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投球障害肘改善のための前腕回旋機能評価とアプローチ

C-I Baseballで投球障害肘についての記事を担当させていただいている新海 貴史です。

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普段は整形外科病院で投球障害の選手のリハビリテーションを行い、競技復帰をサポートしております。現場での帯同は行っておりませんが、臨床目線でお話させていただければと思います。

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2021年度のC-I Baseballが発信する「トレーナーマニュアル」では、
野球のケガに関わる専門家向けの臨床編
選手のパフォーマンスに関わる現場編について配信していきます。

今回は臨床編として”投球障害肘改善のための前腕回旋機能評価とアプローチ”について私なりの意見も含めながら説明させていただきます。

少々長くなりますが最後までお読みいただけると幸いです。

■はじめに

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前回の私のnoteでは”投球障害肘改善のための肘伸展機能の評価とアプローチ”ということで主に肘関節の伸展制限についての説明をさせていただきました。

今回は前腕の回旋機能、すなわち前腕回内・回外の運動になります。

投球動作は開始から終了までが約2〜3秒という短い時間の中で起こる運動であり、下肢から生じた力を体幹、上肢へタイミングよく伝達し、上肢末端部の運動速度を加算しながら最終的に指先▶︎ボールへ力を伝える運動になります。

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ボールを加速させる際、各関節において肩関節は外旋から内旋、肘関節は屈曲から伸展、前腕は回外から回内、手関節は背屈から掌屈および撓屈から尺屈、手指は伸展から屈曲運動が生じます。

各関節が十分な柔軟性や筋出力などの機能を持つだけではなくそれらがタイミングよく連鎖することで力強く微細な”投球動作”が遂行されると考えます。


■前腕回旋機能と投球動作

前腕回内外運動に伴い、腕尺関節腕橈関節近位橈尺関節遠位橈尺関節で関節運動が生じます。この様に多くの関節が関わる前腕運動が破綻することによって、肘関節周囲へのメカニカルストレスが増大します。

また前腕運動が破綻することにより、肘関節から手指への運動連鎖がスムーズに行われなくなり、ボールへのエネルギー伝達不良が生じます。

また投球時における肘外反ストレスに対する動的制動機能として前腕回内屈筋群の機能が重要であることは多くの研究や文献でも報告されています。繰り返される投球の負荷の中で前腕筋群は酷使され、タイトネスや滑走不全が生じていきます。

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|テイクバック

前腕回内の可動域制限があるとテイクバックで肩関節の過剰な内旋運動を引き起こす可能性があります。肩関節の過剰な内旋運動が生じた状態で外転運動を行うことで肩峰下インピンジメントのような肩障害を惹起する危険性がありますので、前腕回内可動域制限の有無をチェックすることが重要です。

また肩が過剰に内旋位になると肩関節が外転しにくくなります。テイクバックで肩の過剰な内旋が生じることは肘が十分上がらない選手の多くに存在する問題になります。

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肘が上がりきらない状態でLate cockingを迎えれば肘関節外反ストレスも増大してしまい、投球障害肘に繋がります。

このように前腕の可動域制限は肩関節の障害にも肘関節の障害にも影響する可能性があります。

|アクセラレーション〜ボールリリース

リリース直前の前腕回内運動は肘関節障害に影響を与えます。

ボールリリースにかけての肘関節伸展運動に対する前腕回内運動のタイミングが遅延すると尺側手根屈筋が肘関節内側の動的支持機構として機能しやすくなると考えられます。

前腕回内運動のタイミングが適切であれば前腕屈筋のほとんどが動的支持機構として機能しますが尺側手根屈筋は肘外反ストレスへの寄与が小さいため回内運動の遅延により肘関節内側に大きな外反ストレスがかかることに繋がります。

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また回内の遅延が生じることにより手首が寝やすくなりボールの指へのかかりや回転軸にも影響が及ぶと考えます。


■前腕の回内外の機能評価

前腕の回内・回外運動は橈骨が尺骨の周りを回転する運動で、回旋軸は手関節の尺骨頭と肘の橈骨頭を結んだ直線になります。日本整形外科学会が定める参考可動域は肘関節90°で計測を行い、回内・回外ともに90°とされています。

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日本整形外科学会の測定方法では移動軸が”手指を伸展した手掌面”となっていますが手掌面で可動域を評価した場合、手関節や手根骨の回旋の可動域も含まれてしまうため注意が必要です。

静的なアライメントとしてそもそも前腕に対して手掌面が歪んでいたり、捻れているケースもあります。捻れがある場合、手掌面での可動域評価はそもそも正確な前腕の可動域を評価できていないという事を認識することが大切です。正確に前腕の回旋可動域を評価する際には、まず最初に前腕に対して手部がどのような位置にあるのかを捉えることが重要となります。

あくまで見たいのは前腕の動きであり、その動きを分かりやすい部分である”手掌面の向き”で抽出しているだけなのです。

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|回内外可動域評価

可動域評価の際は、橈骨・尺骨遠位を指で押さえて”前腕”の骨がどのくらい回旋するのかを見ていきます。その際、セラピストの母指球を選手の母指球と小指球に当てて、前腕と手の回旋度合いを感じ取るようにします。

*下の画像は回外時の持ち方です。

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前腕の回旋可動域を確認したら、橈骨骨体の動きの評価に移ります。

橈骨頭の軸回転によって、橈骨骨体は尺骨上を周回するように移動します。橈骨骨体の湾曲形状(クランク形状)は尺骨との衝突を避けるのに役立っています。

橈骨近位部を把持して、回内外の動きに追従して生じる橈骨の運動を触知します。動きが大きく捉えやすいのは遠位部ですが、遠位部に対して近位部がしっかりと追従して動いてくるのかを確認していきます。

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次の項目で説明をしていきますが、内側をM:Medial、外側をL:Lateral、背側(後方)をP:Posterior、掌側(前側)をA:Anteriorで記載します。

◉回内運動

POINT

・前腕遠位部を把持して回内方向の可動性を評価

・橈骨近位部を把持して橈骨骨体のL➡︎M方向の可動性とP➡︎A方向の可動性を確認

・前腕の近位部と遠位部を把持してどちらもしっかりと動いているかを確認

・左右差をチェック

◉回外運動

POINT

・前腕を把持して回外方向の可動性を評価

・橈骨近位部を把持して橈骨骨体のM➡︎L方向の可動性とA➡︎P方向の可動性を確認

・前腕の近位部と遠位部を把持してどちらもしっかりと動いているかを確認

・左右差をチェック

⚠️回内外の可動性を見る時には肘が内側や外側に動いてくる(肩関節内転・外 転)代償を見逃さないようにしましょう。

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