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良い"空気"のスタートアップを作る技術

 手前味噌だが、弊社のオフィスではそれなりに良い”空気”が漂っているのではないかと自負している。やはり働くにあたってどういう”空気”で働くかは重要だと考えている。”空気”といっても、「人々の気持ちを支配するようなその場の雰囲気」のことではない。文字通り「オフィスに充填された気体」のことを指して言っている。

 なぜか弊社のCareers Deck(採用候補者向けのプレゼン資料)にも、空気に関する記載が多い。「採用候補者向けの資料に占める空気関連の記述領域の割合」は数あるスタートアップの中でも上位に食い込むのではないだろうか。

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 働く場所における気体の”空気”を大事にする風潮は、COVID-19で「密を防ごう」という文脈から一気に加速した感じはあるものの、実はその前から割と言われるようになってきていたように思う。

 この記事では、「どういう空気を作るのが良いのか?」、「良い空気を実現するためにはどうすれば良いのか?」についてまとめてみたい。予めdisclaimしておくとこの分野に関しての専門家なわけではないので、つっこみどころがあればご指摘いただけると嬉しい。

どういう空気を作るのが良いのか?

 実は空気と一言にいっても、いろいろな性質がある。奥深い最適化対象である。「温度」「湿度」「二酸化炭素濃度」「花粉」「揮発性有機化合物濃度」「粉塵」「匂い」「騒音(これは気体の性質ではないが)」等、さまざまな要素がある。ここでは特に「CO2濃度」「温度」「湿度」という代表的な3つの要素について見てみたい。

CO2濃度:特に会議室では1000ppm以下にしたい

 CO2濃度が高いと、集中力が低下したり、眠気などの弊害があることがわかってきている。ハーバード大の研究によると、例外はいくつかあるものの、基本的な傾向としては二酸化炭素濃度が低い方がパフォーマンスが高くなる傾向があると言える。また、タスクの種類によって、CO2濃度が高まると顕著にパフォーマンスが下がる項目と、そうでもない項目があることがわかっている。

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「Information Seeking」のタスクはそこまで二酸化炭素の影響を受けない一方、「Information Usage」のタスクは二酸化炭素濃度の影響を顕著にうけるようだ。

 この結果を見ると、特に注意したいと思うのが会議室の空気である。会議室はプライバシーの観点からも密閉されていることが多く、人口密度も高くなりやすいため、比較的二酸化炭素濃度がぶち上がってしまいやすい傾向にある。

 CO2濃度はあまり土地勘がない方もいらっしゃると思うので例を出しておくと、弊オフィスの4人用の会議室(4人用にしては一般的なサイズという感覚)では、4人でMTGをしていると10分〜20分くらいで1000ppmを突破する。

 意思決定において重要になりそうな要素である「Information Usage」、「Strategy」などのスコアは二酸化炭素濃度が高まることで下がりやすい。会社にとって重要な意思決定をたくさん下す場である会議室が、最も意思決定にふさわしくないCO2環境になってしまいがちなのは皮肉である。


温度:24〜26度くらいが良さそう?

 温度は高すぎても低すぎても集中力が下がるらしい。事務所衛生基準規則においては「17度以上28度以下」というガイドラインがある。その中でもいくつかの研究があったのだが、ぶっちゃけ推奨温度は研究によってバラバラだった。概ね20度〜27度くらいまでの間に分布しており、高い方がいいのか低い方が良いのかも統一的な見解がなさそうに見える。

 例えば、コールセンターを対象にした実験だと気温が低い方が生産性が高い、という結果が出ている。1度上昇すると2%程度生産性が下がる(=捌けた電話の数が減る)と示されている。

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 しかしその一方で、プログラマー7人(男性)をトラックした実験だと27度くらいまでは気温が高い方が良さそうな結果が出ている。別の実験の、Cornell大学の記事でもオフィスの気温を上げることで文字量もミスタイプも減らすことができたという結果が出ており、整合している。キーボードを叩く仕事の場合は、気温が高い方が良い可能性があると言える。

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 また、海外の論文をみると日本の研究と比べてめっちゃ低い値(21.75度が生産性最大とか)が推奨されていたりする。男性と女性でも感じ方が違いそうだし、スーツ着用かそうでないかによっても結構変わりそうな感じがする。

 個人的には温度は高い方が良いか低い方が良いかクリアではないのでそこまで拘らず、23〜26度の快適なレンジであれば良いのではないだろうかと思う。詳しい人は是非教えて欲しい。スタートアップの空調は何度に設定すべきなのだろうか。。。


湿度:40%〜70%を維持したい

 事務所衛生基準規則においては、湿度は40%〜70%にすべしというガイドラインが存在する。労働安全衛生総合研究所の報告によれば、事業所では湿度のガイドラインが守られていないことが多いらしく、要注意項目であると言える。

 湿度が低いとどのような悪いことがあるのだろうか?労働安全衛生総合研究所の報告によると、夏季と冬季の自覚症状の調査結果から、湿度が低いと「皮膚の乾燥・かゆみ」「鼻水・鼻詰まり」「のどの痛み」「くしゃみ」などの影響があるのではないかと考えられるそうだ。

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 また、「湿度が低いとまばたきの回数が増える、まばたきの回数と集中には相関があるため、湿度を高めた方が良いのではないか。」という議論もあったのだが、具体的な実験やペーパーは見つからなかったので、もしそういった研究があれば教えて欲しい。

良い空気を作る技術


Netatmoを導入する

 何はともあれまずやることは現状のKPIを計測することである。計測できないものは制御できない。空気を計測するのであれば、個人的にはNetatmoがおすすめである。これは一本で室温、湿度、騒音(db)、CO2濃度(ppm)を計測してくれる。

 

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 500mlペットボトルより少し小さいくらいの円筒状のデバイスである。アプリやWebのインターフェースも揃っている。共有用のアカウントを配っておけば、社員の全員がweb上のダッシュボードで値を確認することもできる。

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IFTTTを使ってアラートをSlack通知する

 Netatmoはただ測ることができるわけではない、IFTTTを利用すればアラートをSlackに通知することができるようになる。

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 弊社では、800ppmを一つの閾値としてセットしている。会議室とオフィスにそれぞれ置いておき、これを超えると社員向けチャンネルにアラートが流れるようになっている。このアラートが出たら換気をするようにしている。(これはもちろん手動でやっている。。。)そのうち窓にも自動で動いて欲しい気持ちがある。


窓をちょっとだけ開ける、という技を使う

 二酸化炭素濃度に気を配るようになってから経験的に知ったのだが、窓はほんの少しだけ開けておくことでも意味がある。今まで窓は「開く」「閉じる」の二状態しかないと思い込んでいたのだが、「1cmだけ開ける」みたい開け方は実はCO2濃度緩和という意味ではとても有効である。こんなちょっとの隙間で換気になっとるんかいな?と思っていたが、数値を見ると効果は明らかだ。是非ご活用されたい。


加湿除湿機能付空気清浄機を導入する

 加除湿機能が両方とも備わった空気清浄機を導入するのが一番手っ取り早いと言える。弊社ではACZ70U-Wを購入している。除湿時に水が溜まるようになっているので、誰かが定期的に水を流しにいかないといけないことには注意されたい。

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 空気を制御しようとすると、様々なジレンマに悩まされることになる。CO2濃度を下げるには窓を開けざるを得ないが、窓を開けると窓の付近の気温がめちゃ変わってしまう(特に冬には寒風が当たったりする)。雨も入ってくる。花粉症がひどい人は、シーズン中に窓を開けると怯えてしまう(私である)。かと言って窓が閉まったままだとCO2濃度は上がる一方である。

 こと空気においては、オフィスにいる全員が満足する意思決定はない。誰かが満足すれば誰かが不満を持つ。窓を『開ける』か『閉める』か、空調を『つける』か『つけない』か。一つ一つのアクションには、高度に政治的な判断が伴う。どのような意思決定が良いかは、当然オフィスにいるメンバーによって変わってくるだろう。何はともあれ、ステークホルダー皆でしっかり話し合うことが、仮に痛みを伴う決断があったとしても、”””良い空気”””を保つコツなのではないだろうか。

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