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【 3Dプリンタールアー】積層強度についての考察

初めに

バスフィッシングにおいて、ルアーにはたびたび大きな衝撃が加わります。ミスキャストによってモノにぶつけてしまう、魚との強引なファイトで破損、長期に渡る使用による劣化などさまざまなシチュエーションが考えられると思います。今回は3Dプリンターでルアーをつくる際の強度についてお話ししたいと思います。

物性について

ここでいう樹脂はマスプロダクションルアーによく使われるABS樹脂を想定しています。3DプリンターにもABSはよく使われます。ABSの特性は適度に硬さを持った柔らかい素材で、衝撃が加わった際にパキンと割れずにある程度は樹脂が塑性することで衝撃を吸収してくれます。

表現としては粘り強さがあるといった印象です。加工性に優れながらも強度を持っているため広く製品に使われているのだと推察されます。

傷や凹みのような塑性的な破壊の仕方が理想(完全破壊に至らずに衝撃を吸収できている

製法による比較(射出成形と熱溶解積層方式)

同じ樹脂といえど、射出成形と熱溶解積層についての製法の違いを理解しなければなりません。一般的にほとんどのメーカーに採用されている射出成形は、金型に溶かした樹脂を注入して成形する製法です。樹脂を金型に流す際に圧力をかけながら一体に成形をすることができます。樹脂自体の物性に限りなく近い性能を引き出すことができる製法と言えます。

一方、熱溶解積層方式は3Dプリンターに採用されている製法の一種で、紐状の樹脂をある程度溶かして縄文土器のように積層していくやり方です。一層一層造形していくため、ルアーが破損したりする際は積層割れと言って紐が解けるような破損の仕方をします。

したがって、造形品の強度は樹脂自体の機械的特性よりも積層強度によって強度が決まります。いくら強い樹脂を使ったところで、造形物の耐衝撃性に直接はつながらず製法と合わせて評価しなければなりません。

積層割れの例。フィラメント(紐状の樹脂)の密着度が悪かったため、橋脚にぶつけた際に積層部分から剥がれるように破損している

造形強度の高め方

さて、造形強度を上げるには積層間の密着度を上げることが重要です。ここでは基本的な要素である造形スピード、積層ピッチ、温度管理、素材管理について触れたいと思います。造形がうまくいかない場合、この数値をいじることで大方の部分は解決されます。

造形スピード>>>できるだけ早い方が良い

造形スピードはできるだけ早い方が良いです。これは樹脂が熱を保持している(溶解状態にある)うちに積層させることで分子間の結合をより有効にさせることができるからです。

樹脂は一旦冷えてしまうと次の積層において結合が悪くなるので、次の積層までの間隔を短くするイメージで設定してみてください。一方でスピードを早める場合は樹脂の吐出量を数%多めにすると積層間の密着度が上がります。

積層ピッチ>>>できるだけ細かい方が良い

これは射出成形の話とリンクします。積層ピッチを細かくするとノズルが造形物に押し当てられるようになるため積層面が広がって密着度が上がるとともに、圧力がかかるため分子間の結合をよくします。部分的ではありますが射出成形と同じような状況を作り出すことができます。

温度管理>>>できるだけ暖かい状態を保つ

溶解状態になった樹脂同士を接触させ、しっかりと密着させるために造形物が温かくなる状態を保つことを心がけます。樹脂が保温された状態にして冷却をできる限り遅らせることで分子間結合により時間をかけることができます。

加えて、溶解状態でいる時間が長いほどABS の冷却収縮による歪みを矯正しやすくなるので精度向上にもつながります。ノズル温度、ベッド温度を低くしないことはもちろん、3Dプリンター自体の置き場所を暖かく保つことも有効です。

adventurer3はエンクロージャー(3Dプリンターを囲む壁)が初めからついている。冬場など寒さが厳しい時は印刷中にダンボールなどをかぶせ温度を保つ。

素材管理>>>乾燥状態に保つ

樹脂はモノによって差はありますが、吸湿します。空気中の水分を吸ってしまうと、出力の際に樹脂を溶解させると水分が気化するため樹脂の中にごく小さな気泡が発生します。これによって密着度が下がるのみならず樹脂自体の強度も落としてしまいます。一度吸湿してしまうと気泡ができる状況は避け難いため、そもそも吸湿させないように造形しない場合は樹脂はシリカゲルなどと一緒に保存しておくのが良いです。

自作フィラメントケースによって湿度を管理している。夏場の湿度の高い環境でもケース内は極めて高い乾燥状態にある

バランスの良い設定を心がける

色々説明しましたが上記は基本的には強度を上げるための操作となり、実は造形精度と引き換えになる側面も持ち合わせています。造形スピードが速すぎると造形が乱れたり、逆に遅くなると積層だれと言って傾斜部の積層では造形物の積層が垂れたりします。

積層ピッチが細かすぎると樹脂を押しつぶすので表面がうねったりします。造形物にも適切な設定があるので一概に設定がベスト、というものはないので色々と実験してみることが大切です。

向かって右のルアーの下部が積層だれを起こしている。やすりがけを行えば良いのだが、手間はかかる。

また、造形時間やコストといった造形精度とは別の評価軸もあるので自分に合った設定を試してみてください。また、意図的に糸引きを起こさせたり、積層痕を目立たせたりといった表現手法もあり3Dプリンターの表現はまだまだ無限に広がっています。

積層痕を強調させ、隙間に塗料を流し込んだ表現







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