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「日本のお笑い界はまるでテーマパーク」社会を風刺するウーマン村本大輔が本気で目指す「客の心をえぐる漫才」とは

社会問題を風刺する漫才で注目されるお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔(むらもと・だいすけ)さん。お笑い番組「THE MANZAI」(フジテレビ系)では、原発問題に触れて大きな反響を呼びました。政権批判やタブーに果敢に挑み、現場に足を運ぶ、村本さんの姿勢はジャーナリストに近いと評されることもあります。ここ数年、日本のお笑い界やテレビとは距離を置いてきましたが、最近、アメリカで勝負したいと思うようになったといいます。その狙いはいったい何なのか。笑下村塾たかまつなながYouTubeで聞きました。

●YouTube村本大輔×たかまつなな 生対談 【忖度なし、タブーなし】はこちらから
https://youtu.be/CjmK7C-fTSE

漫才の舞台は唯一の“呼吸する場所”

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ーまず、村本さんにとって漫才ってどういうものかをお伺いしたいです。

村本:舞台の上が唯一自分の言いたいことを言える場所というか。SNSをやっている人が匿名でワーっと書き込むじゃないですか、自分の思っていること。あれと変わらないんじゃないですか。漫才とか独演会とか舞台のマイクの前だけは、思っていることを全部言えるんで。1時間言いたいことがあるとしても、普通は1時間も一方的な話を聞いてくれないわけですよ。でも、笑いがあってめちゃくちゃ面白かったら1時間聞いてくれる。だから俺にとっては本当に唯一の「呼吸する場所」。

しんどい社会を生き抜くために笑って楽になりたい

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ー村本さんがネタを通してやりたいことは何ですか?誰かの声を届けることなのか、社会を変えるみたいなことなのか。

村本:いろいろあるけど順番の1位としては、この考えすぎるとしんどい社会を自分が生き抜くための手段。あとそれを誰かが共感して笑ったら、その人もすごく楽になるじゃない。俺も言って楽になるし、笑って向こうも楽になるし。
例えば、この前フジテレビの「THE MANZAI」という番組で東日本大震災の被災者のネタをやったのね。震災から7年が経ったころに宮城県の気仙沼に行って被災者の人としゃべっていろんな声を聞いたわけよ。そこで「こんな救援物資は嫌だ」っていう大喜利をやっていますみたいなことを言っていて。

ーたしかに被災地では欲しくないプレゼントもありそうですよね。

村本:ただ、それは送ってくれる人には言えないって言っていたんですよね。自分たちの口から言ってしまうと被災者全員がわがままだと思われてしまうから。
例えば古着の下着とかがバーっと届くのが嫌だとか、外国で買った薬は怖くて飲めないとか、千羽鶴とかどこに置いたらいいんだとか。ただでさえ体育館の中に人が住んでいて場所がない中で、千羽鶴がワーっと届くわけですよ。置く場所がないわけですよ。でも彼らはそれを自分の口からは言えないと。それを聞いたときにめっちゃ面白かったんですよ。だから「THE MANZAI」っていうのがあるから、それでいつかネタにするって約束したんです。それで今回やったら、その人たちから番組のプロデューサーを通して「やってくれて地元の人みんな喜んでいます」って言ってくれたんですよ。
自分がまず面白いからやった。その後に彼らが喜んだ。ということは、彼らの同じ状況に置かれている人たちも喜ぶ。漫才にすると、そういうふうにして誰かが楽になるわけですよ。

芸能ニュースよりも大事なことがある

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ー一方で、村本さんが最近テレビにほとんど出なくなったのはご自身の意思なんですか?それとも干されたみたいな部分もあるんですか?

村本:ここだけでしか言えないんですけど、官邸からの圧力がね。安倍さんが直接ルミネの楽屋に来てね、やめなさいと。菅さんを引き連れてね、当時ね。

ーファクトで語ってください。

村本:本当は正直、ある時期から芸人どうしでいじり合う関係がすごく幼稚に感じたんですよ。例えばある番組では「私服がおしゃれな芸人」とか「モテる芸人」とかやるじゃない。ああいうのを見たときに、正直すごく小寒い、いつまで高校生、女子大生ぐらいの層をいいおっさんたちがずっと狙い続けてるんだっていう。「芸能ニュース」のことを「時事ネタ」って言っている時点ですごく頭が悪い感じがして。もっと世の中にはすごく重要な問題があって、アメリカでは、芸能ニュースというどうでもいいものじゃなくて、社会に根付いたお笑いをやっていると。アメリカのやつが言っていたんですけど、社会的な問題に触れない芸人のほうがネタにされるのが当たり前なんだよと。でも日本では政治的なことをネタにすると、逆にネタにされるし浮く。日本だけらしいよ、ネットのトップニュースが芸能ニュースばかりなの。あれがもうだめなの俺は。

バラエティに出ることは駒として使われること

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ー村本さんは自分が有名になる道も選べたわけじゃないですか。劇場では社会的なネタをやって、テレビでは普通のバラエティに出続けながらやるとか。自分に知名度があれば社会を変えたり自分の思いを伝えやすかったりとかするじゃないですか。なぜその道を絶ったんですか?

村本:そもそもテレビの企画を作るのはテレビのやつじゃない。テレビを作っているやつに駒として呼ばれているわけであって。こういう話をしてください、ケーキ食べてコメントくださいって、俺は駒じゃない。テレビに出ている限りそれを変えることはできないじゃない。あの場所はテレビを作っているやつとスポンサーのものだからね。テレビなんかに出たら、この企画でどういうふうに笑いを取ろうって考えるのも時間がかかるじゃない。打ち合わせの時間なんかもテレビ局やカフェに行ってやったりとかするじゃない。その時間をそいつらに捧げたいのかと考えた時に面白くない企画には捧げたくなくて。

心でネタをやり続けるために人と会う

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ーどんなことが理想ですか?

自分の舞台の上だけで金を稼いで全国バーっと回ってうまいもの食ってってできたら最高よ。例えば、福島に行ったらラーメンを食ってそのついでに原発とかに行って、原発のある街に友達ができて、うまい飯があって、そいつらから原発の話を聞くと面白いのよ。例えば浪江とか大熊とか双葉とか原発事故があったところで、漁師さんたちは処理水を海に流すことに反対しているんだけど、同じ福島でも会津の奥のほうでは、もう処理水を流してもいいんじゃないって言っている人もいると。同じ福島でもいろいろあるということをその人たちと会って初めて聞いて感じるわけであって、感じると心が動いてネタができる。だから頭でネタをやるんじゃなくて、心でネタをやるために人としゃべって、同じように泣いて同じように怒って、ああだこうだワーって酒飲んでしゃべるわけよ。帰りの電車の中でネタをバーって書いて漫才を作ってやったネタっていうのは、果てしなくお客さんの心を深くえぐって、すごく心に触れる。漫才を頭でやりたくないから、心を動かすために、人と会うことに時間を捧げる。そういうことだと思う。

日本のお笑いは何も考えない“テーマパーク”

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ーアメリカのお笑いの話が出ましたけど、日本といちばん違うところはどこですか?

村本:日本の漫才ってツッコミキャラとかボケキャラとかお互いにキャラを演じあってほぼコントなんですよ。本音や意見をあの中で出さない。そのほうがいいとされている。だって社会問題を語るよりも芸能人を叩いているほうが誰からも攻撃されないから。例えば原発や沖縄の基地なんかを叩いたらすごくクレームが来るわけよ。だからみんなそこに触れたがらない。
アメリカのお笑いと日本のお笑いを考えたときに、アメリカの芸人は実体験をもとに話をして現実を突きつけるけれども、日本の芸人は現実から逃がすような感じがあって、何も考えないテーマパーク的な感じがある。でもテーマパークの外では本当は爆弾が落ちてきたり、たくさんの人が死んだり苦しい思いをしていたりするわけ。社会学者の宮台真司さんが言っていたけどニュースを伝えるには正しいだけじゃだめなんだと。正しくて楽しくないとだめなんだと。


面白いやつらとお笑いがしたい 

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ー村本さんはアメリカに行かれるということですが、なぜですか?それは日本ではできないんですか?寂しいんですけど。

村本:自分の周りの環境が芸人を作ると思うんですよ。福井で育って大阪に行って芸人やって、大阪のお笑い界っていうのは「baseよしもと」っていう劇場が当時あって、いろんな芸人たちがぎゅうぎゅう詰めになって、すごい上下関係で勉強してやっているわけ。その中で面白いやつの仲間って感染するんですよ。だから面白いやつといるやつは面白いし、面白くない仲間といるやつって面白くないんですよね。

ーそれはめっちゃ思いますね。

村本:アメリカに行ったら、まじで地球温暖化に対してここまでバカバカしく語れるんだとか、黒人の芸人がどうして黒いバンドエイドがないんだ、俺たちは怪我しちゃいけねえのかとかって怒っていたりするのが最高に面白くて。そういうパンチラインを連発していて、まじでこいつら最高だなと。
さらに言うと、お笑い芸人はホワイトハウスの晩餐会に招待されて、そこでケネディとかクリントンとかトランプとか、ボロカスにディスるんですよ。ブッシュ大統領のときイラク戦争についてもすげえボロカス言うし、ベトナム戦争のときも、そのときの大統領をボロカス言うし。大統領が目の前にいるんですよ。それでも芸人におしおきしてくれってことで、芸人が毎回そこに呼ばれて行って、全部真実を言ってワーっと笑わせる。しかもそこで自分と考えが違うやつも呆れ返ってブワーってみんな笑うわけ。やりすぎだぐらいボロカス言う。
ところが、日本の芸能人は桜を見る会でお互い宣伝に使い合ってるだけじゃないですか。政治家はこんなに芸能人呼べるんだぞ、芸能人は私たちはここに呼ばれますよ。お互いブログに一生懸命書いて宣伝活動。お互いがブルジョワ気取りのバカどもがああいうふうにやってるわけですよ。俺はね、お笑い芸人、何しにあそこに行ってるのって。あそこでこいつらディスって笑い取ってくれよって。めちゃくちゃ面白いこといっぱいあるのに。だから俺はお笑いの本場に行ってみたい。

ーどういう状況になったら日本に帰ってくるんですか?私は日本でやってほしいと思うんですよ。村本さんがいなくなったら、私みたいなそういうことをやりたい若手がいてもなかなかシーンを作るのが大変じゃないですか。だから本当は行かないでほしいです。

村本:アメリカの芸人を見て、そこで本場のやつとガチで勝負して勝ちたいのよ。力の証明よ。いつもその瞬間の衝動で生きてるから、アメリカ行きたいと思ったら行ってやって、日本でやりたいと思ったらやって。


いじめられ反撃して孤立した高校時代

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ー村本さんは、どんな社会にしたいんですか?いじめられていた経験もあると聞いていますが、どんな思いがあるんですか?

村本:俺は高校1年のときにサッカー部で、2年生の先輩たちが嫌な人で、俺がサッカーうまかったので、1年でレギュラーになりかけたぐらいで鼻につく感じで。俺のことを「おい、クサオ」みたいな。「お前汗臭いのでクサオ」みたいな感じでワーって言われて、それがずっと続いて、サッカーでボールも回ってこなくて。
俺はそのときに学校に行くのがすごい嫌で。そのころ中学生の弟が、修学旅行で奈良に行って木刀を買ってきてそれをベッドの下に置いていたのよ。それをある朝俺はゴミ袋に隠して電車に持ち込んで、サッカー部の悪い先輩たちが来る駅の駐輪場のところに潜んで、その人が来た瞬間に後ろから木刀で殴りかかった。俺は「お前今までずっと、俺に嫌なことばっかり言って、次それ言ったら知らんからな」みたいなことを言ったら、その人が「すみません」って言って、その翌日から一切そういったことを言われなくなったのね。

お笑いとは「弱い人間の唯一の武器」

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ーいじめがなくなったんですか?

村本:一切なくなった。その代わり、あいつが暴力的だと言いふらされてすごく孤立したけど。でも、やられたら絶対に倍返ししてやるって気持ちがどこかにあるから。辛いけど絶対にやり返すみたいな。今お笑い芸人になって、嫌なことがあったら全部舞台の上でやってやるっていうのがある。
お笑い芸人っていうのは元々ね、だいたいの人がいじめられている。最近思うけど、お笑いっていうのは、弱い人間の唯一の武器というか。例えばヘビとかクモとかカエルとか、毒を持っているやつって絶対に弱いじゃないですか。あいつら毒を持っているおかげで捕食されない側に回るわけですよ。お笑い芸人ってそれに近いのかなと思って。だいたい子どものときにいじめられたやつが見返すためにやったりとかする。唯一キングコングの西野亮廣くんだけですよ。彼は逆に大人になってからいじめられたタイプで。芸人になってからいじめられたタイプなので、それを逆境として今こうやって立派にねずみ講として。

ーねずみ講じゃないですよ。

村本:立派なビジネスとしてやってらっしゃるっていうのは素晴らしいですよ。

お笑いに救われてここまで来た

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ー村本さんはお笑いにどういうときに出会って救われたんですか?

村本:うちは両親もすごく仲が悪くて、いつもワーって怒鳴り声が聞こえてくる家庭で。俺は勉強できない、スポーツできない、友達もいない。真っ暗な部屋の中で自分の生きる価値というか手応えがないわけよ。そんなときに、テレビでさんまさんとかダウンタウンさんとかがブワーッとやってて、涙流してワーって笑っているときに救われたというか、いろいろ考えていることがどうでもよくなって楽になったのよねすごく。そこで、この世界に入ろう、あの中に行きたいと。
それから芸人の世界に入って、10人いろんなやつが離れていって、(相方の)パラダイスが最後に組んでくれて漫才やって、パラダイスに3カ月でM-1の準決勝行かなかったら解散しようって言って、3カ月で行ったのよ。じゃないとお父さんに原発関係の人と知り合いだから給料のいい原発で働かせてやると言われていて。高校も辞めていて他に就職先もないだろうからって。でも、やりたくないことに時間を使うよりも、やりたいことで死んでいくほうがよほど幸せだと思って。
それで原発の仕事は断って28歳ぐらいで島田紳助師匠が漫才を見て連絡くれて、それで俺は世に出ることがあって「踊る!さんま御殿!!」に出演したときに、さんまさんが「村本どう?」って指し棒で指したのね。そのときに、あれ中学校のとき見ていた指し棒の先に俺がいると。あの指し棒の先に自分がいるときのあの喜び。

ー分かります。

村本:自分を救ってくれたお笑いがあって、俺は漫才のおかげで、ネタのおかげで世に出て生活ができて、親が安心できて、自分というものが誰かに認められたような感覚はあった。

流れ星で終わらず“笑いの原点”へ

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村本:でもふと考えたときに、よしもとっていうのは毎回スターを作り出すのがうまくて。流れ星ってバーっと、空を見たらキランと光るじゃない。ああいうのを作るのがうまいんだよ。でも流れ星って結局石に戻るから、その石が楽屋にまだゴロンゴロン転がってたりするのよね。するとまた違う流れ星を作るのよ。

ー旬を過ぎたらみたいなね。

村本:その瞬間はバーって光っても自分の腕で売れているわけじゃないのよ。スターにしてくれているのよ。結局自分はただの石じゃない。漫才で救われたのに、ネタで救われたのに、ネタがすごくテレビのほうに行っちゃって、ネタがすごく寂しそうな顔をしている感じがして。売れるための手段みたいになっていて。そんなときにアメリカのコメディを見て、舞台の上でこんなに教育問題とか社会問題、貧困問題をばかばか笑いにして、宗教や人種や政治をばかばか笑いにして、こんなにお笑いで気付かせてくれるものがあるんだと。今、あっちがかっこいいと思って。

自分の芯を大切に 決して揺るがず

ー最後に、もしよろしければ私に対するアドバイスをいただけたら。

村本:ななちゃんと俺は違う人間だからね。ななちゃんには絶対的に芯の部分、核の部分があるし、俺は俺であるし。どこかで俺たちの仕事っていうのは、自分の芯を失って、他の人っぽくなろうとしてしまうっていうことがあるけど、自分の芯を自分が一番愛していたら、どんなに強い風が吹こうともそれは動かないと思うのね。だから自分の好きなものをまず一番大事にしていたら、どんなに風が吹いてきてもびくともせずに行くべき場所に行けると俺は思う。

ーちゃんと芯を持ちます。今日はありがとうございました。村本さんの公演、2月16日に東京・渋谷公会堂で、2月22日に大阪市中央公開堂で行われるそうです。私も行きます。みなさんお楽しみに。

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●YouTube村本大輔×たかまつなな 生対談 【忖度なし、タブーなし】はこちらから
https://youtu.be/CjmK7C-fTSE


【村本大輔さんからの告知です】

◉リアル独演会やります。
「Without me〜おれを排除してみな?お前たちおれなしじゃこの世界はとてもつまらない だろう」
・in東京 2月16日(火)19時 LINE CUBE SHIBUYA(東京都)
・in大阪    2月22日(月)19時 大阪市中央公会堂 大集会室(大阪府)
 チケットぴあでチケット発売中 予定枚数終了しだい発売終了となります。

https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=92170029

◉ZOOM独演会もやっています。詳しくは下記Twitterで。 
https://twitter.com/daienzetsuboshu?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor


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