彼女たちのコズミック・イラ Phase45:君の姿は僕に似ている

本作のエピローグです。エピローグという名のギャグ回です。出てくる人物の大半がキャラ崩壊を起こしています。

ただグラディス艦長が議長の魂を連れていくと言っていましたので、あの世でアウラと初対面している可能性はあると思います。もう少し真面目な対面だとは思いますが……

残すはあとがきのみとなりました。それでは、あと少しだけお付き合いをしていただければと思います。


「ひひひひ……よかったねぇお姉ちゃん。大好きだったオルフェと一緒になれそうで。」
「なぁっ……やめてリデラード……!そんなすぐに、親密になることなんて……!」

妹のリデラードに茶化されて顔を赤くするイングリット。そんなイングリットの妹に、アウラは不思議そうな目を向ける。

「………」
「ん?どうしたのですか、お母さま?」
「えっ……あー……いや、その……そういえばあなたたちで姉妹だったんだっけ。全然似てないから忘れていたわ。というか、本編で姉妹要素全然なかったし。」
「ひ、酷いですよぉっ!わたしだっていっぱいがんばったのにぃっ!」

アウラの心無い言葉に涙目となるリデラード。しかしそんな年少の子供に対して、アウラはさらに辛辣な言葉を浴びせていく。

「はぁ?頑張ったですって?量産機に後ろから斬られて落ちたのがどう頑張ったっていえるのよ?むしろいちばん情けない死に方してたじゃないの。」
「うぅぅぅ……だって、だってぇっ!うえぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!!」
「母様!いくらなんでも酷すぎますっ!」
「そうですよ!僕たちも精一杯戦って……それでも……!」
「だまらっしゃい!何よあんな犬っころ一匹相手に束になっても勝てないなんて……!そこの赤髪も!緑髪も!マスクも!あんたたちなんて所詮は色違いキットを水増しする以外の価値なんてゼロのモブキャラよ!」

毒などという言葉すら生温い罵声を浴びせて、我が子たちをこき下ろすアウラ。その悪辣を極めた言葉の前に、4人の子供たちは言葉を失って真っ白な灰になろうとしていた。なお、ブラックナイトスコードの本来の役割は、デスティニーガンダムSpecⅡの販促である。

「大体イングリット、あなた実の妹が討たれたっていうのに特に狼狽える様子がなくて、シュラが討たれた時のほうがよほど焦っていたじゃない。」
「え、ええ……それは、まぁ……」

アウラから指摘に言葉を詰まらせるイングリット。そんな彼女の首に掛かる“戦犯”の文字が書かれたプラカードをオルフェが取ると。イングリットは複雑な表情のまま声を上げる

「王宮でコンパスのみなさんと諍いとなった時から、シュラ以外の子たちが……リデラードも含めた全員が慢心をしていましたので。当然の結果だったと思っていました。」

イングリットの礼儀正しくも、アウラに匹敵するような辛辣な言動に、ついに彼女の妹を含んだ4人は砂状の灰となって風に吹かれていく。そして再び肉体が構築をされ、心身に多大なる苦痛を受けるのであった。

「はぁ……まぁ、もともと戦闘に特化した調整を施しているわけでもなかったし。あくまでも出生率の改善ついでに脳波研究をして、機械や人間を操れる能力を付与しただけだったのよね。」
「ですが……シュラの敗北だけは私にも想定外でした。」
「私にとってもです。イングリットと共にカルラに乗っていた私でも、シュラには及ばないと思っていたというのに……」
「いや、あれは相手が悪かったというか……パトリックの息子があそこまでの力を持っていたのは、私にとっても想定外だったわ。確かにあの男が、コーディネイターの栄達を希望したのも納得だわ。ただ……」

そうしてアウラとオルフェ、そしてイングリットが目を向けた先には、一人頭を抱えている少年がいた。

「あんな破廉恥な……戦いの場所であのような光景を頭の中で……!しかも……あんな敗れ方をするとは……!」

戦死する直前に理解し難い光景を目にしたシュラ・サーペンタインは、ただ一人善戦をしたといえる子供であった。しかし、敵対した者の目に余る無法ぶりに、彼は死後の世界でも心的外傷が癒えずにいた。

「……しばらくはそっとしておきましょう。オルフェやイングリットとはまた違った意味で苦しんでいるようだから。」
「シュラも慢心が皆無であった、とは言い難い面がありましたが……」

惨憺たる結果であった子供たちと反省会を続けるアウラ。そうした彼女たちのもとに、皆が聞き慣れた成人男性の声が響き渡る。

「さぁ、それはどうだろうな。油断や慢心ではなく、単に彼らのほうが優れていたという可能性もあるのではないかな。」

アウラたちの背後から聞こえた声の主。王女となってからも世界に響き続けた声。しかし、アウラ自身とは袂を別ってから久しく会っていなかった。

「ずいぶんな言い方ね。オルフェやイングリット、シュラについてはあいつらに劣っているとは今でも思っていないわ。」

顔を振り向かせないまま、アウラはその声に対して言葉を返す。そんな自信に満ちた彼女の言葉に、声の主はさらに言い返してくる。

「悔しい気持ちは分かるさ、アウラ。だがアスランはともかく、シンは間違いなく私がデスティニープランの要として見込んだ逸材だ。あなたの計画にとって、大きな障害となったことは間違いないだろう。」
「ええ……そうね。本当、とんでもない置き土産を残してくれたわね……ギル……」

そう言いながらアウラはついに顔を振り向かせ、久方ぶりに家族であり友人であった男と対面しようとする。だが、その姿にアウラはもちろん、オルフェやイングリットを始めとした子供たちも言葉を失う。

「ようやくこちらへ来たのか。待ちくたびれたぞ、アウラ。」

傍らには金髪の美青年、そして妙齢の女性を連れて現れた一人の男。ギル、かつてアウラと共に苦楽を共にしたギルバート・デュランダル。久方ぶりの再会にアウラは感傷に浸ろうとしたものの、その出で立ちに顔を引きつらせて絶句していた。

ZGMF-MM07 ズゴック。アウラたちが起こしたファウンデーションによる武装蜂起、その序盤において突如としてコンパスへと加勢したモビルスーツ。その着ぐるみのような何かを身に纏って、ギルは平然と姿を現しているのであった。

「……ギル、その格好は……なに?」
「笑ってくれて構わんよ。だがこの機体の影響力は、私やあなたの作ったモビルスーツを遥かに上回るのだからな。」

ズゴックの着ぐるみを纏ったギルはそう語り、傍にいたレイ・ザ・バレル、そしてタリア・グラディスは共に頭に手を当て、手に負えないといった様子でそっぽを向いていた。そして、アウラはおもむろに椅子から降りて立ち上がると、突如としてギルに向かって走り始める。そして

「ぐおぉっ……!?」

幼い姿の女王が放つ、両足を揃えた鋭いドロップキック。その一撃はズゴックを着たギルの腹部を貫き、彼を床に仰向けて倒す。そして、そのまま彼の上へと馬乗りとなったアウラは、ズゴックの顔部分から露わとなった彼の顔面に向けて拳を振り下ろす。

「久々の再会だというのに、中々に厳しいな……ぐぶぅっ!だが、思いの外元気そうで何より……ごぶぉっ!」

オルフェやイングリット、アコードの面々やレイやタリアが呆然とする中で、マウントポジションからギルを殴り続けるアウラ。そして、怒りに満ち溢れた声で彼女は言葉を口にする。

「お前はよぉっ……そうやって人気者にあやかることしか出来ねぇ男かぁ?あぁんっ!?ラクスの代わりを出してみたり、こんなトンチキコスプレをしたりよぉっ!?」
「いや……これはどちらかといえば、私が元々乗っていた機体……ぐぶぉっ!」
「おめぇのじゃねぇだろうが!元の機体にはツノがねぇだろ!ツノがっ!」

理解不能なやり取りに困惑する子供たち。しかし、アウラの怒りは収まることがなく、むしろギルに対する不満をさらに爆発させてしまう。

「大体あの偽ラクスの格好はなんなのよ!?あの下品な格好をさせて自己満足でもさせたかったの?あんたラクスの母親に出来なかったことをあの偽物にやらせようとしていたんでしょ!?」
「すまないアウラ……だがミーアが本物のラクス以上に良いスタイルをしていたから、つい……ふぶぅっ!」

宮殿全体に衝撃が走るほどの拳をギルの顔面へと叩き付け、アウラの怒声と共に彼への殴打は幕を閉じる。そして、しばしの静寂の後に、傍にいたタリアが声を上げる。

「私もこの着ぐるみの着用は何度も止めようとしました。顔をバズーカで吹き飛ばして、何度も……何度も……!」
「議長の色は、人気がありますからね。」
「ギルのカラーじゃないでしょ!?というかあんたはそっち側の人間なの!?」

良識枠だと捉えていたレイがボケ側だったことに困惑するアウラ。それはさておき、彼女はようやくギルの恋人と相まみえることとなる。

「あなたが……タリアね。ギルから話は聞いているわ。」
「いえ……アウラ、陛下……で、よろしいでしょうか。私はただ、自分の好きなように彼と添い遂げようとしただけですから。」

ギルが死亡した際、共に付き従った女性士官がいたことをアウラは人伝に聞いていた。彼女はそれがタリア・グラディスであったことをすぐに理解しており、ギルが一人で果てたわけではなかったことに安堵していたのであった。

「ホント……こんな男と一緒に死ぬなんて。あなたも大概、愚かな女だったってわけね。」
「ええ……ですが、後悔はありません。きっと、彼と別れてから、こうして共に同じ場所に向かうことを望んでいましたので。」

アウラにとってタリアは、ギルを誑かして自らの計画を狂わせた女であった。しかし、彼が心の底から愛していたであろう彼女のことを、憎むことも出来ないのであった。

「まったく……女のためにあんなことをするだなんて、ずいぶんとバカな男に育ったわね、ギル。」
「それを……アウラにだけは言われたくないな。好きな女のために壮大な計画を作ったのは、あなたも同じなのだからな。」

子は親に、弟子は師匠へと似る。アウラとギルは共に、愛した女のために運命を司ろうとした。そして、共に自由を抱いた女を前に敗れ去り、命を散らした似た者同士なのであった。

ギルの上に跨っていたアウラは起き上がると、彼に向って手を差し出し、起きるよう促す。

「本当に……あなたも私もバカなことをしていたわね。」
「ああ。しかし……アウラ、あなたの言った通りだった。少なくとも、退屈をすることがない人生だったと思うよ。」

感謝とも呆れとも取れることを口にしながら、ギルは笑みを浮かべて起き上がる。全てを失った彼の心には、多くのものが残されていた。そして、彼女が差し伸べた手をしっかりと握るのであった。

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