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【登山記】諏訪湖のロマンを守屋山から夢みる〜そしてモリヤの不思議を知る

 信州の黒曜石を巡る旅。前回の記事はこちら。

 この旅で最も見たかった景色は、諏訪大社のご神体山も言われる守屋山からの眺めだ。諏訪大社のご神体については、謎が多く、大祝(おおほうり)と言われる人、石神(シャクジン)、諏訪湖そのものなどの説があり、広く流布しているのは守屋山そのものであるとの伝承だ。
 御祭神は前宮が八坂刀売神、本宮が建御名方神、春宮秋宮は建御名方神、八坂刀売神、八重事代主神と今はされているようだ。私は、この守屋山への信仰がかなり古くからあったと思う。
 謎とロマンあふれる守屋山を直接感じ、歩いて見たかった。そして古代の人々が見たであろう諏訪の景色を幻視して見たかった。

守屋山は人気の山 朝には多くの車が登山口にあった

守屋山登山口

 守屋山へのルートは複数あるが、杖突峠方面から登るルートが一般的であるようだ。この日私が駐車場に着いた朝の7時には既に十台位が止まっていた。登山口はすぐ近くにある。そこから直登に近い形で登る。
 途中林道に合流し、そこから赤井沢新道入口というゲートを潜って、一旦下り、水呑場山荘に着く。ここで息を整える。

林道からこの赤井沢新道入口の門を潜り、水呑場まで下る
整備されている道、木道は少し穴が空いていた
水呑場山荘から本格的に登山道へ

 水呑場山荘は、公園のように整備されておりきれいなトイレもあった。
 ここには2017年に鎮座した守屋山諏訪社がある。山での登山者の無事を祈って、地元の人が祭ったそうだ。私も登山の無事を祈ってから登り始めた。 
 ここから守屋山の東峰までは三十分位であった。

守屋山諏訪社で無事を祈願しよう

諏訪全体を見下ろす壮大な眺望

 冒頭に書いたように、この守屋山からの眺望が、今回の旅で最も見たかったものだ。守屋山山頂からは諏訪地区がよく見えた。東から続く山脈が諏訪湖で分断され、大きく左に振られ、そして信濃、越(こし)方面に伸びてゆく。
 山は右手からに八ヶ岳、霧ヶ峰、和田峠など昨日車で巡ってきたところが一望できた。そして北アルプスの山、左手奥には雪の乗鞍も見えた。

パノラマ撮影
諏訪湖の眺め

 更に後ろを振り返れば、そこには南アルプスの山々があった。

南アルプスの山稜を見ることができる

 諏訪湖は太古に大地が避け、そこから吹き出てきた水がたまった場所だ。巨大な湖であり巨大な穴だ。この諏訪湖には竜伝説がある。その竜伝説の正体は、私はこの諏訪湖から吹き出ていた間欠泉が1つの役割を担っていると思う。今ではあまりないらしいが、その空高く吹き出る間歇泉が、十分に天駆ける竜を想像させる。
 昨日通った霧ヶ峰、星糞峠。ここから掘られた黒曜石は和田峠近くの男女倉で洗われ、そして中世の中山道を通って諏訪湖の畔へと運ばれたのではなかろうか。当時諏訪湖はもっと巨大な湖であったという。少なくとも現在の諏訪大社辺りまでは水面があったそうだ。
 黒曜石は、諏訪湖を経て、右手の甲州・関東方面、そして左手からは天竜川を下り、浜松方面へ。そして左手上方の信濃、越方面へと、諏訪の縄文人と黒曜石は長い旅に出て行ったのだろう。
 ここは縄文時代、名実ともに日本の中心であったのだ。
 壮大な黒曜石と諏訪湖のロマンを、いつまでも幻視していたい・・・夢のような素晴らしい景色であった。

守屋山奥宮を経て、西峰へ

 守屋山は双耳峰だ。この東峰からの素晴らしい景色に感動したが、西峰ではどのように見えるのか、更なる感動があるのかと思った。
 興奮を抑えきれぬまま西峰に向かった。途中、守屋神社の奥宮があった。

鉄柵に囲まれている 近くには磐座のようなものがある
弓 鎌 そして丸石が置いてあった

 この守屋神社の奥宮は物部守屋を祀っているという話もあるようだ。大和政権時代に、仏教の受け入れについて蘇我氏と争い敗れた、あの物部守屋だ。ややこしいが、ここには、別の洩矢氏(神長官守矢の一族)の伝説もある。
 物部守屋は、蘇我氏との戦いに敗れ密かに諏訪の地に逃げ来たというのだが、これは古事記のタケミナカタの件と似ているので、後世の創作ではないかとも思うのであるが、いずれも古い伝承であり、今となっては解き明かすことは難しい。
 神社は石造りの質素なものであったが、前には鎌と剣が供えられていた。物々しく鉄柵で囲まれている理由が不明だったが、これは古くから守屋山の神を怒らせると雨が降るとの伝承があり、怒らせるためにこの神社にひどいことをしたそうだ。それゆえ、今でもいたずら防止でこのような鉄柵があるとのことだった。 
 やがて、ラピッドハウスと言う小さな山小屋が見えた。そして西峰に着く。ここからも素晴らしい眺めであった。

ラピッドハウス
中には、その名の通りウサギグッズでいっぱい。山の交流帳もある。

 西峰の360度のパノラマの景色は、東の峰よりも素晴らしいかもしれない。三角点もあった。

国土地理院の三角点
西峰からの諏訪地方の眺め
やや右手八ヶ岳方面をみる

 諏訪大社の森が見えた。やはりこの守屋山は諏訪大社のご神体山なのではないかと思った。東峰でも西峰でも夢のような素晴らしい景色を見ることができた。朝のすがすがしい空気と守屋山の神域としてのパワーが包み込んでくれるようだった。

立石コースを降る

 帰りは同じコースではなく、立石コースと言う地元の方が整備された山道を通った。ここは近年整備された山道であり、歩きやすかったが、山腹を歩くため眺望は効かず、単調ではあった。
 ただ、途中に大きな磐座と思しき、百畳岩、鬼ヶ城などの場所があり、何か遺物がないか、ちょっと探したりして遊びながら下ることができた。

守屋神社を少し西峰方面に行ったところに分岐がある
独特の標識も多くある
百畳岩 修験道の修行地だったのではと思う
立石 遠くから見ると僧に見えるそうだ

 立石コースの入り口、杖突峠(国道152号)沿いに古屋敷なる集落があるが、その近くに出た。どうやら昔リゾート開発の計画があったような場所らしい。立石コースは山頂から約一時間半位だった。
 そこから十五分ぐらいで、朝に停めた駐車場に戻った。

立石コース入口(下山口)諏訪湖の花火大会や御神渡りがよく見えると書いてあった

守屋神社に参拝 不思議な話を聞く

 正午少し前。駐車場には百台ほどの車が並び、ほぼ満車状態だった。
 予定よりも早く下山できた。残りの旅の予定は諏訪市博物館を見るだけ。体力もまだ余っていたので、連れと話をし、伊那の高遠城まで行くことにした。高遠はこの杖突峠国道152号線を南に30分ほど下ったところにある。
 その途中、守屋神社を見つけた。守屋山山頂の守屋神社との関係があるに違いないと参拝することにした。
 守屋神社の鳥居をくぐり、石段を上がると一つ目のお社があり、その裏から続く道の先に二つ目のお社、そして少し小高い場所に三つ目の石の社があった。

一つ目のお社
二つ目のお社
三つ目のお社

 二つ目のお社に参拝した際に、白い紙で包まれた細長いご神体が見えた。何を祀っているのだろうと思った。
 三つ目のお社に参拝してるときに、下から女性がが登ってきた。にこやかな笑顔で、その女性から「どちらからいらしたの」と声をかけていただいた。そこから、いろいろお話を伺った。
 女性は、この守屋神社のお世話をされているが、この地区でも人が減っており、地域でのお世話が大変になってきているということ。
 この女性のお兄様が、二つ目の社にあるご神体を軽々しく触ってしまったことがあり、その後頭が非常に痛くなった。慌ててお社に謝りに行ったのだ、と言うような話きいた。
 やはり私が思った通り、お社には「石」が祀られているらしい。どのような形の石であったであろうかと言う興味があったが、それはわからないようだった。
 更には、道路に一番近いところにあった狛犬は、以前盗まれてしまったことがあるのだが、後に、また誰かの手によって戻されたという話をしてくださった。戻された狛犬は、上のほうへ再度設置し、道路に近いほうは、新しい狛犬を設置したそうだ。

周りの石に比べて少し新しいような・・・

 狛犬を盗むとは、なんと罰当たりなと思うが、その後リスクを負ってまで戻しに来たということは、それなりの「罰」が下ったためだろう。
 やはり、この地区には濃厚なる石の神への信仰と、それを裏付ける不思議な神の力があると思った。
 やはり諏訪は謎とロマンと神々のパワーに囲まれた不思議な、そして魅力的な場所だとの思いを強くしたのである。

この続きは、こちら。


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