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【伝統医療でGO!#07】 #「最後の名人」鍼灸の師匠!#90歳・伝統の真髄 #生涯現役

◾︎ 現役引退!?

海外生活を始めてから数十年の私ですが、一時帰国の際のルーティンとしているのが、東京五反田への訪問です。正しくは、JR五反田駅近くにある山下鍼灸院の山下健先生への訪問です。

長く鍼灸の現場で活躍されている山下先生を、「最後の名人」と業界ではヨーダ級に扱われている、知る人ぞ知る臨床の達人であります。

コロナの期間、2年間帰国ができずご無沙汰したのですが、再び指導を請いに訪問を再開しました。今回も東京での空き時間を利用し、はりきって訪問のアポイントをいれました。すると、なんと先生が「現役引退」を宣言、訪問するその日が、最後の診療日になるとのお知らせでした。さっそく手土産を長崎カステラから花束に代え、門出をお祝いするための訪問に行ってきました。

スイトピー。花言葉は「門出」だそうです

◾︎ わたしを鍼灸師にしてくれた恩師

25年以上前の話になりますが、晴れて柔道整復師と鍼灸師の国家資格を取得したものの、当時巷には全く普及していなかったリフレクソロジー(足つぼ)の施術に入れ込んだ結果、武者修行の如く海外にまで足を伸ばしていました。しかし、社会的認知のなかったリフレクソロジーでは、就労できるビザが取りにくいという状況に直面しました。柔道整復師は日本の国家資格ですが、海外には無い日本特有の特殊な職種。一方で「鍼灸」は中国系の方々が世界中に根付いて活躍されているおかげか、海外でも一定の認知度がありました。よし、鍼灸師として海外滞在のビザの取得!!

しかし、私には、問題がありました。治療の現場で、鍼灸の施術をしたことがなかったのです。。。

当時日本の鍼灸専門学校では、国家試験対策に重点がおかれていて、診療については学校の外で学ぶという慣習でした。鍼灸学校に在学中の3年間、どっぷりとリフレクソロジーに入れ込んでいた私にとって鍼灸は、“老後の楽しみ”にしようというぐらいの漠然とした思いしかありませんでした。

日本での鍼灸治療に対する一般の印象というのは如何なものでしょう?
「肩こり腰痛にハリをさすと筋肉がゆるむ」「スポーツ選手に対するボディーメンテナンス」といったところではないでしょうか。
一方、これが海外においての鍼灸のニーズは、筋肉や関節の問題だけではなく、内科症状やメンタルの問題にまで広く求められていました。

そこで、一旦帰国し、作戦を練り直すことに。果たして、どうやって海外で通用する鍼灸の技術を短期間で習得できるかが課題でした。

整骨院にお世話になりながら、関東圏の色んな治療院に出入りしている卸業者の方を頼りにし、臨床に長けた先生を紹介してもらおうと捜索しました。多くの先生方は独自色を掲げられている傾向があって、わたしのような達人でない人間にでも出来る、再現性のあるオーソドックスなスタイルの鍼灸治療をされていると思えるような先生に、なかなか辿り着かないまま暫くの時間が過ぎて行きました。

◾︎ 古典医学研究「鍼和会」

鍼和会 実技演習風景

そんな中、鍼灸師を対象に五反田界隈で月1回開催されている、経絡治療をベースとした勉強会があると紹介いただき参加することにしました。経絡治療は、現代科学では未だ説明できない「気」の流れに着目し、日本では平安時代から脈々と伝承されている鍼灸独自の治療法です。学生時代の記憶では過去の歴史としてしか認知していませんでした。

勉強会は、前半に古典医学書「難経」という書物の内容解説、後半は臨床研修で構成されていました。第一印象は”地味”の一言でしたが(後日、その深遠さを思い知らされることになります…)、世界共通のマニュアルである医学古典を、現在の臨床に応用されていること、自然理論に準じた施術のシンプルさが、私の理想に考えていた鍼灸にマッチした感じがしました。また「難経」は81章からなる長編ですが、偶然にも私が参加した回が、一巡して1章からの開始だったことにも深いご縁を感じました。

ムムム、これだな。。。

臨床実習風景。鍼和会facebookページより

■ こうしてワタシは鍼灸師と名乗れるに至った

月一回の勉強会では飽き足らず、お願いして(半ば無理矢理)五反田の山下鍼灸院へ毎週治療見学に通わせていただきました。

その後、単身出向いたブータンでは、見学でため込んだメモを頼りに、山下先生の真似事を、患者さんの列を相手に、ただただ鍼を片手に繰り返していたのを覚えています。

雑誌に掲載までされたりして。。。

その後、山下先生には、なんと秘境ブータンにまで他の先生方を引き連れて応援にまで駆けつけてくれたりしました。

そして、大学への進学を希望した際には、東京に新設された学校を紹介いただき、こんなワタシが大学院を修業し、現在「国際協力」の仕事をさせていただくに至っています。

■  学問のすゝめ。。。

臨床人生70年、御歳90歳を目前に師匠の技は衰えるどころか、引退を決めた今でも予約の希望者は後を立ちません。

今回の訪問でも、超越した治療のお手前を特別に見学させていただき、ランチの間中も臨床における理論解釈についての論議にも対応していただきました。

ランチが終わり治療室に戻ると、先生、ガタゴトと書棚をあさり始める…。
おもむろに重厚な一冊の古典医学書を開き、ひとこと、

「もう1回、読み直そうと思って。。。。」

あのー、先生。今日、引退されるのでは。。。。。😅

後日談ですが、先生は臨床の第一線を退きはされましたが、同じく鍼灸師の息子さんと一緒に、週に1回だけ、常連さん相手に臨床を続けられるそうです。

生涯現役!益々のご健勝をお祈りしております。


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