実子「連れ去り」の現状と背景一実子誘拐ビジネスの闇

「未成年者略取誘拐罪」

 わが国では、両親が口論をしたり、お互いを無視し合ったりするという「両親間の葛藤」や「継続性の原則」という理由づけによって、親子が交流する権利が侵害され続けている。弁護士のアドバイスによる、どちらか一方の実父母による子供の「連れ去り」(監護権を侵害する同意なき居所の移動)、切り離し(DVシェルターへの)の推奨、児童相談所による、子供の実父母からの切り離しの推奨が蔓延している。
 この行為は刑法第224条における「未成年者略取誘拐罪」に該当することが、令和元年11月27日の衆議院法務委員会で、森法相によって確認されている。しかし、一方の実父母による最初の連れ去り、切り離し行為に、この刑法が適用され、警察が刑事事件として適正に捜査を行うことはほとんどなく、稀に行われたとしても「連れ去り、切り離し」を行った一方の父母に特別有利になるような取扱いがほとんどである。検察も起訴することはない。
 しかし、連れ去り切り離されたもう一方の実父母が子供に会おうとすると、検察・警察は同刑法により、全く違う扱いで逮捕、起訴し、裁判所は有罪判決を頻繁に行い、連れ去られた子供に会いに行っただけの一方の実父母は犯罪者になるのである。

●「虚偽DV、虚偽虐待

 この「連れ去り、切り離し」を推奨する弁護士に定着している手法の一つに、「虚偽DV、虚偽虐待」がある。これは、児童の権利条約第9条1の特別な場合として例示されている虐待に関する規定にも違反し、自由権規約第3条、第26条にも違反している。
 わが国では、実父母からDV、虐待の被害があったという申し出があると、事実認定の専門家による調査、裁判所による決定が一切行われることなく、行政による処理にのみ基づき、子供が連れ去られ、切り離された親子の関わりを持てない状態をつくる。これには、居所や就学している学校の所在すら知らせないということも含まれる。
 これは自由権規約第26条に明記されている「法の前に平等」であることに反し、連れ去り切り離された一方の親は、同じ法律の取扱いを受けることができない。実際にDVを受けていて客観的な証拠を保有している実父母であってすら、先に連れ去り、切り離された場合には、同じ扱いを受けることができないのである。
 子供を手許に置き実効支配している親にのみ、事実認定の専門家でない調査官と呼ばれる裁判所職員による聞き取り調査が行われ、その実効支配下にある子どもの連れ去り、切り離しを行っている一方の実父母との関係性のみを、その居所へこの調査官が約1時間程度訪れ、「交流観察」と呼ばれる調査を行った上で、裁判所の公式資料である調査報告書が発行される。子供を連れ去られた親は、親子として同じ裁判の扱いを受けることすらできない。客観的な証拠で、その調査報告書に記載されている内容が明らかに事実に反していても、その調査報告書を訂正する機会すら与えられないのである。

世界に例のない「継続性の原則

 子供を最初に連れ去り、切り離しを行った状態を継続させることが子供の最善の利益を保証するという「継続性の原則」という世界に例がなく、客観的に何の根拠もない、不平等な取扱いがわが国では日常化している。子供を連れ去られた親が客観的な事実を主張しても、その主張自体が「夫婦間の葛藤」を生み、それが「子供の最善の利益」に反するという、世界中で長年行われてきた「子供の利益」に関する研究結果とは真逆の論理によって、受け入れられることはほとんどない。
 ちなみに、児童の権利条約第3条には、「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」と明記されている。

●「排他的単独親権

 この先進国では例外的な、一方の実父母を養育から排除することが可能な「排他的単独養育」の権利(「単独親権」「単独監護権」)を母親が得ることが多く、この排他的単独親権に基づいた子供の養育費の中から弁護士が報酬を得ることが禁じられていないため、金銭的利益のために連れ去り、切り離しをアドバイスする弁護士が後を絶たないのである。
 ちなみに、ある法律事務所の宣伝広告には、「弁護士があなたに代わって養育費を回収するので、『元配偶者には会う必要はありません』」「費用は『成功報酬』一毎月の養育費の3割支払うだけ」と書かれている。このようなあくどい利権構造を断ち切る必要があろう。
 また、児童相談所には、親子を切り離した施設に収容した子供の数に応じて金銭が付与され、切り離しを行う判断は裁判所によって行われるのではなく、その判断が金銭的な関わりがない独立した機関によって検証される機能もない。親子を切り離す実績に応じた金銭を得る組織が、その親子の切り離しを行う判断を自ら行っているのである。
こうした世界の常識に反する日本の異常さが国連の委員会のみならず、世界各国から非難の集中砲火を浴びている。次に、この憂うべき現状について報告する。

国際問題化した「実子誘拐」問題

 まず、2018年3月に、欧州連合加盟国26カ国の在日大使が日本の法務大臣に子供の権利保障のために早急な措置を求めた。そして、欧州連合(EU)議会では、2020年2月に日本の親子問題の現状が子供の「人権侵害」として正式に報告され、EU日本戦略的パートナーシップにおける人権条項違反として、同パートナーシップの凍結、日本人のEUへの渡航に際するビザ免除の停止も含む、日本への制裁が検討された
 また同年3月19日、米英仏伊独並びにニュージーランドなどの大使館が、日本における「子供の連れ去り」「共同養育権」の実現の問題のみを議題として会議を行い、英独伊は、この問題により日本への渡航に注意喚起を正式に発表した。
 さらに、2019年3月、フランスの国営テレビは、「日本、誘拐された子供たち」と題する番組で、「フランス人男性約百人が、日本人パートナーに子供を誘拐され、2人が自殺した」と報じた。そして、同年6月、フランスのマクロン大統領が安倍首相に日本人妻の「実子誘拐」について問題提起し、「容認できない」と直訴した。
 イタリアのコンテ首相やドイツのアンゲラメルケル首相もまた、同月に開催されたG20のグループ会議で、子供に対する両親の権利について安倍首相に懸念を表明した。さらに2020年1月、オーストラリア政府が日本の法務省に対して、家族法を速やかに改めるよう要請し、同国の家族法機関による、日本の家族法改正への専門知識とサポートの提供の申し入れも行われた。
 また、令和2年3月24日の参議院法務委員会で、驚くべき事実が報告された。2018年5月15日、パリにおいて、外務省と日本弁護士会が「国際結婚に伴う子の親権(監護権)とハーグ条約セミナー」を開催し、実子誘拐を指南したというのである。
 ハーグ条約とは、正式には「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」と言い、国際的な実子誘拐問題を解決するため、子供の元居住国への返還手続や親子の面会交流の実現などについて定めたものである。
 このセミナーにおいて、日弁連から派遣された芝池俊輝弁護士がフランス在住の日本人(主に母親)に、「DVの捏造を指南する時に利用する3点セット」について講演した。池田良子『実子誘拐ビジネスの闇』(飛鳥新社)によれば、「3点セット」とは以下のようなものである。

●「実子誘拐ビジネス」の3点セット

<病院の診断書は、「ストレス性腸炎」などの病名で頼めばすぐに発行してもらえる。DVシェルターに「入っていた」という事実も、日本の裁判所では証拠になる。警察や婦人相談所へ「相談した」という事実も証拠として使える。この3点を使えば、まったくDVがなかったとしても簡単にDVの証拠を捏造できるし、日本の裁判所はDVの事実認定をしてくれる。つまり、弁護士が言いたいことは、自分の指導に従い日本に子どもを誘拐してくれば、あとはDVを子の返還拒否事由に入れ込んだ「国内実施法」と、虚偽のDVでも事実認定する「日本の裁判所」の運用とを利用して子どもを返還しないで済むのだ。>

令和2年4月16日、この弁護士の指南通りにやれば、実子誘拐が成功することを確認する最高裁判決が出た。日本人の母親が子供をロシアから連れ去り、ロシア人の父親の許に戻す東京高裁決定を最高裁が破棄し、子供の返還拒否を決定し、審議を高裁に差し戻したのである。

    日本大学の先崎彰容教授は、「リベラルVS保守の立場を超えて、あまりにも単純な男女観、父母観から抜け出さねばならない」「男女平等とは何か」「家族とは何か」こそが問われていると次のように訴えているが、核心を突いた指摘といえる。

先崎彰容「男女平等とは何か」「家族とは何か

    第一に、子供たちは母親を愛するのと同様に、父親を愛する権利をもっている。ところが、私たちは母親が女性というだけの理由で、養育するのを「常識」にしている。だがこれは究極の男女不平等ではないか。
 また、男女の機会均等や不平等をめぐる議論は、圧倒的に「女性の権利が奪われている」という図式でなされる。それが逆転した男女差別が、この「単独親権」なのである。夫=男性=親権不適格者という「図式」だけでは解決が不可能になったのだ。リベラルな立場の人たちは究極の男女平等を追求するために、ぜひとも父母双方に子供と交流する機会を!と訴えてほしい。
 第二に、夫が男というだけで養育の権利を奪われ、「家族」が解体してしまうことが問題である。家庭裁判所の現場でも、未だに「単独親権」、つまり母親の権利だけが重視されている。裁判官までもが女性=親権を持つべきだという男女観、無意識の「常識」に取り込まれている。」(産経新聞、令和元年9月16日付「正論」、「司法は『家族』を取り戻せるか」)

 父親も育児に積極的に参画し共同して監護する「家庭における男女共同参画」が推進されている中で、離婚という夫婦間の事情で親権(母親が9割以上取得している)を一方の親から奪い、一方の親を子育てから排除する社会制度や慣行は、男女のどちらか一方を不利にする状況をもたらし、男女共同参画の趣旨に反する。
    また、養育費の義務化のみをことさらに主張して「共同養育」を軽視し、共同親権に反対する主張を一部の女性団体などがしているが、これは「男性は仕事だけしてお金だけ出せば良い」という、男女共同参画の理念に反する差別意識が背景にある。
 このような歪んだ「逆差別」意識を解消していく必要がある。男性をATMのように扱う主張は明らかな人権侵害であり、このような考え方が男性差別であるという認識を社会に広く浸透させる必要があろう。


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