道徳の教科化に関する私の見解

1、 道徳教育がなぜ今必要なのか、道徳教育の意義はどういうところにあるのか
「道徳の教科化の直接的契機は、いじめの深刻化にあった。これまでも道徳教育はいじめを防止する役割を担ってきたが、道徳教材の読み物の登場人物に対する認知的共感を深めることに偏り、情動的共感を深めることがおろそかになっていた。また、「いじめは許されない」ということを子供に言わせたり書かせたりするだけの授業に過ぎなかった。現実のいじめ問題に対応できる資質・能力を育成するためには、多面的、多角的に「考え、議論する道徳」への転換を図ることが求められている。道徳教育は対人関係能力や自己制御能力等の人間力、すなわち「生きる力」を育成する中核的な役割を担っている。道徳性の三本柱は、①道徳的心情、②道徳的判断力、➂道徳的実践意欲と態度であるが、「道徳脳」の科学的研究によって、①は情動的共感、②は認知的共感であることが解明されており、互恵関係を体験させることによって①と②を育むことが実践的意欲と態度につながることが大阪大学大学院の調査で明らかになっている。それ故に、いじめに対する指導が認知的共感の育成に偏り、「考え、議論する」だけでなく、情動的共感を深めることとのバランスを図る必要がある。
2、 小学校に続いて中学校で道徳教科化が全面実施されるが、どのように評価しているか
「中学生は思春期に入り、親や友達と異なる自分独自の内面の世界があることに気付き始めるとともに、自意識と客観的事実との違いに悩み、様々な葛藤の中で、自らの生き方を模索始める時期である。また、友人関係を重視し、親に対する反抗期を迎え、親子のコミュニケーションが不足しがちな時期でもある。問題行動が多くなるのがこの時期の特徴であり、不登校が大幅に増加する傾向がある。これらを踏まえて、中学校の道徳教育には、⑴自己を見つめ、自らの課題と正面から向き合い、人間としての生き方、自己の在り方を考える⑵社会の一員として他者と協力し、自立した生活を営む力を育成する⑶法や決まりの意義を理解し公徳心を自覚する、という課題があり、これらの課題に応えるために教科化は必要不可欠である。」
3、 小学校での道徳教育の実施状況をどのように評価するか。成果や課題は何か
「明確な指導観を持った指導計画が実践されるようになったが、評価については共通理解されておらず、混乱が見られる。脳科学などの科学的視点から道徳教育の在り方を根本的に見直す必要がある。」
4、 中学校ではいかに道徳教育を実施していくべきか。実施に当たっての不安事項、問題点はあるか
「自己の根源を自覚させる「主体的・対話的で深い学び」が最大の課題である。道徳の授業がつまらなく、学校が楽しくないのは自己認識という教育の目的、教育の原点が見失われ、人間の本質に対する子供の探求心と道徳教育の目標とがずれてしまっているからである。それ故に、子供が価値的な有意味的な生き方を目指して自己実現、自己教育、自律から自立に向かっているかどうかが第一義的評価の観点となる。「学び甲斐」「生き甲斐」につながらず、自己実現、自律から自立につながらないような学習活動は「深い学び」とは言えない。「主体的・対話的な学び」に「深い学び」を追加した背景には、アメリカでのアクティブ・ラーニングの実態への批判があると思われるが、道徳教育における「深い学び」はアクティブ・ラーニングだけでは不十分である。このような「主体的・対話的で深い学び」を実践する教師自身の自己認識や前述した「第一義的評価」ができるかが厳しく問われている。」
5、 中学校の道徳教科書の問題点、例えばLGBTや性同一性教育への触れ方はどうなのか。指導要領に問題点はないか
「中学校の道徳教科書の8社中4社がLGBTなど性的少数者について取り上げている。性的少数者に関する記述は、これまで高校の家庭科や世界史の一部に載ったことはあるが、小学校も含めて道徳教科書では初めてである。例えば、学校図書は2年の教科書で、性のあり方、には「からだの性」「こころの性」「好きになる性」の三つの要素があり、性的少数者は人口の約5~8%いると言われている、と述べている。中学校の学習指導要領には、性教育の指導に当たっては、「発達の段階を踏まえること、学校全体で共通理解を図ること、保護者の理解を得ることなどに配慮することが大切である」と明記されている。また、「子供たちの心身の成長発達には個人差があることから、すべてを集団指導で教えるのではなく、集団指導で教えるべき内容と個別指導で教えるべき内容を明確にし、それらを関連させて指導することが重要となる」と「生きる力」を育む中学校保健教育の手引に書かれている。こうした点を踏まえ、拙著『間違いだらけの急進的性教育』(黎明書房)で指摘したような特定のイデオロギーに基づく過激な性教育に利用されないよう十分な配慮が必要である。」
6、 道徳を特別の教科と位置づけ、通知表で数字評価しないことを、どのように評価しているか
「学力の基盤は道徳性にあるから、道徳を特別の教科と位置づけるのは当然である。道徳は内面の評価に関わるので、点数化して他と比較する相対評価はなじまない。」


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