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警察人生 12章

年に一度、鑑識競技会はおこなわれる
県下の各警察署が鑑識技術を競うのだ
チームは5人、指紋、足こん跡、写真、法医の4種目で競い合い、指示を出す監督を刑事課長が務める
想定事例に基づき、被疑者の検挙まで持っていくのだ
テーマは毎年変わる、その年に世間を騒がした事件や注目を浴びた事件などが選ばれたりする
緊縛強盗、コンビニ強盗、オレオレ詐欺、放火など
私は指紋で出場することが多かった
今回は緊縛強盗事件、家人が強盗犯に縛られ金品を奪われるという事件だ
指紋は毎年、7~8個出題される
指紋が採れる採れないという問題もあるが、より鮮明に採れるか?という技術で争うのだ
採取した指紋から犯人につなげるのだ
どこに付いているか、わからない
犯人が触った現場の物品、犯人の遺留品が主な対象物である
緊縛強盗で考えられるのは、
・犯人が物色した金庫や財布
・包丁など凶器の遺留品
などであろう
さすがに金庫は警察署の数だけ用事できないだろう
すると、財布や中に入っているカード類か?
凶器に使うとしたら、バールなどの工具、包丁などの刃物だろうか?
という具合に予想するのだ
予想して採取の練習をする
競技会少し前に情報が入ってくる
緊縛に使うガムテープが出るそうだと鑑識の主任から情報が入った
ガムテープから指紋を採取するのは困難を極める
おそらく、スベスベした方と粘着部分の方、多分両方出るのだろう
意地悪く、裏表同じ位置にあるかもしれない
しかし、問題はどうやって採取するかだ
スベスベした方から試みた
アルミニウム粉末でやってみた
粉がのらないのか、指紋が薄い
黒粉でやってみた
粉はのるが、指紋が潰れる
ほかの粉末も試したが、ダメだった
攻略法が見つからない
競技会まで日がない
万事休す、諦めるしかないのか
そんな時、鑑識主任がアルミニウム粉末で採取していると他署から情報を得た
アルミニウム粉末をどうやって指紋にのせるかだ
ハケ法ではハケで擦すると消えてしまう
「そうだ、ふりかけてしまおう」
と思いつき、うまくふりかけるには
「霧状にして少しずつ丹念にのせれ
 ばうまく行くかも知れない」
とひらめいた
鑑識係にはそれが置いてあった
粉が入った容器を消しゴムのカスを飛ばす時に使うみたいなものに取り付け、粉を噴霧できる
早速、試した
少しずつ丹念に粉をのせる
ハケも粉が付いていない新品のものをそっと1回だけ擦る
できた、うまく指紋が採れた
次は粘着部分だ
アルミニウム粉末でやると、粉末がベッタリつく
黒粉でやると、真っ黒になる
指紋の形どころか、影さえも見えない
べとべと部分に吸着されてしまう
べとべと部分を取り除けば、吸着されないだろう
水に濡らすか?指紋も濡れてしまう
夜も眠れなかった、頭の中はこのことで一杯
解決策が見出せないまま、あと2日に迫った朝、雨が降っていた
車で暑に向かった
ワイパーを動かす
レインワックスが効いていて、水を弾く、
「これだ」
早速、レインXを購入し、試した
レインXの濃度を調整するのに、徹夜で取り組んだ
その結果、完璧に採取できるようになった
大会当日、各警察署がガムテープで苦戦していた
まったく採取できないと諦める警察署もあった
そんな中、私は完璧な形で採取できた
競技会中、本部鑑識課の連中が皆見に来た
口々に、
「どうやって採った」
「こんな綺麗に採れない」
と言って、驚いていた
班員皆が頑張った
結果は総合優勝に1点差で準優勝だった
署に帰ると、署員全員が出迎えてくれた
後日、本部鑑識課から
「君の採取法を現場で採用すること
 にした」
と連絡があった
私は鑑識、指紋を採るのが好きだ
現在は指紋の利用は少なくなった
被疑者がほとんど手袋をするようになったうえ、DNA資料の照合が飛躍的に発展したからだ
現場に落ちている髪の毛数本から犯人を特定できるのだ
爪に残された皮膚片や血液、繊維片などの微物も重要な手掛かりになるだろう
未来は、被害者の脳に残された記憶から被疑者を見つけることができるかも知れない
ーつづく





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