彼女たちのコズミック・イラ Phase37:無法の正義

キラとラクスが運命を共にしようとする回……なのですが、とんでもない横槍が入ることでサブタイもこんなのになっています。

本作品では一部人物を意図的に登場させないでいます。それらの人物が出てくる唯一の回ともなっています。

次回は大人のカップルによる後日談となります。


L4宙域で合流したミレニアムとセラフィムは、急ぎ月方面へと引き返していた。そして2隻は、移動中であった民間の輸送船団を捕捉する。

「どうやらあの輸送艦隊が、彼らの切り札なようですね。」
『武装は一切なし。船籍も全てが正式に登録されており、航路以外の全てが真っ当な艦ばかりですか。』

双方の艦の艦長は共に、捕捉した多数の輸送艦を見ながら戦闘時以上の緊張感を露わにしていた。

軍隊、またそれに準ずる組織であることを一切感じさせることがない輸送艦の船団。しかし、そのいずれもコンパスの部隊がメンデル周辺で遭遇した輸送艦と同様のタイプなのであった。

一方ミレニアムの艦載機では、出撃準備を完了している乗員たちが戦闘では解決出来ない状況にもどかしさを感じていた。

「クソっ……あいつら、まだこんなものを……!」
「隊長、私たちが出て強制的に艦を止めることは出来ないんですか?」
「ダメだ。もしモビルスーツが出て、向こうが追い込まれて自爆でもしたら……こちらからの攻撃だと判断される可能性だってあるから。」

例えプラントへの核攻撃が失敗に終わろうとも、コンパスに対する社会の風向きを変えることが出来れば、ブルーコスモスにとっては十分な成果といえた。現状、コンパスの活動が再凍結された場合、地球の各国に潜伏しているブルーコスモスの支持者は一斉に声を上げ、プラントとそれに与するものに宣戦布告が可能となる状況でもあった。

「あいつらをぶっ叩いて木端微塵にすれば、それで連中が核を持っていた証拠にはならなんですか!?」
「私たちが先制攻撃出来ないのは分かっているでしょ?何を考えて今まで戦ってきたのかしら。」
「くぅぅぅ……!」
「アグネスの言う通りよ、シン。ただ闇雲に敵だと判断したやつらを撃っても、それがいくら正しいことだったとしても、私たちのやったことを世界が認めてくれないとコンパスはすぐに行き詰ってしまうのよ。」
「だったら……どうすればこんなことを本当に……!」

強大な力さえも及ばない法と呼ばれる概念。そして、時としてその法さえも捻じ曲げる力を有する民意。コンパスにとっての敵とは、単に銃を手に取り暴力を行使する者である以上に、世界を構成する人間たちの総意なのであった。

「まずはこちらから停船を呼び掛けるしかない。もしそれで、彼らが止まろうとしなかった時は……」
「隊長……?」

各員が機体の中で待機をする中、悲壮な決意を固めた声を上げるキラに、シンは違和感を覚える。そして、ミレニアムへと移乗したコンパス総裁、ラクス・クラインが輸送船団に向け勧告を行うのであった。

「わたくしは世界平和監視機構コンパス総裁、ラクス・クラインです。航行中の輸送船団に通告します。あなた方の輸送する物資を確認するため、わたくしたちは全輸送艦の停船を要請致します。」

可能な限り穏便に、事を荒立てないようにラクスは輸送船団に対して公開回線を用いて要請を伝える。すると、同じく周辺宙域の艦船全てに聞こえる回線により、輸送艦からは返答がされる。

『本船団はプラント理事国の命により、L5宙域の各プラントへ食料を始めとした物資の輸送を行うものです。コンパス、及び各国の軍とは一切関わりがないことは明白であるため、停船に応じることはご遠慮致します。』

輸送船団の返答として聞こえてきたのは、年端もいかない少女の声であった。少なくともラクスよりは年下、ルナマリア、あるいはシンやアグネスと同年代か、それより下であるとも思える声であった。

「女の子……!?」
「シン、気を緩めるんじゃないよ。相手はほぼ確実にテロリストなんだ。そうやって惑わせるのが連中の狙いでもあるんだ。」
「あっ……はいっ!」
「えっ?ヒルダ隊長……?」

明確な動揺をするシンに対して、ヒルダは通信機越しに油断しないよう釘を打つ。そのやり取りを聞いていたルナマリアは、2人の関係性に違和感を覚えようとしていた。

「停船をしていただき、積み荷の確認をするだけです。わたくしたちはあなたがたの行動を害するものではないのです。」
『ならばこのまま私たちを追うことなく、あなたがたは月基地へとお戻りください。このように武力を背景に停船を迫る行為は、例えコンパスといえど決して世界が看過するものではないと思います。』

下手に出ざるを得ないラクスに対し、輸送船団の代表である少女は毅然とした声で反論をする。それがまるで、ラクスたちコンパスの限界を理解した上での言動であるかのように。

「やはり……彼女たちに留まるという選択はないようですね。」
「如何致しますか総裁。このままあの船団を見逃せば、おそらくはプラント各基に積み荷を送り届けることになりますが。」
「……例え今、コンパスが解体をされようとも。プラントに住まう人々を守るためであれば、それは必要な行動だと思うしかありません……!」

輸送艦を止めることは容易であった。しかし、手段を問わずに阻止を行った時、それはコンパスが再び活動の凍結、あるいは解体を迫られる事態に直結していた。ラクスはそれを承知の上で、苦渋の決断を下すのであった。

「コノエ艦長、フリーダムに出撃命令を。輸送船団のエンジンを破壊して、航行不能にせよとお伝えください。」
「よろしいのですね。フリーダムを出撃させて。」
「責を負うのは、わたくしとキラだけで十分です。そうであれば、再起の芽は決して潰えないのですから。」

ラクスには世界の憎悪を引き受ける覚悟があった。そして、その覚悟に付き添うのはただ一人、彼女が心から愛する一人の男。終生を共にして、添い遂げることを誓った彼の手を、彼女は汚させようとしていた。

『ヤマト准将、総裁よりフリーダムの出撃許可が下りました。』
「了解、フリーダム出撃。輸送船団のエンジンを破壊して航行不能にします。」

艦橋のコノエ艦長から、フリーダムのみに出撃許可が下りる。それを聞いたキラは即座に準備を整え、発進シークエンスに移行する。

「ちょっ……隊長そんな……!」
「モビルスーツが出撃したらダメなんじゃ……!」
「隊長、私たちも一緒に……!」
「ダメだ。これはコンパス総裁としてのラクスが僕に下した命令だ。彼女と僕の行動に君たちを巻き込むわけにはいかない。」

自分たち以外のコンパス構成員が糾弾されることを極力避けるため、キラは単機で出撃をして非武装の輸送船団に攻撃すると言う。それは決して誰にとっても本意ではなかったものの、その選択しか残されていないだと理解もしていた。

「どうしてまたそんな……俺たちが一緒にいるっていうのに……!」
「そうよ!こんなのカッコつけてるだけじゃない!私たちの命くらい、あんたと一緒に……」
「シン、ルナマリア。アグネスも、僕がいない間、ちゃんとミレニアムを守ってくれてありがとう。」

キラから掛けられる労いの言葉に、3人は口を閉ざしてしまう。それは確かに信頼を得たものに対する言葉であったものの、彼らは決してそのような結果を望んではいないのであった。

「ヒルダさん、もうしばらく間、隊の指揮をお願いします。」
「ああ。任せときな。でも、必ず戻ってくるんだよ。」

それがたとえ困難であったとしても、ヒルダはキラの頼みを聞き入れる。それが仲間として信頼し合える、彼女と彼の関係なのであった。

「キラ・ヤマト。フリーダム……」

そしてキラは一人、ラクスの命を受けて漆黒の宇宙に自由の翼を羽ばたかせようとする。それが自らに課せられた定めであると受け容れて。

しかし、彼がそうして出撃をする直前。突如として一隻の輸送艦のエンジンが爆発して、航行不能へと陥る。

「えっ……!?」

突然の事態に発進シークエンスを中断するキラ。そして彼を含めたミレニアムのパイロットたち、艦橋の乗員、さらにはセラフィムのクルーや輸送艦の乗組員。極めつけはラクス総裁までもが、驚きと困惑の表情を浮かべるのであった。

『くぅぅぅ……この攻撃は!?やはりコンパスは無辜の市民を撃つような非道なる集団で……あぐぅっ!』
「いえ、わたくしたちはまだ何もしていなくて……」

そうした輸送船団から誹りが飛んでくる最中にも、輸送艦のエンジンは次々と破壊されていき、航行能力を奪われていく。そうした光景をミレニアムもセラフィムも、ただ見ることしか出来ずにいた。

『なんだかよく分かりませんけど。これであの輸送船団を救助する必要が出てきたようですね。』
「そのようですな。しかし、万が一乗り付けて自爆でもされてしまうのはさすがに……」

ラミアス艦長とコノエ艦長が機転を利かせ、コンパスとして民間船舶の救助活動に当たろうとする。しかし、そうする前にも懸念が残っていた。だが

『各艦のコントロールが奪われています!外部からハッキングをされている模様!』
『どういうことなの!これもあの2隻から妨害だっていうの!?』

公開回線から聞こえてくる乗員や少女の狼狽える声に、そうした懸念も払拭されることとなる。そして、プラントへと向かおうとしていた民間の輸送船団はエンジンを破壊され、艦の制御を失って救助を待つ身となるのであった。

「なんだい、このルール無用なめちゃくちゃやり方は。」
「こんなことをする人なんて、私は一人くらいしか知りませんけど。」

呆れ声を上げるヒルダと、心当たりが限られていると語るルナマリア。一方でこの光景を作り上げている人間をよく知るシンは、コックピット内で声を荒げる。

「あの野郎また俺たちに内緒で勝手にっ!しかも一番良いところを全部持っていこうとしてやがるっ!おいっ!こらぁぁぁぁぁっ!!!!」
「あーあ……珍しく意見が合ったと思ったら、やっぱりいつものヤマザルかぁ……」

シンの見境のない荒ぶり方に、アグネスもまた大体のことを察して呆れ声を上げる。そして、出撃を中断していたキラもまた、この行動と結果が誰のものかを察して、艦橋にいるラクスに対して通信を繋げる。

「ラクス。僕はもう出なくてもいいのかな。」
「そのようですわね。フリーダムの出撃許可は取り下げることに致しましょう。」

制御を失い航行不能となった輸送船団の護送を開始するコンパス各員。そして、その輸送艦の中からは偶然にも大量の核ミサイルが発見され一大事となる。こうして、プラントへの大規模核攻撃はコンパスによって阻止されたのであった。

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