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パリジェンヌが教えてくれた「日本のおとしよりの素晴らしき世界」

「日本の高齢者は人口の約3割」という統計は、少しマイナスなトーンで語られることが多い気がします。でもそれって、ちょっと視点を変えたら、日本の文化のひとつとも言えます。見慣れてしまった日本人の私には気付かなかった「日本のおとしよりの素晴らしき世界」を、パリジェンヌが教えてくれました。

「おとしより パリジェンヌが旅した懐かしい日本」 イザベル・ボワノ著

日本は、私にとって夢の国です。
フランス人にはあまりよく知られていないけれど、私が愛してやまない日本の一面を紹介したくて、この本を書きました。それは、お年寄りたちのこと。ちょっぴり時代に取り残されたような彼らの世界にいると、心がほっと安らぎ、そして、ほんの少しだけ、日本の歴史や文化、その豊かさをより深く知ることができる気もするのです。

「日本の読者のみなさんへ」p7

この本は、視覚的にとても楽しませてくれます。写真よりもお年寄りらしさや本人らしさが伝わってくる素晴らしい絵は、イザベルさんがお年寄りをリスペクトする気持ちが強いからこそ。例えば、お年寄り独特の骨格や姿勢も見事ですし、エプロンを着ているおじいさんの肩ひもがずり落ちているのなんか最高!にキュートです。

パリジェンヌというよりイザベルさんゆえの感性で、おしゃれを見抜くセンスにもハッとさせられます。彼女の視点で見ると、見慣れたお年寄りファッションも垢抜けた映画の登場人物のように見えてきて、でもやっぱり、昨日も見かけたいつもの服装でもあるなあと、新鮮さと馴染み感の両方が押し寄せてくる不思議な感覚です。

イザベルさん曰くお年寄りは、

彼らはまるで、水分の大半が蒸発してしまった果物のよう。
より軽く、よりシワシワで、より小さく、でも味わいはより濃縮されている。
それぞれの人生が詰まった、エッセンシャルオイルの小瓶たち。

この表現もとても素敵です。エッセンシャルオイルの小瓶、考えたことなかった。

作者の温かく、でも鋭い観察力を堪能していると、確かにこれも日本の文化のひとつかもと思えてきます。押し並べて、中にいると気付かないことがその国の独自の文化であったりしますが、日本のお年寄り文化もそうなのかな。ちなみに、ここで登場してくるお年寄りは、都市部の人たちが多いようです。いわゆる昔ながらのお年寄りとはまた違った、街中で見かける新しいお年寄りとも言えるかもしれません。

お年寄りの多い空間に、なぜ私の心はこんなにも揺さぶられるのでしょう。不思議に思うと同時に、その理由はとっくにわかっているような気もします。
それは、お年寄りたちの存在が、子どもの頃の記憶を呼び覚まし、もう夢の中でしか行くことができなくなってしまった、思い出の中の世界に私を連れて行ってくれるから。そして、ちょっと古びた場所にこれほどまで惹かれ、胸が熱くなるのは、もうすぐそれが、消えて無くなってしまうとわかっているから‥‥‥。

私は、昭和から平成に変わったとき、そんなにも時代が変わったとは感じなかった。子供だったからっていうのもあったけど、明治・大正・昭和生まれの大人たちがまだまだ元気で、イザベルさんが描いている世界が当たり前に現役だったから。

なじみの喫茶店や商店、友人が住んでいたアパートが壊されて空き地になり、新しい工事を待つ間、覆い茂る雑草を見るにつけ、日本が大好きなイザベルさんは悲しい気持ちになります。

その時、イザベルさんは、あることを思います。

日本は永遠に再生し続けている。

懐かしい日本の影には何があるのか。それが、何をもたらしてくれているのか。日本を旅しながらイザベルさんはきっと分かっていたんだ。今年も咲いた桜の花を一緒に眺めながら、日本の悲しみと喜びを共に感じてくれた。

これから先、消えゆくかもしれない懐かしい日本の街と市井の人々が描かれたこの本は、これからの人たちの大切な記録になるに違いない。ありがとう!イザベルさん。

イザベル・ボワノさんの「おとしより」、ほっこりします!

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