明石

「そろそろ昼にしようか」
子午線を超えるかという辺りで
まどろみから呼び戻された

蛸や生姜の入った
出汁に浸して戴く
そのトロッとした料理を
土地の人は親しみを込めて
"玉子焼き"と呼ぶらしい
祭の主催者が教えてくれた

蛸にしてみれば
明石もグリニッジも関係ない
狭い処を好むという
与えられた習性に従い
目の前にある蛸壺に
吸い込まれただけのこと

人は何かにつけて
基準だの標準だのと言いたがる
抗うことを放棄して
粉ものにされた蛸のように
あるがままで居られればいいのに

旅に入ると日常が曖昧になるから
そんな詮無いことをつい考える
腹も落ち着いたところで
再びシートにもたれる

〜蛸壺やはかなき夢を夏の月〜

遠ざかる子午線を思いながら
意識に届いた芭蕉の句は
まどろみに入る前だったか
それとも夢の中でだったか






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?