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キャッチフレーズが輝いていた、あの頃の映画

いまや映画は配信ばかりで観ているけれど、やっぱり映画館は特別だ。
映画のポスターやCMに煽られて、公開日が待ち遠しかった頃を思い出す。

何度も目にする映画のポスターで、キャッチフレーズなんかは暗記していた。

このキャッチフレーズのことを惹句じゃっくと言う。ざっくりだが、映画のコピーのことだ。

私は『もののけ姫』惹句じゃっくが今でも印象的。
覚えている方もいらっしゃるだろう。

「生きろ。」である。



*「映画チラシサイト」様からの引用
『もののけ姫』1997年公開


この力強いフレーズは、名コピーライター糸井重里氏の作である。


同じくジブリ映画惹句じゃっくだが、この映画のタイトル、おわかりだろうか?

トンネルのむこうは、
不思議の町でした。



答えはこちら↓


*「映画チラシサイト」様からの引用
『千と千尋の神隠し』2001年公開




古いヤクザ映画なんかになるとキャッチフレーズの雰囲気ががらっと変わる。コピーよりも、惹句じゃっくと呼ぶにふさわしいのがこちら。


れい!ったれい!


講談社『惹句術─映画のこころ』
中ページ掲載画像より引用
『仁義なき戦い』1973



これは、
日本で唯一映画惹句師じゃっくし関根忠郎せきねただお(東映宣伝部)が手掛けたものだ。


その、関根忠郎せきねただお氏の血潮がたぎるような惹句じゃっくが掲載された本がある。
惹句術じゃっくじゅつ─映画のこころ』だ。

1984年公開までの映画を取り上げ、関根忠郎氏と映画評論家の山田宏一氏山根貞男氏の3人が語る貴重な対談本。




この本の中から70〜80年代懐かしの、
名惹句めいじゃっくハルカセレクション10本”をお届けしよう。


*関根忠郎氏による惹句は東映映画のみ

◆No.01

母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね?


『人間の証明』
(1977/監督:佐藤純彌/出演:松田優作、岡田茉莉子/角川映画)


*YouTubeの映画とテレビ番組(提供元Kadokawa Pictures)


ご存知、角川映画だ。
ジョー山中の主題歌を思い出す人、多いのでは?

「ママァードゥユリメンバァア〜」というあれあれ。

角川映画は、本と映画と音楽をセットにしてテレビCM、ポスター、書店店頭告知と大々的な宣伝展開をしていた。

映画のキャッチコピーも印象的だが、もうひとつ、忘れられないフレーズがある。それは、

読んでから見るか、
見てから読むか。


映画のキャッチコピーとは別に、角川映画と本のキャペーンで使われたシリーズキャッチコピーだ。
これも『人間の証明』から始まった。

これ以前の映画の宣伝文句は、映画宣伝部内で作られていた。

『人間の証明』以降は外部のコピーライターも関わるようになり、より斬新でスマートなキャッチフレーズが注目され出す。

かくいう私も90年代のコピーライター時代、ハリウッド映画のコピーライティングに携わってきた。

角川の映画コピーも東映の名惹句めいじゃっくも、ぜんぶ勉強の対象だったなあと、ちょっとしみじみ。


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◆No.02

狼は生きろ、豚は死ね。


『白昼の死角』
(1979/監督:村川透/出演:夏八木勲、中尾彬/角川映画)

これも「読んでから見るか、見てから読むか」シリーズの角川映画。
原作は高木彬光。

狼も豚も出てこないけど、手形詐欺を巡るだます側・だまされる側を模した刺激的なキャッチフレーズだ。


*YouTubeの映画とテレビ番組(提供元Toei)

*↑画像の真ん中辺りをタップ(orクリック)するとYouTubeで予告編プレビューが見られます


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◆No.03

こうもりたちよ、
黒く羽ばたけ、
眼を光らせろ。


『八つ墓村』
(1977/監督:野村芳太郎/出演:萩原健一、小川真由美)

*「映画チラシサイト」様からの引用


『八つ墓村』はCMで流れた劇中のセリフ流行語大賞に選ばれ、惹句よりも有名になった。そのセリフとは、

祟りじゃ〜っ!




さてここからは、名惹句師めいじゃっくし関根忠郎せきねただおの世界を見てみよう。


◆No.04

ぬえの鳴く夜は恐しい……。


『悪霊島』
(1981/監督:篠田正浩/出演:鹿賀丈史、室田日出男、古尾谷雅人/角川映画)

*「映画チラシサイト」様からの引用



これも角川映画だが配給は東映。惹句じゃっくは東映の関根忠郎氏が手掛けた。
角川キャッチフレーズに比べて、映画の内容が喚起できる惹句じゃっくになっている。

おどろおどろしさが出ていて素晴らしい。


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◆No.05

凄美せいびの映像に舞う、
今が盛りのいい女。


『鬼龍院花子の生涯』
(1983/監督:五社英雄/出演:仲代達矢、夏目雅子/東映)


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◆No.06

女は競ってこそはな
負けて墜ちれば泥。


陽暉楼ようきろう
(1983/監督:五社英雄/出演:緒形拳、池上季実子/東映)



『鬼龍院花子の生涯』『陽暉楼』共、東映配給。角川映画の大量宣伝に負けじと大プロモーションをかけた、“女のつや映画“2本だ。

『鬼龍院花子の生涯』は、他にも

「触れると熱いエロチシズム」
「愛に染まれば、女は狂女」


など、“女”で攻め倒した別バージョンの惹句がある。



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◆No.07

フッと、やくざの足を洗ってみたが……
親子三人、2DKの愛情は、
俺の棲み家になるだろか。


『竜二』
(1983/監督:川島透/出演:金子正治、永島暎子/東映)

*「映画チラシサイト」様からの引用


関根忠郎:
ヤクザと堅気の双方を謳いこみながら、主人公が本当に堅気になりきれるのかといった感じを打ち出したかった

『惹句術─映画のこころ』より



名惹句ばかりではない。笑ってしまう“迷惹句”もある。
その映画とは……


『徳川一族の崩壊』

(1980/監督:山下耕作/出演:萬屋錦之介、平幹二朗/東映)

そしてこの作品の惹句は、

◆No.08

打つべき手はすべて打った!



そりゃそうだ。


最初の惹句じゃっくは「幕じゃ、幕じゃ。」だったというが、東映内では映画興行的に良くないという縁起かつぎで却下されたらしい。

関根忠郎:
それでいろんなコピーをつくったわけね。最後は自分で「打つべき手はすべて打った!」なんて--。そこまでくりゃ、どうしようもないなあ。
   〜中略〜
いや、ほんと、こんなまとまらない仕事は初めてでしたよ。これこそまさに崩壊
--

『惹句術─映画のこころ』より



残る2本は東映名物・任侠映画、アクション映画から、関根忠郎せきねただおの名惹句で締めくくろう。

昭和の匂いを楽しんでほしい。


◆No.09

生きていたならおふくろが、
人を殺しちゃならないと
俺の頬っぺた濡らすだろ


『網走番外地 望郷編』(1965年/高倉健主演/東映)



◆No.10

黒いマグナムに出会ったら
死際だけはきれいに飾れ!



『殺人遊戯』(1978年/松田優作主演/東映)


さて、あなたはどんな映画のキャッチフレーズが記憶に残っているだろう。


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