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#04 プロジェクトを「管理」してはいけない


管理することの意外な弊害

#02で、「プロジェクトマネージャーなど、プロジェクトをリードする者の最大の仕事は、その共通の目的となる『プロジェクトの北極星のようなゴール=終わり』を示すこと」と述べたが、プロジェクトマネジメントといえば「しっかりきっちり管理すること」というイメージを持っている人もいるだろう。
もちろん、管理は大事だ。しっかり管理すればするほど、プロジェクト失敗のリスクを低減させ、プロジェクト成功の確率を高められるように思えるかもしれない。
しかし一歩引いた目で見ると、管理すること以上に、管理に一所懸命になりすぎることの危険性にも意識を向ける必要があるのではないだろうか。

プロジェクトを振り返ったときに、タスク管理やスケジュール管理、予算管理やリスク管理に一つの減点もない、掛け値なしに100点満点だったと言い切れるプロジェクトは恐らくないだろう。何かしら探せば「あの時もっときっちりできたかも」と思う場面はいくらでも出てくるはずだ。
このことからも分かる通り、人はネガティビティ・バイアス(ポジティブな情報よりもネガティブな情報の方が注意が向きやすく、記憶にも残りやすい性質)を持つため、意識しないとプロジェクト管理に対する要求はどんどんエスカレートしていきやすい。

もちろん、プロジェクトの管理レベルはプロジェクト成功の確率に何かしらの影響を与えるファクターの一つではある。ただ、仮にその当時に戻れたとして、その減点をなしにし得たのか、さらに言えばその減点をなしにすることでよりプロジェクトの成功につながったかは誰にも分からない。必ずしもプロジェクトの管理レベルを上げればプロジェクト成功の確率が上がる、という相関関係や因果関係があるとは限らないのだ。

なぜならば、スケジュール遅延のリスクやタスク漏れのリスクと同じくらい、いやそれ以上に気を付けたいリスク、それがチームのモメンタムだからだ。
「momentum」は「勢い」や「推進力」を意味する。プロジェクトチームからモメンタムが失われてしまえば、どんなに正しく安全なプロセスを歩んでいたとしても、理想のゴールまではたどり着けなくなってしまう。

管理がモメンタムを殺す理由

それでは、なぜ管理が過ぎるとモメンタムを失うリスクが生じてしまうのか。
第一に、管理のレベルを一段階上げると、管理コストが指数関数的に増えていってしまうからだ。
一つ確認や報告のプロセスを追加すると、コミュニケーションのキャッチボールが少なくとも2回(一往復)分増えてしまうことを考えるとイメージしやすいだろう。時には複数の組織にまたがり、何人ものメンバーで行うプロジェクトであれば、その工数は連鎖的に増えていく。

そうして管理に割くリソースが増えていくと、サンクコスト効果(これまでに投資してきたリソースを無駄にしたくないと感じる心理)が働き、今度は次第に管理すること自体が目的化していく。労力をかけている仕事はその分重要な仕事であると感じてしまうのだ。
しかし、計画や予定はプロジェクトの中で常にアップデートされていくため、スケジュールやタスクの管理は必ず周回遅れで現状をキャッチアップすることになる。それらを一つひとつ常に管理しようとすると、(それが本来クリティカルなものかどうかは別として)必ずどこかでアラート(予定外・計画外の状況)が生まれる。
極端な言い方をすれば、「管理することによってアラートという現象が生じる」のだ。

こうして小さな遅延やアラートの管理に忙殺されていくと、次に起こることは危機感度の鈍麻化だ。つまり、本当にクリティカルなアラートへのアンテナが鈍っていってしまう。
冷静に考えてみると、大抵の場合、実はプロジェクトの成功に対して本当にクリティカルな遅延やミスさえなければ、多少の予定外の出来事はなんとかなるものだ。少なくとも、クリエイティブのプロジェクトでは例えどんな失敗や炎上を起こしても、医療や工事の現場とは異なり人が倒れたり死ぬような事態になることはほとんどない。

しかし、マイクロマネジメントで小さなアラートが常に生じている状況になると、プロジェクトメンバーは常に不安に催促されている気持ちになってしまう。プロジェクトリーダーからそれに対しての報告や対策を求められるならなおさらだ。つまり、小さな問題を抽出して顕在化させることで、それが実際以上に深刻な「本当の問題」に昇格してしまい、プロジェクトメンバーの前向きな気持ちを削いでしまうのだ。
それだけでなく、常に不安やプレッシャーを感じている状況によりメンタルを削られれば、人は意外と簡単に倒れるし、場合によっては死の危険性さえ生まれてしまう(本来そんな危険が起こる仕事ではないはずなのに)。そう考えればプロジェクトにおいてこれ以上のリスクはないだろう。

最終防衛ラインを守り、ゴールへの希望を示すことがリーダーの役割

つまり、ちょうどいい管理のバランスは、プロジェクトのゴールに対して進行のベクトルがズレていないかや、プロジェクトを俯瞰して大きなマイルストーンを外していないか、という最低限で最重要なポイントだけ注視しておき、あとはなるべくメンバー各人の自主性を最大限に発揮できる雰囲気を醸成することだと言える。
もちろん、唯一の正解などというものはなく、リーダーのキャラクターや場面によって最適なバランスは常に変化するが、プロジェクトリーダーは最前線で細かく指示を飛ばすより、後方で最終防衛ラインを死守することに注力し、メンバーが安心して背中を預け、後方の憂いなくゴールに向かって存分に暴れられる状態をつくる方が、プロジェクトのモメンタムを保ったままドライブできる可能性は高い。
そうして一人でできることではなく、複数人のプロジェクトメンバーが発揮するバリューのかけ合わせでいかに大きな円を描けるかこそが「プロジェクト」という仕事の醍醐味でもある。

管理はプロジェクト成功のための手段であり、それ自体が目的ではない。その優先順位を見失ってはいけない。
かのナポレオンが「リーダーとは、希望を配る人のことだ」と言ったように、理想のドラフトを常に更新し続け、プロジェクトメンバーにゴールへの希望を示し続けること、それがプロジェクトリーダーの大事な役割だと思う。

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