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記事一覧

小笠原滞在記 Day 10 「終わりの前に」

小笠原滞在記 Day 10 「終わりの前に」

小笠原の滞在も10日目になった。おがさわら丸に乗っていた時間もカウントに入れるなら11日間。ここまで地元を離れて、「旅」をしたのはいつ以来だろう。思い返してみると、多分大学1年生の時に、イギリスを半月かけてぐるぐる足で回った時以来のことだ。あの時、僕の人生の転機になる出会いがあった。それについては、一度書いている。

旅は人をつなぐ。自分の生きている時間と空間から少しの間離れ、いずれ帰ることを運命

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小笠原滞在記 Day 9 「円環的世界としての小笠原」

小笠原滞在記 Day 9 「円環的世界としての小笠原」

小笠原滞在の9日目は、静かに始まったと記憶している。

その日の前日も4時まで撮影していて、そのまま成果なく引き上げ、朝は7時半に起床。睡眠は3時間ほどで、頭は相変わらずぼんやりしている。でも前日「やるべきこと」をようやく見つけた気持ちでいたので、心は軽い。

宿のおかあさんが作ってくれる朝ごはんをしっかり食べた後

午前中は小笠原の固有種にして、食物連鎖の頂点に立つ猛禽類、オガサワラノスリの撮影

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小笠原滞在記 Day 8 「撮らせてもらってただけ」

小笠原滞在記 Day 8 「撮らせてもらってただけ」

連日連夜、2月の天の川なんて撮るべきでない。天の川が出てくるのはだいたい3時半を過ぎた頃、完全に現れるのは4時過ぎ、天文薄明が終わるのは5時前。チャンス少な過ぎ、条件厳し過ぎ。

「絶対に小笠原のこの場所で天の川を撮るんや!」と決意して二日目。この日のスタートも(というかDay 7の終わりともいうけれど)、この通り空振り。これが天体撮影というものですよね。いやー、きつい。

ちなみにこの神々しい光

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小笠原滞在記 Day 7  「玉座のありか」

小笠原滞在記 Day 7 「玉座のありか」

ここにきて割とガチ目のトレッキングすることになるとは流石に予想外でして。

というわけで、小笠原のDay 7は山登りからスタート。あれだけエモい海を毎日見せつけておきながら、山に来るとしっかり山感を出してくる小笠原が愛おしい。

いやしかし、圧縮効果が多少効いてるとはいえ、割と山高いよ?聞くと片道3キロ。まじで遠いやん。ワーケーションで来てるはずなのに、毎晩の深夜撮影で睡眠不足気味の足がすでに萎え

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小笠原滞在記 Day 11 「旅の終わりは『いってきます!』」

小笠原滞在記 Day 11 「旅の終わりは『いってきます!』」

この記事を書いているのは2月10日の深夜、小笠原から本州へと向かう「おがさわら丸」の船室の中。

この滞在記、少しリアルタイムから遅れて書いていて、それは何度かこのシリーズで書いたように、書く以上に次から次へと撮影している時間の方が多かったと言うのが理由なんだけれど、それ以上に、何かを書こうというときに大事なのは、ある程度の距離感だと思っているからだ。写真と文章は似ているところがあって、というか表

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小笠原滞在記 Day 6 「普通だけど特別な普通の1日」

小笠原滞在記 Day 6 「普通だけど特別な普通の1日」

Day5のラストあたりをエモめに締めてみた。いわく、

小笠原の普通の日々、そして多分小笠原だけではなく、自分の住んでいる街にいても、本当は普通の毎日が、いつだって特別なんだろう。小笠原にいる時みたいに本気で周りを見渡してみれば、同じように記憶が追いつかず、シャッターも追いつかないほど、いろんなことが起こっている。それを僕は、あれこれと言い訳をつけて、見えないないふり、退屈なふりをしてやり過ごして

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小笠原滞在記 Day 4 & 5 「写真家、大いに戸惑う」

小笠原滞在記 Day 4 & 5 「写真家、大いに戸惑う」

小笠原に来て4日目、5日目にもなると、小さい島だから撮るものがなくなるのでは無いか?と考えている人がいたら、ちょっと待ってほしい。実はこれを書いているのはDay 9に当たる2月8日の夕刻で、1時間後には再び撮影に出る。今日は朝の3時に一度起きて夜の写真を撮り、4時に寝て7時半に再度起きてから山の頂上二つを渡り歩いてノスリを撮ってきた。そこから帰ってきて昼ごはんを慌てて食べて、データの整理をして、今

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小笠原滞在記 Day 3 「過去の自分に出会う旅路」

小笠原滞在記 Day 3 「過去の自分に出会う旅路」

小笠原諸島の南島は楽園だった。

父島の南にあるその島は、外来種を入れないために靴を海水で洗い、ガイドさん同伴でないと入ることができない。というよりは、ガイドさん無しでは近づくことさえ出来ない。島の周辺は激しい波が押し寄せる難所のようで、カオス理論でも予測不可能な、複雑で激しい波にその島は守られているからだ。

でも一旦そこに到達すれば、待っているのは少し現実感を失うような見たこともない光景。歩い

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小笠原滞在記 Day 1 & 2 「旅とは人生である(のかもしれない)」

小笠原滞在記 Day 1 & 2 「旅とは人生である(のかもしれない)」

今回この小笠原諸島の父島への来訪は、小笠原村から頂いたご依頼で、滞在型観光促進事業に従事するために滞在している。10日間の間、小笠原を丸ごと体験して、それがどんなものであったのかを発信していくのが、今回のミッション。とはいえ、前回の「デイ0」で書いたように、しゃかりきに写真を撮りまくるような、そういうことを望まれているわけではない。

あくまでも今後長くつながっていくような、体験としての「小笠原」

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24時間のインターネットのない船旅を経て思ったこと

24時間のインターネットのない船旅を経て思ったこと

【小笠原諸島 父島滞在記 Day 0】

1. 24時間ネットに繋がらない船旅「24時間ネットに繋がらない船旅、わりとよくないですか?」と言ったのは、僕のデジタルQOLを常に爆上げしてくれる市川渚さんだ。その横で、今回の旅の仕掛け人である北村穣さんが、穏やかな笑みを浮かべて、僕らの「初心者ぶり」を楽しんでいる。

ソーシャルディスタンスがしっかり保たれた空間で、僕らはちょうど夕食を終え、小さな声で

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前夜

前夜

19時に準備が整った。今関空に向かっている。明日から2日半をタイで、2日半をミャンマーで過ごすことになっている。タイは2年ぶり、ミャンマーは人生初。外国へ行くのは去年の韓国以来だ。

19歳のとき、何かを変えたくてイギリスにいった。その旅の最も決定的な瞬間のことはこちらに一度書いたけど、正直この出会いがこんなに大きな影響を持つとはあの頃の俺はまったく思っていなかった。

そもそも「何かを変えたい」

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1st day, morning :Chiang Mai, Thailand

1st day, morning :Chiang Mai, Thailand

ふと目覚めると日付は変わり、飛行機はそろそろバンコクに入るころだった。エアアジアのシートは狭い。足元の広い席を選んだにも関わらず、体はこわばっていて、少し動かすとひどく左腕が痛い。右手の指先はしびれたようにこわばっている。40にもなるとからだの各部から柔軟性が失われていく。不快だ。

19歳の初めての旅の時、いや、20代や30代前半頃までの旅でさえ、飛行機の中で痛みで苦しむなんていうことはあまりな

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1st day, afternoon: Chiang Mai, Thailand

1st day, afternoon: Chiang Mai, Thailand

旅のはじめはThe Whole Earthという大層な名前のレストランから。全地球と言いながら、タイとインドと中国料理しかないのだが、だいたいそれだけで世界の半分くらいカバーできてそうだから、あながち誇大広告とも言えない。

このレストランの名前には少しだけグッと来る。インターネットが始まる前、今のネット世界をまるで先取りしようとしていたかのような雑誌、Whole Earth Catalogueを

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2nd day: Chiangrai and Chiang Mai, Thailand

2nd day: Chiangrai and Chiang Mai, Thailand

だまりがちになるのは路面の酷さのせいだ。

早朝4時から、タイ北部のチェンライという街を目指す。ほとんどミャンマーとの国境の町。チェンマイから距離にして190キロ離れている。

190キロ程度、日本ならせいぜい高速道路で2時間ちょいといったところだが、首都周辺こそよく整備されているタイも、地方だとそうはいかない。道路はいまだに整備中で、泥と小石と水でグズグズになった道が縦横を走っている。その一本を

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