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人間同士の対立で疲弊したくない!!「前提」を共有する大切さ。

 日々、多くの患者さんに関わり、他の医療従事者と一緒に仕事をしていると、どうしても価値観の違いや、意見の食い違いで対立するような構造になってしまうことがあります。みなさんはどうでしょう?仕事中のこういった対立関係が続くと心身が疲弊し、仕事に行くのが嫌になってしまう方もいるのではないでしょうか?

 患者さんはある日突然、急に自身に降りかかってきた病気や怪我を何とか早く治して家に帰りたいと願いながら、入院したり通院したりしていると思いますが、そういった患者さん一人ひとりは全然違う人間なので、考え方・価値観は様々です。また、医療は他職種連携・チームアプローチが重要であると言われます。患者さんの診療に関わる医療従事者は、それぞれが専門の資格を有していて、それぞれの専門分野から見た考え方を持っているため、職種間の意見の食い違いなども非常に多いのではないかと思います。そう言った意味では、医療関係職種の方々は特に、人間同士の対立構造を形成しやすいのではないかと思います。(医療関係以外の職種においても同様かもしれませんが)

 今回は、不要な対立により、心身が疲弊していくことがない様に、自分自身が学習し経験したことをベースに、対応策について多少文献も引用しながらご提案させていただこうと思います。

■まず結論から


 さて、結論から言えば、タイトルにもあるように、「前提」にある考え方を共有するということが非常に重要であると考えています。その考え方に至ったのはある書籍を読んだことがきっかけでした。

『医療関係者のための信念対立解明アプローチ コミュニケーション・スキル入門』

 この書籍は、タイトルの通り医療関係者が遭遇する「信念対立」を「解明」するためのコミュニケーションスキルについて書かれています。
 ざっくりと言えば、構造構成主義という哲学理論を基盤として、信念対立の「構造」を分析するための、具体的な方法論について記述されています。この書籍の中では、信念対立を解明するものを「解明師」として、その心構えや振る舞い方(言葉の選び方や傾聴の仕方など)について詳細に記述されており、内容が非常に具体的なので実践へ結びつきやすい印象を持ちました。また、提示されている方法が非常に「原理」的であり、心底納得させられました。
 今回は、構造構成主義や信念対立解明アプローチについて、詳細に記述することは控えますので、もしよろしければ上記の書籍を一読いただければと思います。

注:原理 

原理とは、特定の関心から論理的に考えていけば、誰もが共通了解に至る可能性を担保した理路です。言い換えれば、原理とは、立場の異なる人々でも、丁寧に考えていけばわかりあえる可能性を備えた思考の道筋だということです。
京極真『医療関係者のための信念対立解明アプローチ コミュニケーション・スキル入門』誠信書房(2011)

↑こちらは事例を通して簡単に解説されていて、もっと分かりやすいのでオススメです!

話を戻します。

 今回は、「前提」を共有することの大切さについて、「志向相関性」の原理を参照しながら記述していきます。

■志向相関性

 志向相関性について、先ほどご紹介した書籍の中でこのように記述されています。

志向相関性とは、存在・意味・価値は、身体・欲望・目的・関心に相関的に規定される、という原理です。つまり、あらゆる構造のあり方、理解、評価などは、対象への向かい方に応じて与えられる他ない、というわけです。
京極真『医療関係者のための信念対立解明アプローチ コミュニケーション・スキル入門』誠信書房(2011)

 ちょっとわかりにくいかもしれませんが、
我々に身近な例をあげると、タバコの良し悪しに関して考えてみましょう。

 喫煙者にとって「タバコは人生においてなくてはならないものであり、喫煙をすることで精神を落ち着かせ、穏やかに生活できている」などといった主張はありがちではないでしょうか?しかし、医療従事者、とりわけ禁煙を進める医師にとっては、喫煙は医学的に「悪」であり、基本的には良しとされるものではありません。さてこの場合、どちらが正しいと言えるでしょうか?やっぱりタバコは体に悪いから、タバコは悪いものでしょうか?老い先短い人生で楽しみタバコを取り上げられたらたまらない!だから、タバコは良いものでしょうか?

 さて、みなさんお察しのとおり、このタバコの例においては、その良し悪しは、タバコというものを、どのように受け取るかによって決まっていると言えるのではないかと思います。つまり、タバコの良し悪しに関して考える上では、上に引用した様に「身体・欲望・目的・関心に相関的に」決まっているということが言えるのではないかと思います。対象(ここではタバコ)に対して、どの様に向き合うのか?について考慮しなければ、その良し悪しについて判断はできず、どんな状況下においても同様に良い(または悪い)と決まることは起こり得ないということが言えると思います。

 物事の正しさ(良し悪し)というのは実は非常に曖昧な概念なんだと思います。物事の正しさについて、判断をする場合、対象(物事)を認識する人が、どの様に対象に向かうのか(身体・欲望・目的・関心)を認識した上で行わなければならないということになります。今回は、タバコの良し悪しを例に話を進めましたが、基本的にはどの様な物事においても同様のことが言えるのではないかと思います。これが志向相関性「原理」と呼ばれる所以です。

■前提とは

「前提 意味」とGoogleで検索をすると、以下のように記述されていました。

前提
 推論の際、結論を導く基(もと)となる命題。転じて、ある事が成り立つための前置きとなる条件。
Oxford Languagesによる定義

 前提とは物事が成り立つための前置き・条件ということは、大きく言えばスポーツにおけるルールや法律などが該当するのかなと思います。上述したタバコの例で言えば、人がタバコに対してどの様な意味・価値観を持っているか?ということが「前提」に該当する事柄になるのかなと思います。その前提において、タバコは善である(あるいは悪である)と判断しているということになります。

■前提の共有

 整理すると、物事の良し悪し(善悪など)は、志向相関的に規定された、前提条件の上に成り立っているため、その前提を確認する作業なしに、その良し悪しを判断することができない。ということが、考えうるほとんどの場合において言えるのかなと思います。(全ての場合ということは難しいです)

 前提を共有するということが、なぜ大切なのか?なんとなくわかってきたのではないでしょうか?

 医療関係者というのは、さまざまな専門性を持った多数の職種が集まって、協力して仕事をしています。それゆえに、信念対立が生じやすく、不要な摩擦を生み、心身を疲弊させていってしまうことが多いのが現状としてあると思います。全ての対立が不要であるとは言いません。必要な場合もあるでしょう。しかし、明らかに不要な、互いにその前提を理解していないが故に生じる「無駄な」対立は、その構造を解明し、対処する方法を考えていくことが重要なのではないでしょうか?

 つまりは、まずはお互いに前提を確認しあい、共有するという作業をまず、評価判断を挟み込まずに実践することが大切であると言えます。
そうすることで、

「そのような前提のもとでその方法を提案しているんだね。」
「その前提であれば、あなたの言っていることは正しいかもね」

 などと言った具合に、相互の理解が進み、不要な対立の解消に繋がりやすいのかなと思っています。

■最後に

 今回、不要な対立をできるだけなくし、ストレスフルな状態で仕事をすることを回避するために、「前提を共有する」ことの大切さについて、書籍を引用させていただきながら記述しました。

 自分自身は人に対して強く意見を言ったりするのは苦手で、明確な対立構造を作るということはあまり無かったんですが、これは我慢しているという状況とも言えるので、ストレスもありました。そんな中、信念対立解明アプローチを知り、前提を聞くという作業を少しずつできる様になったことで、少しはストレスが軽減し、仕事がしやすくなったなという印象があります。

 信念対立は、心身を疲弊させるストレスの巣窟です。しかし、最も憂慮すべきなのは、「相互不干渉」であると思います。(相互不干渉も信念対立と言えると思います。)

「あの人には何言ったって無駄よ」
「あいつは無視して、こっちで考えて実践しよう」

 などと言った具合に、お互いに干渉せず物事が進行してしまうことがあります。この状態は最も避けなければならないと感じています。チームアプローチの「チ」の字もない状態じゃないですか。だから余計に、対立の構造を早期に解明し、お互いに解決へ向けて意見を出し合い、一歩を踏み出していくことがとても重要だと思っています。

 自分自身、この本を読んだからといって「No信念対立!!」「Noストレス♪」みたいな状態には至っていませんし、なかなかうまく実践できない毎日で、まだまだ悩み多き30代です。

 そんな僕ですが、本記事を書くことによって、読者の皆さんが、少しでも楽に仕事・生活ができる様になる、そのきっかけになればと思い投稿しました。

 もし、興味が湧いた方は、是非、参考文献である以下の書籍を手にとって頂き、一読していただければと思います。

 おそらく多くの医療関係者が感じているであろう悩ましい課題について、このように真剣に取り組まれている、著者の京極真先生(ちなみに作業療法士)は、本当に素晴らしいと思っています。

尊敬しています!


※本記事は、あくまで私が書籍を読んだ上で咀嚼し、私というフィルターを通して表現しているものになります。よって、基本的には私の個人的見解を多く含んだ内容になります。その点ご了承いただいた上で、ご興味を持っていただけたのであれば、是非、参考書籍を手に取っていただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。        はましょー

※私はAmazonアソシエイトメンバーです。


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