Googleのスマートフォン Pixel 4が切り拓く「カメラの再発明」と「写真の再定義」
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Googleのスマートフォン Pixel 4が切り拓く「カメラの再発明」と「写真の再定義」

1.たった一年でスマホで天の川が撮れるように

本日、いよいよスマホ界の異端児、Google Pixel 4発売です。ところで、Pixelといえば、一年前、僕はこういう記事を書いたんですね。

この文章の中で、僕は「オリオン座写ってるし!左上の星ベテルギウスのほんのりオレンジ色まで再現してるし!!!」ってアゲアゲのテンションで書きました。で、書きながら「そのうち天の川も映るかもしれんなー、5年後くらい」って思ってたんです。そしたら一年で来てしまいました。この進化の速さ!さてでは、鳴り物入りで発表された「天体撮影モード」の実力、まずはその写真を見てもらいましょう。

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えぐいですわ。スマホでこれって、ちょっと意味分かんないレベル。もちろんこれを撮るために、わざわざ日本最南端に近い場所に行ったのは行ったんですよ。でもね、天の川の中心部の色の構成をここまでスマホでやられちゃうと、正直お手上げなんですよね。これ、ホワイトバランスの感じも含めて、「ものすごく好ましい天の川」が撮れちゃってる。

もちろんGoogleの新製品発表会「Made by Google」において、「Pixel4は天の川も撮れる」と大々的に宣伝されたので、撮れることは一応知ってたわけです。でも、自社の新製品発表会って言ったら、普通はちょっとくらい盛りますわな。それにスライドでのプレゼンでしょ。パワポでみたら、写真の「粗」って結構消えるんで、正直懐疑的だったんですよね。「撮れるいうて、かろうじて写ってるレベルくらいちゃうのん」って。そこには僕自身の思い込み、「天体はまだまだ一眼レフでないと撮れへんやろ」っていう先入観があった気がします。

ごめんね、グーグル。見くびったらあきませんでした。ソフトウェアの巨人は、やっぱりちょっと異次元でした。そしてその異次元っぷりは、際立ってユニークです。というのも、今年3眼レンズを配して万全の「物理力」を発揮したiPhone 11シリーズと比して、Pixelシリーズが指向している「カメラ」と「写真」のあり方は、根本的にそれ以外のスマホメーカーとは違う部分を向いていることがわかるからです。その「違い」を端的に分かっていただくために、同じタイミングでiPhoneのナイトモードで撮った天の川と並べてみます。くっきりとその違いが際立ちます。

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明らかに違います。この比較は「iPhoneさげ」をしたいんじゃなくて、根源的に、指向している写真の質が違うことをお伝えしたいんです。これはもう革命のファンファーレが鳴り響く勢いです。

iPhoneを含め、おそらく他社のスマホのカメラの殆どは、通常のカメラの延長線上にある作業をしています。つまり「光を取り込む」ということですね。専門のカメラに劣る光学的な部分を補うために、3眼とか4眼とかのカメラが付いているスマホが出てくるのは、すべて「普通のカメラ」の模倣を目指しているからです。くっついているソフトウェア(例えばiPhoneのナイトモードなど)は、あくまでもその物理的な不利の補佐(あるいは隠蔽)を目的として作られているに過ぎません。

でも、Pixelシリーズのカメラに関しては、前機種のPixel 3からそうだったんですが、「光を再現する」という方向に「カメラ / 写真」を向けようとしている。だって、Pixel 4についてるカメラ、一世代前と実力はいうほど変わらないです。今回から2眼になったのも、「光学的な不利」を補うという発想ではなく、むしろ「ソフトウェア的な発想を実現するため」の二眼なんですよね。つまり、Pixelシリーズにおいては、レンズなどの光学的な物理デバイスは、あくまでも「ソフトウェアによる光の再現」を補佐するものに過ぎません。あらゆる他のカメラと比べて、主従が逆転しているんです。こういうの、ゾクゾク来ます。

その意味で、Pixelシリーズは「カメラの再発明」、あるいは「写真の再定義」をしていると言えるんではないか、それが今回一番強く思ったことです。

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(試し撮り中に写ったオリオン座流星群の流星。スマホで流星撮れるってどういうことっすか...)

2.夜景モード、デュアル露出補正、超解像ズーム、これら全て同じ発想の具現化

だから、このPixel 4で「天の川が撮れる」というのは、「単に話題作りのためのすごい機能を載せてきた」というだけの話ではないんですね。Pixel 3でソフトウェア主導のカメラ「コンピューテーショナル・フォトグラフィ」という「思想」を提示したGoogle(あるいはマーク・レヴォイ)は、Pixel 4において、まったくブレていないどころか、その思想をより鋭く深く示しているんです。その意味でこの「天体撮影モード」は、単に「便利な機能が一つ追加された」という話ではなく、まさに「Googleの目指すカメラ/写真」という「思想」「アイデア」を具現化し、提示するための機能だと言えます。これは燃えますね!

そしてそのことは、今回のMade by Googleのイベントで示されたあと2つのカメラ機能「デュアル露出補正」と「超解像ズーム」にもそのまま当てはまります。まずはデュアル露出補正は、こういう機能。写真をご覧ください。

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違いはおわかりになりますでしょうか。上が普通に撮った写真です。下がその「デュアル露出補正」を使った写真。逆光で撮ると、上のような写真になりがちですが、「デュアル露出補正」で「暗部」と「明部」を別露出として調整しつつ撮影したのが下の写真です。光学的には上の写真が「普通にカメラが取り込む光の姿」なんですが、この上の写真の暗い部分をあとから処理して明るくすることはできます。一般的なスマホに搭載されているHDR(ハイダイナミックレンジ)がこれにあたります。

それに対して、Pixel 4が新しく搭載した「デュアル露出補正」は、撮影の段階で、暗い部分と明るい部分をリアルタイムで調整しながら撮る機能。似ているようで違います。そしてこの「自分で好みの感じにリアルタイムに光を調整しながら撮る」って、光学的にはめちゃくちゃなんです。もちろん最大級の褒め言葉。

おそらくPixel本体の中で、「明るい部分」と「暗い部分」の2つのトーンを、別々に同時に処理するようなソフトウェアが動いているんだと思いますが、一瞬で破綻しそうなその処理が、スムーズに無理なく出てくる。意味不明の極限のソフトウェア力!でも、何がしたいかはわかる。「天体撮影モード」と同じなんです。「光をソフトウェアで再現する」というのが、Pixelシリーズの目指すカメラ / 写真のあり方なんです。もはや「光あれ!」って言い出しそうな勢いです。

それは「超解像ズーム」でも同じ。写真を見てみましょう。

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上の写真がズームなしの標準で撮ったもの。で、その中央の赤い四角部分までズームしたのが下の写真。これ、8倍ズームです。そしてズームしたら車のプレートナンバーまでがっつり解像してて、慌てて消しちゃうほど。そのレベルで解像する超ズーム!!

このえげつない超解像のズームを確保するために、Pixelは2眼になったわけですが、最初「なんで今流行りの超広角にしなかったんだろう?」って思ったんです。そして答えはおそらくこういうことです。超広角は、レンズさえ乗っけたら、多分すぐできるんです。多分、来年のPixel 5では、しゃらっと超広角載せてくると思うんですが、超広角よりも重要だったのが、より技術的に困難な「望遠」をスマートフォンで実現すること、しかもソフトウェアの力で、だったはずです。

というのは、一眼使ってるとわかるんですが、望遠ズームだけはどうしても「小さくならない」からなんです。標準レンズや広角レンズは今、いわゆる「大口径レンズ」と言われる高性能なレンズもかなりスモールサイズになってきていて、フルサイズでもだいたい400グラムくらいの小さいレンズになってきた。でも、200ミリを超えるような望遠レンズは、どうしても1キロ近い、でっかいレンズになります。これが意味するのは、望遠レンズは「本質的に光学的な無理をしている」ということです。遠くにあるものを、きれいに、きっちりした解像で見せることは、超広角側よりも難しいんですね。

でも、Pixel 4はその難しい望遠を、小さいスマホのレンズで驚くほど見事に達成している。もちろんこのジャンルに関しては、まだ一眼レフの方が圧倒的に有利です。でも、一眼レフの200mmを超えるようなズームは、カメラとボディ合わせて2キロを超えてきます。しかも機材の価格合計は50万円を超えるものもざらにあります。その領域に、9万円のスマホがソフトウェアの処理(と、今回はもう一つのレンズの力)で迫ろうとしているわけなんです。なんとも恐ろしい!!

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(超解像ズーム + デュアル露出補正の合わせ技でこんな芸当も)

3.まとめ

というわけで、今回のPixel 4、いよいよ「カメラの再発明、写真の再定義」に向けた動きを、より先鋭に、より明確に見せてきたように思います。

このPixel 4が描き出そうとするのは、「ソフトウェアによる光の再現」なんですね。それは別の言い方をすれば、「ソフトウェアによる物理的制約の打破」とも言えます。いずれ小さいレンズさえあれば、あらゆる「光」が小さいスマホの本体の中で自在に再現されるようになるんではないか、そんなことさえ感じる今回のPixel 4のカメラでした。

で、それは多分、更に大きなGoogle全体の最近の思想である「アンビエント・コンピューティング」と共鳴していくものです。Googleは、ソフトウェアの力を使って、人間の「アンビエント(環境)」をより快適にする未来を作り出そうとしています。その文脈に当てはめるならば、「ひかり」という、人間にとって根源のアンビエントを、いかにうまくソフトウェアで統御するかということをPixelにおいて実現しようとするのは、極めて自然なことだなと思うんですよね。

「何を大げさな」とおっしゃるかもしれません。でも、往々にして「何を大げさな」と思っていた小さな発想が、後々巨大な波になる姿を、僕は何度も見てきました。

例えばみんなから最初は懐疑的に見られていたiPhoneも、ジョブズがいう「電話の再発明」という本質が、数年後に巨大な波になってすべてをかっさらって行きました。次にこのPixelが見せるカメラの新しいあり方が、業界全部を塗り替えていく可能性もあるんじゃないか、そんなことさえ思うんですね。

こういう事態を「悪夢」と捉える人もいるでしょうし、仕事への影響を感じるプロの写真家もいらっしゃるかもしれません。僕ももちろんその一人です、「もしかしたら写真の仕事なくなるかもなー」と。

でもそれ以上に、やっぱりこういう挑戦は面白いんですよね。今の所「天の川撮れる場所なんて、本州じゃほとんどねーじゃん」ってちょっと思ったりもしますが、こうやって日本最南端でPixel4を小さな三脚に載せて、天体撮影モード中にスマホ画面ににじわじわと天の川があぶり出されてくるのを見ると、ふと「昔のポラロイドカメラみたいやなあ」と思ったんです

不思議なことに、最も異端、最も最先端のカメラのPixel 4に、なぜか最もオーセンティックで、最も古いカメラとの、奇妙な共鳴を見出した気がしました。その面白さ、興奮を、ぜひ多くの人にも味わってほしいなと思うんです。

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別所隆弘

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切れ目の少ない文章読んでくださってありがとうございます
フォトグラファー。アメリカ文学研究者。滋賀、京都を中心とした”Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。インスタはこちら: https://www.instagram.com/takahiro_bessho/