見出し画像

チェリーブロッサム/震災備忘録

もうすぐ春が来るね
今年も君達と過ごすことになることを
嬉しく思う
あれだけ揺れた時、僕は
全てが終わった気がしたんだ
だけど、実際には
というか、本質的には何も変わらなくて
流れた涙の数を数えるような
微細な感覚を持ち合わせてもいなかった自分への
最大限のご褒美なんじゃないかと思う
そうだ、今はボーナスタイムなんだ

生きているのに亡霊のように軽かった身体は
徐々に自重を取り戻してきている

人がいっぱい泣いただろう
その涙の理由は様々だ
けれど、僕は理解が及ばなかった
というか、興味が持てなかった
自分に降りかかった事実から目を逸らして
日常を生きようとしていたんだと思う
割れたアスファルトからは
微かに埃の匂いがした

寒さに両手を合わせる人々
それがなんだか願いのような格好に見えて
自身の幸せが少しでもあの人にも、あの人にも
分け与えられたらなんて
偉そうなことを考えていた

震災は爪痕を残した
全てが元通りにはなっていない
インフラが整っても、手紙が届くようになっても
ぽっかりと心に空いた穴から
隙間風が吹くんだ
生きることに執着も無かったはずなのに
朝目が覚めると、生きてるって思うんだ
笑えるだろ
ぽっかり空いた穴からも
微かに埃の匂いが漂っている
つまりは、一度壊れたってこと

路は続いている
終わったと思っても続いていくんだ
もう、今までの笑顔なんてものは見せられないかもしれないけれど
少しでも笑おう
それが君達の世界に必要ならば

新しい春に向かって
桜が蕾をつけている
今年は億劫でも見に行こう
いつ、最後が来るかなんて

誰にもわからないから

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?