報道の自由が密室でゆがめられた!テレビよ、沈黙していてよいのか

言論の自由、報道の自由は、
言うまでもなく、
民主主義の基本となるものだ。
それが一部の政治家たちによって、
脅かされている――。
そう言うと、きっとみなさんは、
他国の出来事だと思うだろう。
しかし、そのあってはならない出来事が、
この日本で起きていたのである。

その経緯を描いたのが、
僕が出演したドキュメンタリー映画
「放送不可能。」シリーズの第2弾、
「テレビ、沈黙。放送不可能。Ⅱ」だ。
今回登場していただいたのは、
参議院議員小西洋之さん。
発端は、小西さんが入手した内部文書だった。
その文書には、
政権の都合のために
放送法をゆがめようとする、
政治家の姿が克明に記録されていたのだ。

話は8年前にさかのぼる。
2015年5月、
当時の安倍政権で総務大臣だった高市氏は、
突如として放送法の解釈を変えた。
それまで政府は、
「放送の政治的公平性は、
テレビ局の番組全体を見て判断する」としてきた。
ところが、高市総務大臣は、
「極端な内容ならば、
1つの番組だけでも問題があると判断する」
と解釈したのだ。

しかも翌年2月、
高市総務大臣は、
放送局に対する
「電波停止」の可能性も明言した。
高市発言は、
言ってみれば、テレビ局への恫喝だった。
僕たちジャーナリストは、
当然ながら強く抗議した。

鳥越俊太郎さん、故岸井成格さん、
TBSの金平茂紀さんらと記者会見し、
僕はこう訴えた。
「高市発言は恥ずかしい。
こんな発言があったら、全テレビ局の、
全番組は断固抗議すべきだ」
しかし、抗議どころか、
ほとんどのテレビ局は沈黙したのである。

さらに、高市発言の後の、
2016年春、
「NEWS23」の岸井成格さん、
「クローズアップ現代」の国谷裕子さん、
「報道ステーション」の古舘伊知郎さんら、
気骨ある「もの言う」キャスターたちが、
ことごとく消えて行った。
そこに何か見えない力はなかったのか……。

小西さんはが入手した文書には、
2015年当時、
総理補佐官だった礒崎陽輔氏が
総務省に圧力をかけ、
放送法解釈を変えたことが、
克明に記録されていた。
解釈変更に反対する官僚たちに怒り、
礒崎氏が「激高した」こと。
また、「局長ごときが言う話では無い」
「この件は俺と総理が二人で決める話」等々、
目を疑う発言が記述されていた。

2023年3月、
小西さんは、この文書をもとに、
国会で高市大臣を追及した。
高市大臣は「ねつ造文書」だと決めつけ、
もし本物なら議員辞職すると明言した。
文書は、もちろん「ねつ造」などではなく、
後日、松本総務大臣が、
れっきとした行政文書だと確認している。

この「辞職問題」ばかりクローズアップされ、
「テレビ局自身の問題であるのに、
調査報道しようとしない」
と、小西さんは嘆く。
映画の完成イベントで、
小西さんは言った。
「タイトルは『テレビ、沈黙。』ですが、
テレビ沈黙のままで終わらせてはいけない、
というのがこの映画の一番のメッセージです」

小西さんは、最終的に、
この「極端な内容ならば、
1つの番組だけでも問題があると判断する」
というとんでもない解釈を、
総務省に撤回させることに成功した。
しかし、この大事な一件も、
テレビ局はまったく報道していない。

もう一度書く。
官邸という密室、
脅迫された官僚によって、
報道の自由という民主主義の基盤を
政府がゆがめようとしていた。
そんなことが日本で起きていたのである。
現代の民主主義国家で起きていた。
そして、なぜかその重大な一件を、
日本のテレビはきちんと報じないのだ。
その事実を、
ぜひ劇場でしっかりと見ていただきたい。