団地の遊び 幻のデパート

幻のデパート

 デパートというほどの、オオゲサなモノではないのだが、一応、その店の本体はデパートなので、こういう書き方をした。
 なんで幻かというと、人にこの話をしても、覚えていない奴が、多いからで、いやホントにみんな忘れていて、なので、自分まで、本当にあったのだろうか?と思いたくなるレベルの事だった。
 団地の中を流れる川。いつも遊んでる川。この川を、東側に向かって行くと、別の自治体になり、マンション群がある。
 その北側の坂の上は、高級住宅街であった。
 マンション群と住宅街の間、つまり、そこには川があるのだが、川の横に、誰もが知ってる有名デパートの、小さいのができた。
 今はもちろんないし、結構早く、なくなった気がする。
 高級住宅街の住人を、当て込んだ小デパートもしくはこじゃれたストア、というふうに、周辺の庶民たちは、みんな言っていた。
 一種、異様な感覚があった。
 なぜなら、基本的に、この団地の中を流れる川がある所は、なんか田舎っぽいのだった。
 空き地はあるし、緑は多いし、そもそも、駅から遠いので、なんとなく陸の孤島みたいな感じがした。
 住宅街ではあるが、なんだか寂れてるというか、静かというか、そんな所であった。
 それは、団地から見て川の西側も東側も、同じだった。要するに川沿いは、田舎なのだーーーさっきも言ったが。
 そんな場所へ、有名デパートの名を冠した二階建てのストアが、忽然と川横に出来たのである。
 場所的には、団地のウチの号棟からは遠いので、多分五回も行ってないと思う。興味本位で行ったのである。
 それに、やはり値段が高かった。何か忘れたが、多分ハムかなんかそんなモノだと思うが、団地のストアの倍の値段がする、という話を聞いた時は、心底、驚いたものだ。
 わざわざ遠くまで行って、いくらモノがいいとはいえーーーいいはずであるーーー高いものを買うこともないわけだった。
 そこは一階が食料品、二階が雑貨とかなんかまるで覚えてないが、多分そんなものだろう。
 吹き抜けになっていて、二階から一階を眺めることができた。
 そこから一階の、結構な人混みを手すりに手を置き見ていた。
 すると、白シャツに紺ネクタイをした白マスクをつけたおじさんが、話しかけてきた。名札をつけてるので、定員とわかった。名前は忘れている。鳳凰太陽とかすごい名字ではなく、確かありふれた名前だったと思う。
「お母さんと買物?」誰と来たのか覚えてないが、テキトーに返事した。
「人多いだろう?でも今だけだよきっと。開店してひと月ぐらいだね、客が来るのは。だってやっぱ値段高いんだよ。ぼくは反対したんだけどね。まあパッとしないうちに終わるよ」
 いきなり、子供相手にこんなことを話し始めた。ほかにも株価がどうしたとか、なんでスーパーやるんだ?とか、要するに、初対面の子供相手にグチを言っていたわけだった。そして肩とか触ってくる。
 この高級スーパーで、ハッキリ覚えていることは、このオッサンのことだけである。
 次に行ったときは、チョコレートか何かお菓子をくれた。そしてまた、グチである。そしてまた、肩とか腰とか触ってくる。
 万引きで生計を立てている秋田(仮名)が、二階の所から見えた。多分またなんかパクってるのだろう。 
 隣の店員のオッサンは、気づくだろうかと思ったが、まったく見てもいなかった。
 このオッサンのことを女学級委員山岡に話したらーーーなんかヤバいんじゃあない?いやらしい意味で子供好きって気がする。言ってる意味が、今ひとつわからなかったが、なんとなく言わんとしてることは理解できた。要するにロリコンなのだーーー当時、そんな言葉は知らなかったが。
 山岡ははるかに自分より頭がいいし、美人(多分)でヤバい経験もしてるので、その一言で行くのをやめた。
 元々、その高級スーパーは、川の東側なので、違う自治体だし、ようは自分のテリトリーではなかった。だから、どうでもよかったーーーそのどうでもいいことを書いてますが。
 団地中央にある文字通りの中央グラウンドのすみっこで、コマ遊びをした。モノリスみたいな謎の石碑の横で、何人か集まり、遊んだ。コマは、よくやった遊びの一つである。
 珍しく、山岡が加わった。なんだか小さなショボいコマを持ってきていた。
 すると、あの高級スーパーのあのオッサン店員が、団地ストアの前で、店長と話していた。山岡に、アイツだよ、と教えると、隠れろ、そう言うので、隠れた。
 なんの用事か、団地ストアにあのオッサンが来るのはイヤだなと思っていたが、その後、もう二度と会うことはなかった。
 以上の話を、元学級委員のRにしたところ、「いや、そんなストアの記憶はやはりない。君は長い夢を見ていたんだよ」






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