めて、
店内にいるような面白さ!


中に入ると熱がスゴい。個性ある本の並びが嬉しくなる。
小さな本屋さんは大型新刊書店のような品揃えというわけにはいかない。

だからどんな本がチョイスされ、どんな並びになっているかが勝負というかセンスというか、見る方はワクワクなのだ。

まず目を引いたのは、
サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』2冊並べ。
1冊は野崎孝翻訳版。もう1冊は村上春樹翻訳版

隣り合わせで並べるなんて作為的だな。頬がほころぶ。
これは翻訳の違いを確かめずにはいられない。
(「インチキ」連発の翻訳版で育った私は野崎翻訳一択)

こんな書店員さんたちの仕掛けが、本棚のあちこちから見つかった(ほぼ私の個人的見解)。

個性溢れるPOPもめちゃくちゃ楽しい。

写真が撮れればいいのだけれど、そうはいかない。
そこで恭文堂書店出演のYouTubeから、店内POPの感じをご紹介しよう。(*2022年配信動画なので、現在のものではありません)


2022年2月配信のYouTube
「【目黒区鷹番・恭文堂書店】1928年創業 学芸大学駅前で最高の一冊に出会える場所」より抜粋


上記写真のPOP(YouTube版)には、
「正直、当店では売れてません。でも 読んでほしい本」と書かれている。

良い本はみな書店員さんが吟味して、取りこぼしがないよう勧めてくれる感じがまんまん。

こういうのって嬉しいんだな。
文芸部の先輩みたいな、あたたかい圧力。
誰かの目をちゃんと通している、安心感と信頼感。
POPを書いた書店員さんと話してみたい。

ちなみにこのYouTubeはこちら↓

【目黒区鷹番・恭文堂書店】1928年創業 学芸大学駅前で最高の一冊に出会える場所
2022年2月16日配信動画
▲チャンネル名:東京の本屋さん ~街に本屋があるということ~



恭文堂書店も、次に行く往来堂書店も取り寄せ大歓迎というのが目を引いた。
実際、取り寄せ本を受け取りに来ていたお客さんも数人見かける。

今だったらネットで注文すればすぐだけれど、お客さんと書店員さんが本のことを話したりして、なんだかすごく楽しそう。

自分が注文した本がお店の棚に並ぶことを妄想すると、それもニンマリ。
こういうやりとりがあたたかいな。
人の手から人の手に渡る、確かな信頼が息づいている。そんな気がした。


▲恭文堂書店で買ったのはこの2点。
棚を見るのに興奮しすぎ、
買い物する時間をなくしてしまった。

『ファミリーヒストリー年表』は、
1枚ものだけどちゃんと商品。
1年刻みで1895年から2029年までの記入欄あり。
自分の生まれた年やターニングポイントの年に
日本や世界で何があったか、
一覧できるお楽しみシート

『世にもあいまいなことばの秘密』
正直、これは勢いで買ってしまった。
なんか面白そうって直感で。



▼往来堂書店(東京都文京区・千駄木駅すぐ近く)


次に向かったのが、千駄木にある往来堂書店



千駄木駅・団子坂口から5分のところの
こじんまりとした往来堂書店。
乱歩ファンならD坂ってだけで興奮!


この雰囲気、ほっとするような店構え。
5,000円で5,250円買える
謝恩図書カードもあり


いきなり反省しなきゃいけないのだが、最初に行った恭文堂書店の棚が楽しくて、ゆっくりしすぎた。
そのせいで往来堂書店では、来店と同時にほぼタイムアップ。

再訪を決めて店を後にしようとしたけど、
往来堂書店には「これでもか!」ってほど手招きしてくる本がワンサカ。

まるで古書店で本を見つけるようにはしゃいでしまう。

やっぱり、棚が魅力的なんだな。

新刊書店なのに、千載一遇の出会いみたいなラインナップが涙もの。
他の新刊書店では見かけない本もたくさんあった。
おかげであれもこれもと買うだけ買って、またゆっくり来ようと悔しい思いで立ち去る……。

▲往来堂書店で買った5点。

『神保町 本の雑誌』は、別冊本の雑誌版。
これが置いてある店、やっと見つけた!

『噺のまくら』は小学館のP+Dシリーズ。
ペーパーバック値段で買えるお得版。
このシリーズ、ずらーっと置いてる店は
そんなに見ない。

『D坂文庫2023夏』は、
往来堂さん発行のオリジナル。

このお店の関係者、編者や作家さんらの
オススメ本の書評集。
メジャーからマイナー本まであって面白い。
メモ帳みたいな薄さで気軽にポケットイン。

『最後に残るのは本』
これは拝むようにして買った工作舎の本。
タイトルにも惹かれ、奪い取るように買う。



恭文堂書店、往来堂書店とも、初来店で棚を見るだけで精一杯だった。
書店員さんに質問したり話したりはできなかったけれど、正直、こんな本屋さんがある街に住んでみたいとそればかり。

「ちょいと本屋に顔出してくる」
「馴染みの本屋があるからね」
 
いいね、イキだね。
“行きつけ”の本屋があるなんて。
そんな感じで暮らせたら。

私が知らないだけで、
街に根ざした本屋さんはまだまだあるような気がしてきた。
探さないとわからない。出会ってみないとわからない。

大型新刊書店だけでなく、古書店めぐりもちょっと休んで、街の小さな本屋さんをのぞいてみよう。
街はまだまだワンダーランドだ。



*サムネールは
illustACよりたかっしゃんさんのイラスト、こたつねこさんイラストを使用しています


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