彼女たちのコズミック・イラ Phase36:憎しみを抱く者たち

メタルギアの世界にこんな感じの組織があった気がするというもの。まぁこちらは抑止ではなく使用を目的に保有しているのですが。

「なんでこんな簡単に核兵器が使えるんだよ」という問いに対しては、コズミック・イラだから、と答える以外にないのかと。一応劇場版の顛末から考えると、有り得ない状態でもないと思えるものです。

次回はその核武装ゲリラとの戦いです。物騒な割に絵面が地味なので、文章作品でちょうどいいような気がする。


C.E.75:L4宙域コロニーメンデル周辺

コロニーメンデルへ調査に出向いていたミレニアムは、突如して核武装をした民間船、及び地球連合艦隊による攻撃を受けたものの、救援として現れたアークエンジェル級3番艦、セラフィムからの援護もあり、侵攻敵勢力の殲滅を完了していた。

そして、ミレニアムの艦橋では新造艦であるセラフィムの艦長、マリュー・ラミアスから救援に駆け付けるまでの経緯をコノエ艦長たちが聞いていた。

『オーブによって拘束された私たちは、大西洋連邦に引き渡されるという名目でセラフィムを始めとした、コンパスで運用される新たな戦力を受領するため、連合の月基地へと潜伏をしていました。』
「なるほど、ラミアス艦長以下、アークエンジェルのクルーは、その多くが元は大西洋連邦の所属。新たに建造されたアークエンジェル級を運用する人材を密かに集めていましたか。」

地球連合軍、及び大西洋連邦内では脱走艦という扱いを受けていたアークエンジェル。その元クルーは未だに軍籍が残ったまま脱走者という扱いになっており、大西洋連邦はオーブに引き渡しという名目で、コンパスの活動で戦死した扱いとなったラミアス艦長たちを招集したのであった。

『既に軍内部では、旧ブルーコスモスの勢力が復権を目論もうと動き始めていたようです。私たちコンパスを取り除き、権力を取り戻すために。』
「アコード事変の真相が明るみとなったことに乗じて、やはり彼らは復権を目指していたようですな。大手を振ってコンパスを名乗ってしまえば、何をされるか分かりませんからねぇ。」

軍内に潜伏するブルーコスモス支持者の目を掻い潜るため、ラミアス艦長以下アークエンジェルの元クルーは極秘裏に宇宙へと上がり、新たな母艦となるセラフィムの受領と最終調整を行っていた。

『事態が動いたのはミレニアムが月基地を発進してすぐのことでした。本来であればミレニアムがメンデルから月へと帰投した際に本艦は合流する予定だったのですが、ダイダロス基地から多数艦船が出撃、さらにコペルニクスからも多数の輸送艦が進発したとの情報が入りました。』
「それを追う形で、こちらまでに来た……そういうことですか。」

連合内で蜂起したブルーコスモスの支持者たちは、奪取した艦船及びモビルスーツ、さらには民間輸送船に積み込んだ多数の核ミサイルによりミレニアムを撃破しようと動いていた。

「しかしそれほどの戦力を動員して、標的が我々だけというのは些か大袈裟過ぎるかと。核戦力を奪って暴れようとする連中です。本艦以外にもより大きな目標があるのでは。」
「大きな目標って……まさか!?」

ハインライン大尉の懸念にしばらく思索する副長アーサー。そして彼は、すぐにその答えに辿り着くのであった。

『はい。奪取した核攻撃部隊はこちら以外にも、プラントへと向かっていました。もちろん、民間輸送船に偽装した状態です。セラフィムはこちらへと向かう前に、プラント周囲を警戒していたザフト軍への通信を試みたのですが……』
「それで、結果は……!?」

コノエ艦長の問いと共に、ミレニアム艦内に緊張が走る。そうした最悪の結果さえも予期した乗員を前に、ラミアス艦長は言葉を返す。

『早期警戒網によって捕捉され、攻撃は阻止されました。イザークくんやディアッカくんの部隊が対処に当たってくれたのが、不幸中の幸いでした。』
「……はぁ。なんとか事なきを得た、というものでしたか。しかし、核武装をしたゲリラとは……もはや我々の手にはあまり事態ですな。」
「コンパスは事後対応型の組織ですから、民間人に偽装した敵性勢力に先制攻撃を加えることは不可能です。まさかそうしたゲリラの連中が核を手にするなんて……冗談にもなりませんよ。」

コノエ艦長やハインライン大尉を始め、ミレニアムの艦橋には重い空気が流れる。しかし、彼らに状況を嘆く暇はないのであった。

『そしておそらく、この一連の出来事がまだ終結はしていないのが現状でもあります。』

ラミアス艦長の言葉に、状況はさらに深刻であることが明らかとなる。そして、合流した2隻の艦が行く先も自ずと明らかになろうとしていた。

「プラント本国にも核攻撃隊が!?」
「うん。アプリリウスに支援物資を運ぶ名目で、輸送艦が接近をしてきたんだ。」
「そんな……それじゃあ、撃墜なんて簡単には出来ないんじゃ……!」
「まるで旧時代のハイジャックされた旅客機みたいな扱いだね。」

ミレニアムの格納庫では、帰還したキラとフリーダムの周りにシンとルナマリア、そしてヒルダが集まり、キラからの状況説明を受けていた。

「イザークとディアッカたちの判断で攻撃自体は阻止されたみたいだけど、民間の艦船を攻撃したって非難が出る可能性はゼロじゃないと思う。」
「そんな……!?撃ったら核爆発までしたような艦だっていうのに……!」
「民間船を称していた以上、そいつに手を出したらザフトだろうが連合だろうが、少なくても非難は避けられないものだよ。」
「ええ……軍の艦船を撃つこととは全く違うんです。例え本当に民間人が乗っていても、乗っていなくても……!」

道徳や倫理観を踏み弄るような行為ほど、戦場や戦争においては有効な手段であった。そして、規模は違えどそうした行為へと踏み切る勢力と、コンパスはアコード事変以前も対峙し続けているのであった。

「それで……こんなバカなことをやろうとしている連中はもういないんですか?」
「それを阻止するために、ミレニアムとセラフィムは動いているんだ。でも、例え彼らに追いついたとしても……!」

キラが拳を強く握り締め。己の無力さを呪おうとする。如何に強大な力を持って、それを行使、あるいは誇示したとしても、人の憎悪や怨嗟、そして悪意は決して抑え込めるものではないのだと感じていた。

「そういえばアグネスは?僕と一緒にミレニアムに戻ってきたはずだけど。」
「あれ?あの子、ジャスティスからまだ降りてきていなかったのかしら?」

キラの言葉を聞くと全員の目が、皆と同様に帰還をしていたジャスティスへと向く。そして、その機体から一向に姿を現さないアグネスが気になり、コックピットへと近付く。

「ねぇアグネス。無事だったのなら早く出てきなさいよ。」
「隊長だって別に怒ってないし、顔だって合わせられるだろ?」

しかし、そうしたシンとルナマリアの声にも、中にいたアグネスは返事をしなかった。彼女はコックピットの中で蹲り、自らの無様な姿を皆に晒すことを恐れて籠っているのであった。

「アグネス、さっきはありがとう。君の言葉がなかったら、僕はずっと迷っていたかもしれないから。それから……今までずっと、構ってあげることが出来なくて……ごめん。」
『い、いいのよ……別に。謝る必要なんてないわよ。本当に謝らなくちゃいけないのは……わたしなんだから。』

キラの言葉には返事をするものの、出てくる気配を見せようとはしないアグネス。そんな彼女にシンがさらに声を掛ける。

「いい加減に出てこいよ。隊長とはもう何もないんだから、さっさと出てくれば……」
『うるさいヤマザル!あんたに言われなくても分かっているわよ!どっかいけバーカ!』
「んだとぉっ!?このっ……少しは気をつかってやったのに……このっ、このぉっ!」
「やめなさいシンっ!そんなことして足を怪我したらどうするのよ!?」

アグネスの言葉に憤慨し、ジャスティスだからと気兼ねなくコックピット周りに蹴りを入れるシン。そうして3人が一向に出てこないアグネスを待っている中、一人沈黙を貫いていたヒルダは声を上げる。

「まぁいいじゃないか。出てきたくないなら出てこなくてさ。余程のこの機体の中が居心地いいんだろうに。」
「えぇっ?絶対良くないですよ、こんな機体。」
「シン!あんたは少し黙ってなさい!」

ルナマリアに窘められ、ようやく口を閉ざすシン。そうした中でキラはヒルダに顔を向けると、申し訳なさそうに声を上げる。

「分かりました。それじゃあ僕たちはこれで。ヒルダさんもまた後で。」
「ああ、お疲れさん。」

そう言ってキラは不満を露わにするシンと、彼を叱りつけるルナマリアを連れてその場を離れる。そして、ジャスティスのコックピット前に一人となったヒルダは、中にいるアグネスに向かって声を上げる。

「ほら、あいつらは先に戻してやったよ。もう出てきてもいいんじゃないかい?」
『い、イヤです……!まだ、ヒルダ隊長がいますから。』
「はぁ……何か必要なものはあるかい?私に出来るものなら取ってきてあげるよ。」

ヒルダはコックピット内にいるアグネスの状況を察していた。そして、彼女が内部から出て来やすいように、最大限の協力を惜しまない姿勢を見せる。

『……着替えと……タオル。濡れているやつと、乾いているやつ。』
「はいよ。出来るだけタオルは多めに持ってきてやるよ。今取ってくるから、もう少しそこでジッとしてるんだよ。」

そう言うとヒルダは急ぎその場を離れ、アグネスの求めるものを艦内へと取りに行く。そして、再びアグネスはジャスティスのコックピット内に一人となる。

『ひぐっ……ぐすっ、えぐ……ぐすっ……ぢゅるるっ……!』

大粒の涙を零し、垂れ出る鼻水を啜りながら一人咽び泣くアグネス。ヒルダの温かな心遣いと優しさが心と身体に染み渡った彼女は、狭いコックピットの中で自らを省みているのであった。

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