彼女たちのコズミック・イラ Phase42:明日へと繋ぐ命

ヒルダさんがひたすらにイケメンなだけです。なんだかんだでレズビアンという個性を存分に発揮出来ている感じかと。

そして本作のキララクの到達点はこちらとなります。だから、第二部の冒頭でキラとラクスがロマンティクスする必要があったんですね(メガ○ン構文引用)。

次回が本作の最終回。ヒルダ隊長がラクス様の近況を部下に報告するだけです。それでは。


C.E.76:プラント首都アプリリウス

忌まわしい記憶を呼び起こして、ラクスは一人蹲って涙を流していた。その姿にヒルダは困惑しつつも、彼女の傍へと近付いていく。

「ラクス様……!」
「うぅぅ……ぐすっ、わたしは……あのような力で、全てを支配するつもりなんて……!」

望まないままに得てしまった強大な力。奇しくもそれは、彼女が愛している男と限りなく近いものであった。そして、その力を用いることで、全ての人が望むであろう世界を作ることも出来るのであった。

「わたしの……アコードとしての力を振るえば、きっと世界からは争いがなくなります。わたしの声を、言葉を……世界中の人々に伝えることで、その憎しみや悲しみの心を全て、葬り去ることが……!」
「そんなこと……!例えそれが出来たとしても、ラクス様自身の心が……!」

女王アウラ、そしてラクスの母、あるいはデュランダル前議長もまた、ラクスにはそれほどの力があることを理解していた。その力を知っていたギルバート・デュランダルは、議長となった折に『偽りのラクス』を用意していた。

例えアコードとしての力がなくとも、ラクス・クラインという存在は強大な力を有していた。そして、『本物のラクス』である彼女自身は、自ら有する想像を遥かに超えた力に改めて恐れを抱いているのであった。

「恐ろしいのです。わたしの声が、言葉が……自然と誰かの心を捻じ曲げているのではないかと。わたしを愛していると言ってくれたキラでさえも、この力に従っているだけではないのかと……!」
「っ……!?あり得ません!あいつはそんな理由でラクス様を……!シンやルナマリアだって……あなたのことを心から……!心……から……」

その心を支配する力を有していたのが、ラクス・クラインという存在であった。彼女は自身に向けられている思いが、本物のであるかと疑い恐れていた。むしろ自らに抗う意思を示し、敵意を抱くものに対して安堵さえ得るほどに。

そうした恐怖にラクスが囚われようとする中で、ヒルダは自らの率直な思いを口にし始める。

「ラクス様。あなたは一つ大きな勘違いをされています。」
「勘違い……ですか?」

そう言いながらヒルダは、蹲っていた彼女の肩を抱いて立ち上がるよう促す。敬愛している者に対しては過ぎた行為であった。しかし、それでもヒルダは敬愛しているからこそ言葉を続ける。

「私たちはラクス様の力に付き従っているわけではありません。私たちはラクス様と共に前と進むために、あなたの傍にいるのです。」
「ヒルダ隊長……」
「この気持ちは、きっと私のものだけではありません。例え貴女が言葉を持たずとも、貴女が声を持たずとも、私たちはラクス・クラインという女性をお慕いし続けるのですから。」

そう言いながらヒルダはラクスの手を取り、向かい合うのではなく彼女と並び前を向く。ヒルダは確かに感じていた。自らの居場所はラクスの後ろではなく、こうして手を取り合える隣なのだと。例え愛情を向けられずとも、もう一つの手を取り合える存在がいることで彼女を支えているのだから。

「ヒルダ隊長は……わたくしを本気でキラから奪うおつもりですか?」
「なっ……そんな滅相もない!お、お二人の間に割って入ろうなどと……考えたことは一度も……!」
「あら、シンとルナマリアさんの間には割って入っていると、ルナマリアさんやアグネスさんから聞き及んでおりますが。」
「いえっ……それはまぁ……全てが誤解、というわけでもないのですが……」

ラクスの意地の悪い問いかけに言葉を詰まらせてしまうヒルダ。しかし、彼女の行動がラクスの重たい心を軽くしたことだけは確かであった。

「自分の気持ちをラクス様にお伝え出来た私に、恐れるものなど何もありません。今はただ、ラクス様の心が折れそうになった時、こうしてお傍で支えることが出来るだけで幸せですから。」
「ありがとうございます、ヒルダ隊長……いいえ、ヒルダさん。」
「ラクス様……!これからもずっと……愛しております。」

公私の区別が曖昧となり、胸の内を明かして心を通わせるラクスとヒルダ。それが叶わぬ願いであると知ってもなお、彼女はラクスに思いを馳せて伝い続ける。そうすることを許される場所が、彼女が立ち続ける場所なのであった。

「そういえば、ヒルダさんにもう一つ相談したいことがあるのですが。」
「はい、なんでしょうか?」

そう言いながらラクスは、ヒルダと繋いでいた手とは反対の手を、自らの腹部へと添える。そして、そこを優しく擦りながら、彼女に対して気恥ずかしそうに声を上げる。

「あの……キラにはどう伝えれば……いいのでしょうか?」
「ええっと……いや、その……私も、そういう経験はないので、なんとも言えないのですが。」

ラクスが伝えてきた事実に呆然とするヒルダ。しかし彼女は気を取り直して、ラクスに改めて問いかける。

「ほ、本当にご懐妊されているのですか……!?」
「はい。ここ最近、気分が悪くなったり、体調が優れないことが多かったので。検査をしてみたところ、しっかりと反応が出ていましたから。」

キラと出会ってから長い間、彼とラクスは関係を深めることなく彼女が寄り添うだけの間柄であった。そうした時間を取り戻すかのように、2人は多くの夜を共に過ごし、幾度となく心と身体を通わせ続けており、その結果がラクスの身体に宿ったのであった。

「あの……ヒルダさん?」
「あっ……は、はいっ!あっ!?申し訳御座いません!ついその……色々なことを頭に巡らせてしまいまして……!」
「それで……キラにはどのように言えば……」
「えー……まぁ、そうですね。」

敬愛している間柄ではあったものの、そのようなことは好きにすればいいだろうと心の中で叫ぶヒルダ。しかし、彼女は情緒を掻き乱されながらもラクスを慕う者として、出来る限りの対応をする。

「では、私もその場に付き添いましょう。ラクス様がおひとりで不安なようでしたら、女である私が傍におりますので。」
「まぁ……!ふふっ!それでしたら、わたくしもキラにしっかり伝えることが出来そうですわ。」

満面の笑みを浮かべ、ヒルダに対して喜びを露わとするラクス。そうした彼女の顔を見ているだけで、ヒルダは報われようとしていた。世界と対峙する者ではなく、等身大の女性としての振る舞いを見せるラクス・クライン。ヒルダはそうしたラクスの姿を、末永く見守ることを誓うのであった。

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