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警察人生 8章

巡査部長昇任試験に合格して、大規模警察署に異動した
1日の乗降客10万人の駅、繁華街のド真ん中にある駅前交番に着任した
山奥の駐在所からの異動、あまりにも違った
とにかく忙しい
署で点検配置を受け、交番に出所すると10時前、それから昼食、夕食も抜き、食事休憩できるのは深夜11時過ぎてからだった
不思議なことに夜11時頃、一旦静かになるが、午前0時を過ぎると再び忙しくなる
トイレも我慢した
様々な事件が起きた
殺人事件もあった
当時流行っていたオヤジ狩りなど強盗致傷事件もあった
酔っ払いは日常茶飯事、昼間から酔っ払いがトラブルを起こす
夏休みは朝から晩まで万引きの処理
冬場は飲酒店が出すゴミ、路上に駐輪しているバイクや自転車に放火、電話ボックスまで火柱が上がっていたこともあった

オヤジ狩りは単身赴任のお父さんが仕事を終えて、駅近くの駐輪場で自転車に乗って駅南のワンルームマンションに帰る時を狙われた
駐輪場の狭い通路で挟み撃ち、後ろから1人に羽交い締めにされ、メリケンサックを付けて前にいたもう1人からボコボコにされて財布を奪われる事件だった
ある日、交番の扉が開いたのに人がいないことがあった
うめき声が聞こえた
カウンターで見えないので、すぐ出てみると、スーツ姿の男性が床に倒れ、頭や顔が血だらけだった
オヤジ狩りの被害者だった
交番勤務員のほか、管機隊の直轄警ら係の応援を得て総勢20名で連日連夜、張り込みをおこない、検挙した
犯人は3人組高校生だった

殺人事件は日曜日の午後、白昼堂々有名百貨店の前の広場で起きた
浮浪者のケンカが始まりだった
ケンカの通報で現場に向かっていた
大勢の人で賑わっていた
頸動脈をナイフで切られ、血しぶきが飛ぶのを近くで見た
現場はパニックを起こしていた
犯行直後、現場に来たのだった
犯人の男はナイフを握りしめたまま仁王立ちしていた
被害者は首を手で押さえていたが、すぐ意識を失った
近くにいた医療従事者が心臓マッサージをしたが、死亡した
もう少し早く現場に来ていたら、事件を防げただろう
犯人を殺人の現行犯として逮捕した
その時、警察学校の研修生を連れ立っていた
血しぶきが飛ぶところを見たのだ
男の子の方は警察をやめた
女の子の方は希望して翌年駅前交番に赴任した
女性は強いと思った

当時、外国人が多かった、当然、外国人犯罪も多かった
イラン人がブラジル人に偽造テレカを売っていた
そのカードを使えば、ほとんどタダでブラジルに電話をかけることができた
偽造テレカが使えない公衆電話が現れると、今度は覚醒剤を売るようになっていた
土曜日の深夜、駅はブラジル人に占拠された
駅構内で大音量で音楽、踊りまくっていた
また、スケボーがところ構わず走り、ひどい時にはバイクが駅構内を爆音を立てて走り回っていた
完全に無法地帯
彼らは朝になると消えた、日曜日は教会に行くのだ

ある日、アメリカ人の家族が駅前広場で困っている様子だった
片言の英語で話した
ヤマハ発動機の会社見学に行きたかったようだ
養蜂業を営み、広大な農場を持っており、3輪バギーやオフロードバイクを所有、ヤマハ製という
ヤマハの広報に連絡し、アポが取れた、駅で切符を買ってあげた
あとは降りる駅で担当者が迎えに来るという
着任したばかりの若い後輩に、
「地理教示はここまでやるんだ、道
 順を教えておしまいではないぞ」
と言うと、私を知り尽くしている女性警察官が
「アメリカ人の奥さん、金髪のとて
 もきれいな人でしたよね」
と言った
私は見抜かれていた
そんなことは忘れて数ヶ月が経過した
駅前交番に一斗缶が届いた
お礼のハチミツだった
この一斗缶、どうしよう

冬場に発生していた放火犯は捕まらなかった
一晩にあちこち火をつける
犯行予測して、よう撃捜査をしても裏をかかれていた
ある日の夜、張り込み中の捜査員から
「小型のポリタンクを持っている男
 がいる、尾行中」
と無線が入った
先回りして潜んだ
電話ボックスの前でポリタンクを置いて、中に入った
電話帳を取り出すとポリタンクの液体をかけて火を付けた
その電話帳を再び電話ボックスに放り込んだのだ
アッという間に火柱が立つ
相棒の柔道3段が素早く動いて男を捕まえた
放火はなくなった
平和な夜が訪れるようになった

放火はなくなったが、今度は夏場に強制わいせつが連続発生し、エスカレートして強姦事件も起きた
犯人は立体駐車場に身を潜め、現れた被害者を押し倒して、カッターナイフで脅し、自分の陰部をしゃぶらせるという極めて悪質な手口だった
立体駐車場は数多く、張り込みは容易ではなかった
エスカレートし、毎夜発生した
立体駐車場の駐車車両を徹底的に調べた
ある1台の車が性犯罪歴がある男の所有だった
車の秘匿追尾か始まり、1課の強行係が犯人を検挙した

1年がものすごく早く過ぎた
駐在所では時間がゆっくり過ぎたのに、
気が付くと、5年が過ぎていた
ーつづく





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