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(8)報連相の欠落が引き起こす、様々な事象(2024.1改) 

総務省から金曜に届いた質問内容の回答期日は、週明けとなっている。

「何故、NH〇は富山県の「コロナ明け宣言」「2つの研究所設立と国際都市化」「脱・電力会社、電力・ガス・水道・ネット事業の県営化」を、富山のローカルニュースであっても一つも報じないのか?」と箇条書きになっていた。どれも富山県の最近の動きであり、内容としては世界に誇れるものばかりだ。しかし、何故か不偏不党であるはずの公共放送が伝えていない。
前政権になってから顕著に見られる傾向なのだが、与党に都合の悪い話題は伝えない。稀に伝えたとしてもお粗末なお座なりな扱いであったりする。
総じて国営放送の、独裁国家の体制寄りのメディアのような姿勢が国内はもとより海外からも問題視されている。 ​​​

「経団連金融機関出身の会長の指示です」「経産省・厚労省閥等の与党内の重鎮古参議員達による圧力です」とバカ正直に回答されては困ると、レベルの低い次元の会議が週末に繰り広げられていた。N〇〇だけでなく、フジサ〇〇イグループ、JN〇系列にも同様の質問状が届いており、3社それぞれの首脳達が頭を抱えているのが目に浮かぶ。

従来の総務省では、あろうことか総務大臣自身が報道内容を事前閲覧して「隠蔽」を指示し、外からの批判や意見を握り潰していた。しかし現政権になって社会党が関与するようになると状況が一変した。
阪本特別顧問が総務大臣に就任すると、「デジタル庁設立の矛盾」を突いてデジタル庁設立は見送られ、一部の県でAI導入で実績が出て旧態依然なシステムとなった今更感が漂う省庁クラウド、地方行政クラウド計画は共に座礁する。
総務大臣の現在のトピックスは「マイナンバー制度を税金の無駄使い」とコキ下ろしているのと、古泉政権下の総務大臣の発案で法制化した、非正規雇用制度を問題視しており、これ迄、放送メディアへの言及は皆無だった。
阪本大臣が作為的にメディアの話題に触れてこなかったのは、プルシアンブルー社が始めた25チャンネルのテレビラジオ放送局「AsiaVison」が視聴率を伸ばし、既存の放送局が低迷するのを待っていたからだ。また、テレビ局には伝統的に番組制作の下請け会社が存在し、非正規雇用と同じ2重構造の問題を元から抱えている。

「非正規雇用や、ゼネコンや放送局等の企業に見られる下請け構造が、コロナ前までのデフレ経済とG7最下位成長率を支えていると言っても過言ではない。
来春、世界中でコロナが明ければ、生活物資高騰と円安が進むのは確実とされている中で、我が国の労働者の4割を占める非正規雇用者が困窮するのが目に見えています。
私は非正規雇用制度の順次撤廃を提案したい。
財源に企業内部留保金と政府がストックしている莫大なコロナ対策費用を制度改革に当てるべきです」といった発言を大臣が繰り返しており、国民大多数の賛同を得ていた。

内閣支持率の下落を支えているのは阪本総務大臣と前田外務大臣、越山厚労大臣の社会党推薦の3人とも言われている。実力・実行力がずば抜けており、活発に動き目立った成果を上げ続けている。その反面、与党選出の大臣の無能っぷりと不甲斐なさが露わとなっている格好だ。
コロナ特効薬製薬成功に続いて、拉致被害者開放を求めて北京で交渉中の外相が成果を上げると、3人の政府内での存在感は更に増し、社会党の影響力が今まで以上のものとなると見られていた。

そんな状況の中で、総務省が〇Hkに対して質疑を求めてきた。
不偏不党を掲げている公共放送が与党に都合が良い放送局であるのは誰もが知っている。
方やプルシアンブルー社はCMを最小限にとどめて、25チャンネルもの無償の放送局「AsiaVision」を始めており、来年度からは教育専門チャンネルの放映を予定している。
「公共放送のあるべき姿」を見せつけるかのように「AsiaVision」が急拡大・急成長している中で、受信料を国民から巻き上げて成り立っているような放送局が、「何故、体制に従い続け、あからさまな偏向報道が出来るのか?」と脅しているような状態だ。
社会党や富山知事が公共放送に関して何も発言していないので、大した騒ぎになっていないが、今回の質問に対する回答を間違えるようだと、これまでの偏向報道の数々を他局やメディア各社からアラ探しされて、針の筵となるのは目に見えていた。

当然ながら、公共放送は会長辞任、民放2社は社長退陣の方向で話が進んでゆく。

ーーーー

北京に滞在中の前田未来外相は、同窓で親友の金森富山県知事に3度目の支援を要請する。
拉致被害者開放の条件として、北朝鮮が新たに求めて来た食糧援助が最後に必要だ と。
前田が金森と結託して、コロナ製剤、石油提供、コメ提供の準備を社会党が予め段どっていたのを知っている外務省は、3度目の支援内容も外相に任せて黙認していた。

最初の拉致被害者開放以降、口先ばかりで何もしてこなかった与党と政府に相談も報告もする必要はなかった。国民の救助という当然の責務を怠ってきた政府の代わりに「税金を使わずに救出出来た」事実を内外に知らしめるのが重要だった。
そう、歴代の政権が何もしてこなかった事実を世界中に明らかにするには、最良の方法と言える。外務省は社会党の計画に完全に同意する。拉致被害者開放だけでは、話は終わらないのだ。
壮大とも言える、このプランを誰が描いたのか?外相と北京に居る里中と、外務省で待機中の外務次官だけが、計画の立案と実施に携わっている人物を部外者として知っていた。

月曜の朝、富山知事が緊急記者会見を開くとマスコミ各社に連絡があった。
富山に拠点のある各社が富山県庁に動くと、周辺県のメディア各社も富山に参集する。
外相が北京入りしてから、国内で采配を奮っているのは知事だと薄々は察していた。北朝鮮に送ったコロナ製剤もカナダからやって来た中型タンカーの石油も、国は一切費用を持っていないのが調べから分かっていた。
外務省が富山県の指示に従って、北京やソウルの日本大使館と大使に要請して物資受け入れに奔走している。何より富山空港には県が抑えたチャーター機が週末から停泊していた。チャーター機にはコロナ製剤だけでなく、各種ゼネリック薬やビタミン剤等の医薬品が積み込まれている。
この問題を追い続けている新潟の記者や在京のメディアの記者にとっては胸アツ、感涙の舞台が着々と進められているのが分かっていた。
富山大病院の病室を予約し、医師団の派遣チームに招集された医師達も以降のスケジュールを丸々開けている。拉致被害者の家族たちも次々と富山に向かっている。

「開放」が実現しなければ空騒ぎになるのと、交渉に支障をきたしてはばらないので報道を控えて来たが、舞台は遂に整ったのだろうとメディア各社が富山県庁に参集する。

ーーー
富山に冬休みで滞在中の孫や養女達も県庁の会議室に居た。祖母と父が成し遂げようとしている現場をその目で見てもらいたいという母親達の思いによるものだった。
会見の予定時間に合わせて、子供達と数名の友人達は会見室に移動した。

その頃、知事は県庁内の執務室にいた。
7月の同じ日に2人で当選して政治家に転じて、この日が迎えられた事に驚いていた。

自分と同じくらいの少女が、新潟で行方不明になって騒ぎになっていたのは覚えている。
暫くの間、五箇山まで学校の集団登下校で警官や保護者が引率し、外で遊ばなくなった。
その後、少女が北朝鮮に連れ去られたのが明らかになり、少女の苦しみや絶望感を想像した。子供ながらに北朝鮮は酷い国だと知っていたし、親達が報道を見ながら憤っているのを見ていたからだ。彼女を始めとする被害者を、独裁国家から救い出さねばならない・・。

「そろそろ時間です。参りましょう」
秘書で娘の蛍に言われ、鮎は立ち上がる。足の運びを変えて娘に近寄ると、不意打ちの様に抱きしめる。

「ちょっと。あんさん、泣いてる場合じゃありまへんで。ええでっか?息子さんとお孫さんたちの前でビシっと決めなはれ。なんたって、滅多にお目に掛かれない世間大注目の会見せやさかい」
感極まったのか、緊張しているのか分からないが、怪しい関西弁で母親をリラックスさせてみる。

「ゴチャゴチャうるさい娘だねぇ、もうちょっと黙ってなさい・・」
涙混じりの声が帰って来たので、母の頭を優しく撫でた。

ーーー

首相官邸に外務次官が到着し、閣議中の首相に伝達を頼んだ。
「拉致被害者4名、本日日本時間13時に平壌空港にて引取りで合意」と。閣議が即座に中止になるのが、本郷外務次官には分かっていた。逆に全く想像もしていなかったのは、自分の在任中に戦後最大の課題の一つが決着しようといている、正にたった、今・・。事務次官はハンカチで目頭を押さえた。

杜 火垂は参考書を閉じる。
母が会見場に入ってくる。村井幸乃副知事を筆頭とする他県他市の候補者が頭を下げて知事を出迎える。母が壇上に立った。
暫く間を置いてから、ゆっくりと何も見ずに話し始めた。
「さっきまで​泣いてたな・・」知事の目が違うのに火垂は気づいていた。
会見室の出入口で会見を見守る、元母で姉の蛍を見つける。この2人をこの場に押し上げた父は、東北に居る。
7月に政治家となって丁度5ヶ月になろうとしている。教師を辞めて大正解だったじゃないかと、この日の主役2人の息子は思っていた。
養女の4人の姉は泣いているし、妹や高校の後輩達、そして彩乃も泣いている。
あの夏の日から大きく方針転換した杜家は、歴史に名を刻むまでになった。
異母兄からは「お前が杜家の長男だ。俺は弟達の相談役に徹する」と何度も言われたが、今日になってその意味が分かったような気がした。

副知事を団長として、大学教授や准教授の他県他市の候補者が拍手されて富山空港へ向かって、会見は終わった。
「最高!いいぞ、金森知事!」火垂がサムズアップしながら大声で言うと、弟達が指笛を鳴らして、拍手を打ち鳴らした。
口火を切ったのが長男の火垂だったので、知事の涙腺が決壊する。息子にこの場を見せる事が出来て、その上、成果を称賛してくれたのが何より嬉しかった。
突然の知事の涙に、記者たちが呼応するかのように立ち上がると杜家の子供たちの拍手に合わせるように手を合わせ始める。会見場の入口では、知事の娘が泣きながら拍手している。
・・そんな映像が日本全国に流れていた。

この会見が発端となり、杜家の子供たち、養女たち、そして教え子たちの中で何かが変わってゆく。胸を熱く高揚させていたのは火垂だけではなかった。

「政府ではなく、一人の知事と有能な都議が作業を分担し、見事に成果を収めて見せた。俺はあの二人の息子で、杜家の長男だ・・」記者に背を向けて泣いている母の後ろ姿を見て、火垂なりの決意を固めた。

ーーー

「今の声は火垂かな? それとも歩かな?」と思っているとクルマは石巻市に到着する。

これから漁港に向かい、漁労長や漁協の幹部たちと会談後、昼食。午後は、笹かまぼこ製造工場を視察し、製造工程を映像に収めてAIと解析し、工程改良プランの素案を提示する。
市内の大手量販店を訪問し、空き店舗の確認後、東松島市に移動のスケジュールとなっていた。この日の引率は笹かまぼこ会社の会長職の塩屋さんと、東松島市の網元で加工水産物の製造販売の阿東さんの2人だった。

再建されまだ真新しさの残る漁港を2人に案内されながら歩いていた。
富山の漁港と違うのは気仙沼もそうなのだが、長年遠洋漁業と養殖を手掛けており、漁獲量も港の規模も桁違いだという理解をしていた。同じ遠洋漁業でも三浦港ではなく、清水・焼津クラスの重厚感がある。

本来なら石巻市に意識を集中せねばならないのだが、案内してくれている2人には申し訳なく思いながら、富山県での記者会見の場を想像していた。
会見に家族が立ち会っていたのなら良い判断だったと義母と妻の対応を褒めよう。娘はどう思っただろうか?末っ子の圭吾と長男の火垂では受け止め方が、どう変わるのか?・・と考えていた。
合わせて一つの私的な決断をする。真麻のお腹にいる子を他所の家に託すわけにはいかない。生まれの経緯はどうあれ、責任を持って育てるべきだと決めた。

また、北朝鮮も被害者開放で終わりでは無い。
父親の犯罪行為とは言え、国家とバカ息子にはなんとしても責任を取らせると決意を新たにしていた。長期間に渡って日本人を拘束しただけでなく、人質のように扱い、開放の条件として物資まで求めてきやがった。慰謝料、ペナルティ料まで含めて全額回収が完了するまで、徹底的に搾取し続けてやろうと改めて誓う。
悪党へ税金で施しを与える与党のようなマヌケではない。事業赤字は商人の沽券に関わる。借金積み増しなど以ての外で、救出経費とは言え、1円たりとも損をしてはならない。
悪党なんてもんは、身ぐるみ剥がして野に晒してやるのが順当なのだ。

説明していても、何やら企んでニヤけて居るので、客人を振り向かせようと阿東も塩屋も胸を押し付けたり、階段で下着を見せたりするのだが
全く反応が無かった。後で2人からクレームを貰い、その晩は奉仕に徹するよう強要される事となる。
ーーーー

獄中から啓子と娘の真麻の連名宛で届いた手紙には、元秘書の宮崎からの過剰なまでの謝意から始まり、梅下家と契約している弁護士と会って話をして欲しいと綴られていた。
啓子は娘に悟られぬように弁護士事務所に電話し、真麻の母だと告げて、面談のアポを取り付けた。

山田作治弁護士事務所がある、虎ノ門までやってきた。
銀座線内で拉致被害者開放の速報を知る。杜家が大金星を上げたと思うと、誇らしくなる。中心人物に娘2人が世話になっていると安堵し、規格外の男の種を得た孫の誕生を心待ちにしてしまう。地下駅から地上まで上がって来ると街中では号外が配られており、道行く人々の表情に優しい感情が浮かんでいるのを見て、ふと目前に現れた小さな神社で、被害者の無事な姿での帰国を 啓子は願った。

中層階まで上がるエレベーターに乗り込む。相当儲かっている事務所だと、同じ士業である啓子は当たりを付ける。
応接に通されて、窓から東京の街並みを一望する。娘たちの場合、次第に街中の人の流れを感じるようになると言っていた。
1kmも高さのある高層ビルは無いので、この高さでも把握できるのだろうか?、と啓子は驚く。
娘たちに動物飼育アドバイザーを提案したのも、姉にモリの専属秘書兼愛妾役を勧めたのも、啓子だった。娘たちに能力が備わって2ヶ月、それ以外の使い方を考えねばならない時期でもある。
廊下を2人が歩いて来るのが音で分かり、ゆっくりと目を開ける。
娘や姉なら、もっと離れた場所から把握しているのだろうと考えると「もはや魔法の領域だね」と他人事の様に思いながら、笑みが溢れる。

梅下家の担当弁護士から話を聞き、啓子は状況を理解する。
梅下議員が生前時に作成した遺言書が有るらしい。しかし、存命中には継嗣が居なかったので遺言対象者が抽象的なものとなっている、生まれて来る赤子が正式に相続を受けるには成人まで待つ必要があるのと、その時点で梅下家の合意が必要となる。
しかし政治家には例外規定があった。。梅下の個人事務所が持っている政治資金には相続税が掛からないのだ。政治家が世襲制のようになる訳だと啓子は合点する。
今回のケースで当て嵌めてみると、相続者の関係者、つまり祖母である自分や母親の真麻が相続者が立候補可能な年に成長するまで、暫定的に政治家梅下の政治基盤を継ぐことが出来る。その時点で政治資金の利用につき法律事務所が個別の相談に応じるという。
啓子にとっては、願ったり叶ったりの状況となった。

都内へ出てきて、最も気分の晴れやかな一日となった。

(つづく)


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