マガジンのカバー画像

SNS時代の表現

56
SNS時代の表現について書いた自分の文章を集めたマガジンです。
運営しているクリエイター

#キャンセルカルチャー

「自分の表現で伝えられないこと」(あるいはクリエイティブの倫理と地獄)

この話をちゃんと誤解のないように書くことができるだろうか。自信はない。自信はないけど、書かなければいけない。写真と言葉、表現と倫理、その狭間で揺れ続けている僕は、ここから目を背けていては次には進めない気がするからだ。終わりは見えないが、書き始めてみよう。 (1)卓越したコピーの力とそれがもたらす地獄きっかけは、一枚の広告を電車の中で見たことだった。吊り広告というやつ。そこには二人の子どもが視線を合わせている写真が写っている。 そして横にはキャッチコピー 簡潔にして誤解し

21世紀の「善悪の彼岸」(あるいはキャンセルカルチャーの果ての世界)

今日は好きな映画の話から始めさせてください。ポール・ハギス監督の「クラッシュ」という映画について。確かアカデミー賞を取ってるはずです。どういう映画かというと、典型的な群像劇で、数人の登場人物たちがその運命を絡ませながら、ある1日に起こる物事の顛末を重層的に描き出すというものです。それぞれの物語はエピソード的に独立しつつも、映画の途中で登場人物たちが混じり合い、予想もしなかった結末を辿ることになります。時にそれはささやかな救済に、時にそれは救いのない悲劇に。物語の中心のテーマは