明治神宮で出会った障害者一櫻井よしこ氏と『実子誘拐ビジネスの闇』の警告

 スポーツジムのトレイナーに薦められてNIKEのランニングシューズを買い、ハワイの全島マラソン走破に向けたランニングプランを立て、走る速度と距離を少しづつ上げていくことにした。様々な筋肉を鍛えるトレーニングは1日3セットずつ行うことにした。
 トレイナーのアドバイスを受けつつ目標達成への努力を続けられることは73才の初心者の私には有難いことであるが、妻を亡くして今まで関わることのなかった方々と話をする機会が多くなった。積極的に私から話しかける機会が増えたからである。

●明治神宮で出会った障害者一「悲しみの奥に聖地がある」

 とりわけ重い障害を持った方々を見ると、つい声をかけたくなる。右半身麻痺になった妻に35日間寄り添ってきた切実な思いから声を掛けずにはおれないのである。明治神宮参拝時にも毎日車いすを押しながらゆっくりゆっくり歩いておられる老夫婦がいる。「いつからですか?」と尋ねると、「10年前から」という。
 もし妻が「急性心不全」で死去していなければ、私たち夫婦も車いすで長い期間明治神宮を参拝し続けていたことを想うと他人事とは思えなかった。昨日お二人に声を掛けると、「奥様も一緒に歩いておられますね」と笑顔で語りかけられてハッとした。10年間毎朝車いすで神宮参拝を続けられる夫婦の絆の深さから確信的に発せられた言葉に胸が詰まった。今朝からスポーツウエアの胸ポケットに妻の写真を入れて「一緒に神宮参拝」したい。
 もう一人、前から気になっていたがどうしても声をかかられなかった明治神宮の境内をかなりひどいびっこ状態で歩き続けている39歳の男性がいた。杖の操り方が尋常ではないので、あまりにも心苦しく声を掛けることができなかったのである。思い切って「いつからですか?」と尋ねると、笑顔で「20年前から」という。「どうして明治神宮の玉砂利の道を歩くのですか?」と尋ねると、「一番訓練になるから」という。20年間敢えてきれいに舗装された道ではなく神宮の玉砂利を歩く訓練を続ける精神の強靭さに頭が下がった。しかも20年間も・・・
 オスカーワイルドが「悲しみの奥に聖地がある」と言ったが、この方々の笑顔を見ていると、10年間、20年間の「悲しみの奥に聖地がある」と確信させられた。私もこの方々のように最愛の妻を亡くした「悲しみ」を乗り越えて、静かな深い温かい笑みを浮かべられる人になりたい。

●「実子誘拐ビジネスの闇」
 
 ところで、note拙稿連載で3番目に反響の大きかった「実子誘拐ビジネスの闇」について再び取り上げたい。本稿でも法務省の審議会メンバーの問題点や「選択的共同親権」民法改正案の問題点などについて問題提起を行い、大きな反響が寄せられた。
 私の教え子にも「実子誘拐」された関係者がおり、私の自宅マンションで弁護士も交えて対策会議を重ねてきた。その中心メンバーの一人が、この「実子誘拐ブジネス」の背後に北朝鮮と関係する極左の活動家たちがうごめいていることを綿密な調査によって明らかにした。
 それらの調査に基づき、櫻井よしこ氏が毎月連載している産経新聞のコラムで、「自民左傾化危うい兆候」「『家族』壊す保守政治家」と題し、「極左の運動家が首相官邸や保守政治家に深く食い込んでいる」と警告した。
 櫻井氏が「謎解きの端緒となる」「戦慄の書」と述べた『実子誘拐ビジネスの闇』(池田涼子、飛鳥新社)によれば、人権派左翼弁護士と認定NPO「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」代表の赤石千衣子氏らが連携して、子供を片方の親(とりわけ父親)から切り離し、公権力で養育費を取り立てる仕組みが築かれつつあるという。
 赤石氏は稲田朋美氏の変身に大きな影響を与えた人物で、朝日新聞論壇委員、法務省法制審議会家族法制部会委員に就任しているが、次のように明言した「家族」「家庭」否定論者である。
 「家庭」を尊重し、「家庭」を社会の単位とする捉え方では、家庭における女性に対する暴力は見過ごされてしまう。戦前の「家」制度の下での忍従の記憶が女性たちに強く残っていて、女性たちが大規模なデモを行い、次の選挙で自民党を少数政党に追い込んだという歴史がある(平成17年10月30日講演「平和憲法が危ない!:家族はお国のためにあるんじゃない」)。
 池田氏によれば、赤石氏が共同親権制度導入に反対する理由は、①一夫一婦制という家族制度破壊に単独親権制度が有効であり、②共同親権制度を導入したら、児童扶養手当てというシングルマザー利権(離婚家庭に毎年4000億円超を支給)が失われる恐れがあるためであるという。
 山田太郎・自見はなこ参議院議員が共同事務所を設置して開催してきた「チルドレン・ファーストの子ども行政の在り方勉強会」の第15回勉強会で赤石氏が講演し、実子誘拐擁護・離婚後共同親権を主張する文書を配布した。
 山田太郎議員のホームページによれば、政府が準備に着手した「こども庁」の当初の案は「子ども家庭庁」であったが、被虐待経験のある女性が同勉強会で講演した際、虐待を受けた子供たちは「家庭」という言葉で傷つくから名称を変えてほしいという指摘を受けたからであるという。
 このような不当な理由で「家庭」を削除する自民党議員の不見識さには開いた口が塞がらないが、第15回勉強会では「包括的性教育」についての講演も行われている。これはジェンダー平等や性の多様性を強調する性教育であるが、2013年にバンコクで開催された国連アジア太平洋人口会議において、包括的性教育という用語を盛り込んだ閣僚宣言は、ロシア、イランなどが反対し、反対意見も明記された。
 さらに、国連人口開発委員会でも、2014年にヴァチカンなどが反対し、翌年にもアフリカグループが国内の文化・宗教を踏まえた性教育を行うべきだと反対し、歴史的な決議文書非採択の引き金となった。
 わが国で「包括的性教育」を推進している中心人物は、筆者が拙著『間違いだらけの急進的性教育』(黎明書房)で批判した山本直英氏の後継者(“人間と性”教育研究協議会代表幹事)の浅井春夫氏で、昨年10月に大月書店から『包括的性教育一人権、性の多様性、ジェンダー平等を柱に』を出版している。
 かつて自民党の安倍晋三座長の下で実施された「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト」で問題視された「過激な性教育」推進団体が国連などを利用して新たな装いで全国展開を画策している「性教育」は真に「包括的」なものではない。
 「子ども基本法」制定を目指す第1回研究会に招かれた荒牧重人氏は、子供の人権を拡大歪曲解釈した川崎市等の「子どもの権利条例」を全国的に推進し教育現場を混乱(『文藝春秋』平成3年11月号の拙稿及び拙著『児童の権利条約』至文堂、参照)させてきた張本人である。また、平野裕二氏は「国連・子ども権利委員会」の傍聴を1992年から続け、同委員会に積極的に働きかけてきた市民活動家で、こうした人物を最初に招くのは不見識も甚だしい。
 最終的に「家庭」を盛り込むことで決着した「こども家庭庁」論議が、子供の権利や性教育を歪曲する「誤った子供中心主義」の推進者や、赤石氏ら実子誘拐を推進する人々の影響下に置かれないように厳しくチェックし、バランスの取れた審議を尽くすよう強く求めたい。


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