彼女たちのコズミック・イラ Phase44:ファウンデーション反省会

本編第二部では全く出てこなかったオルフェ、そしてイングリットのカップリング、オルインの回となります。もちろん死んでいます。なのでコメディ成分が多めです。主にアウラ。

どちらかといえば本作第一部における、アウラとイングリットの関係を掘り下げている感じです。作中ではイレギュラーとして認識されていましたからね。

次回が本作のエピローグ。ファウンデーション一行の前にあの男が姿を現します。


C.E.??:ファウンデーション王国宮殿内

かつてデスティニープランによって栄達を極め、核の炎で焼き尽くされた王国の都。その宮殿の中には国の主であった幼き姿の女王、アウラ・マハ・ハイバルと、宰相のオルフェ・ラム・タオを始めとした国の重鎮たちが縦長のテーブルに列していた。

「えー……それではこれより、アコード反省会を始める。オルフェ、まずは我らの戦闘結果を報告するのだ。」
「はい、母上。こちらの戦果は地上において戦艦一隻、モビルスーツを複数機。宇宙においてはザフトクーデター部隊と共にモビルスーツ部隊を多数撃破しております。」
「で、こちらの被害は?」
「ええっと……それは……」

上座に腰を掛けたアウラから被害の報告をするよう求められ、言葉を続けることに躊躇いを見せるオルフェ。そうした彼にアウラは苛立ちを募らせながら声を上げる。

「いいから報告をするのだ。」
「は、はい……親衛隊ブラックナイトが全滅、その他保有していたMS部隊、及び支援砲台もほぼ壊滅。また、旗艦グルヴェイグを始めとした母艦及び戦艦も全て喪失しております。」
「………」

幼き姿ながらも威厳を保とうとしていた女王アウラ。しかし、突如してテーブルをゆっくり叩き始めると、その手は次第に激しさを増し、座っていたアコードたちが顔を俯かせて恥じ入る中、激したように声を上げる。

「なんなのじゃこの有様はぁっ!全滅っ、全滅……連中の主力に全く損害を与えられずに……ぜ、全滅っ……ごはぁっ!」
「母上っ!」
「アウラ様っ……!」

憤死するのか如く血反吐を噴き出したアウラを気遣うように、オルフェと共に宰相補佐のイングリットが立ち上がりアウラを気遣おうとするが、女王はさらに声を荒げて彼女を突き放す。

「近寄るでないこの雌猫がっ!あの土壇場になってラクスを見逃して……あろうことかオルフェを誑かしおって……んぶぅっ……ぐぶぉはぁっ……!」

そう言ってさらに大量の血反吐を撒き散らすアウラ。その様子にオルフェはもちろん、叱責され首からは“戦犯”の二文字が書かれたプラカードを下げたイングリットも、ドン引きして言葉を失っているのであった。

「はぁ……はぁ……あー……スッキリした。やっぱり死んでおくと身体は楽なものね。」
「申し訳御座いません、アウラ様。最後までお役目を全う出来ずに……あろうことかオルフェ様の足を引っ張るような真似までして……!」
「まぁ……そうね。確かに褒められるような行動ではなかったけど、あなたがそれで満足出来たのなら、それでいいんじゃないかしら。」

全ては過ぎたことであったがゆえ、アウラは呆れた様子になりながらもイングリットの行動をそれ以上咎めようとはしなかった。そしてイングリットの行動に対して、アウラは理解を示すのであった。

「どうしてそんな……アウラ様は、私のことをお気に召していなかったのでは。」
「ええ、嫌いよ。大っ嫌い。確かに能力は優秀でオルフェとの相性もかなりもの。でも、ただそれだけの存在。母親としても女王としても、私があなたを好む要素は一つもないわ。」
「……っ!?」
「母上……いくらなんでも言いすぎでは……!?」

アウラのイングリットを全否定する言葉に、さすがのオルフェも苦い顔となり諫めようとする。しかし、悲痛な表情を浮かべるイングリットにアウラはさらに言葉を続ける。

「まるで……昔の自分を見ているみたいで、本当に大嫌い。叶わない恋心を持ち続けるなんて……欠陥以外の何物でもないわ。」
「アウラ……様?」
「母上……」

決して成就出来ぬ恋、通じ合えぬ愛。かつてのアウラがクライン博士に思いを馳せていたように、オルフェに対して届かぬ恋心を持ち続けたイングリットのことを、アウラは何よりも嫌悪しているのであった。

「こういった間違いが生まれないように、あなたたちやデスティニープランを作ったっていうのに、結局それもたった一つの誤算で全部がパー。はぁぁぁ……本当、人の心って度し難いわね。」

テーブルに身体を突っ伏し、床に着かない足をばたつかせて一人惚けるアウラ。彼女は最後まで、自らが見て見ぬふりをし続けた人の想いという力に敗北を喫していたのであった。

「それでオルフェ、あなたはどうなのよ。」
「どうって……何がですか、母上?」
「イングリットのことよ。昔っから仲が良かったんだし、今はどう思っているのかってこと。」
「それは……!?母上、イングリットは宰相補佐、私の部下ですなのですよ。信頼関係こそ築くことはあっても、恋愛感情などと抱くことはありません。大体私にはラクスという結ばれる女性が……」

宰相として、あるいはアコードとしての原則論を述べ、オルフェはイングリットからの想いを拒もうとする。

「もうそんな建前なんていらないわよ。どうせあなたはラクスにはもう会えないんだし。そもそもあの子はユーレンところの出来損ないと一緒になったわけだし。私だって、もうあの子の母親には会うことなんて出来ないんだから。」
「ラクスとは……もう……うぅぅぅ……!」

若き宰相だった青年とは思えぬほどに、オルフェはラクスと共になれないことに消沈していた。その姿に他の子供たちはもちろん、アウラ自身も些か複雑な表情を浮かべる。

「私は……そんな一途なオルフェも好きでした。」
「イング……リット?」

そうした中、イングリットはおもむろに口を開くと、自らのオルフェに対する思いを打ち明け始める。その姿に彼は思うところがあり、彼女の言葉を静かに聞く。

「ずっと傍で、オルフェがラクス様のことを話していると、胸が苦しくて……辛い気持ちだったことも事実です。ですが、そうしてラクス様のことを話すオルフェはとても優しくて、幼い頃に私へ手を差し伸べてくれた時のオルフェを思い出したんです。」
「そんな……イングリット、一体何を言って……」
「でも、それでも私は……あなたに伝えたかった。この私が抱き続けた思いを、例え伝わらなくても、拒まれたとしても、生きているうちに伝えることが出来てよかった。」

イングリットの言葉に呆然とするオルフェ。そんな2人を見たアウラは、不機嫌な表情を浮かべながら溜息をついて声を上げる。

「はぁぁぁぁ……こんなんじゃ、絶対に私が勝てっこなかったわね。身内にこんな裏切り者がいたんだから。」
「本当に申し訳御座いません。アウラ様の計画を、私一人が台無しにしてしまって……」
「もういいのよ。元々あなたたちに物心がつく前から、私が自分で破綻させたようなものだったんだし。」

クライン博士を手に掛けた時、そしてギルと袂を別った時、既にアウラの掲げたデスティニープランは破綻を迎えていた。しかし、それでも狂気に取り付かれていた彼女は、自らの命が尽きるその時まで運命を司り、自由を穿つ者として抗おうとしていたのであった。

「どうせもうラクスがいない場所なわけだから、あなたの好きにしなさい。オルフェを好きになるのも、振り向かせるのも、もう……あなたの自由よ、イングリット。」
「アウラ様……!」

命を散らして全ての役割から解放されたオルフェ。彼はラクスと添い遂げることが出来なった以上、例え魂が沈んでいようと為すべきことを見つけようと困惑する。

「母上……私は、その……」
「そうね……死んで初めて自由になったのだし、その自由という概念に苦しんでみたらいいんじゃないかしら。」
「苦しむ!?死んだのに苦しむ必要があるのですか?」
「それはある程度必要に決まっているでしょ。どうせここは地獄だし。イングリットの気持ちを受け容れるまで、ずっと苦しみ続けなさい、オルフェ。」
「いや、そうは言われましても……くぅぅ……!」
「………」

そうして母親に突き放されたオルフェは、困惑しながらもイングリットと目を合わせる。現世では最後の瞬間まで添い遂げることが出来なかった2人は、命を散らした世の果てで向き合おうとしていた。

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