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映画「PERFECT DAYS」で気づいたこと---主人公平山にとっての5年という月日

映画「PERFECT DAYS」では主人公平山の過去について、ほとんど説明をしません。

そこで観客は、映画を見終わった後も、いろいろと妄想してしまうわけですね。

平山がどういういきさつで、映画の「現在」に至ったのかは、それほど重要なテーマではないと思います。
しかし、やはり気になってしまう。

というか、監督は、観客があれこれと平山について考えてしまうように作っているんですねww

ちなみに平山については、下記のようないろいろな情報源があります。
公式サイト
https://www.perfectdays-movie.jp/

平山はこうして生まれた【映画】PERFECT DAYS / パーフェクト・デイズ
https://www.youtube.com/watch?v=IAPMzI8kh5c

【第1弾】「平山という男は、どこから来たのか」ヴィム・ヴェンダース監督ロングインタビュー_『PERFECT DAYS』

しかし今回わたしはこれらを参考にせず、わたしの頭の中だけで平山像を構築しました。それは映画を見た者の特権ですからw

◆「5年という月日」

平山の過去を考える上で、「5年」という月日がポイントになるのではと思いました。

別に頻繁に出てくる言葉ではありません。

石川さゆり扮するママが切り盛りするスナックは、映画の「現在」からちょうど5年前から営業を始め、平山はその店に開業時から通っていることが、三浦友和の口から知らされます。

ママは平山の過去を知っているそぶりもなく、自転車でやってくるちょっとインテリ風のいい男、としかみていないようです。そして三浦友和は石川さゆり扮するママの元旦那です。

もちろん、そのスナックができる前から平山は現在の職業に就いていたと推測できるのですが、もっといろいろな人との人間関係をみていくと、そうでもない、というのがわかります。

「5年」という言葉はそのときだけに出てくるのですが、それが平山の過去を推測する上で重要だと思える理由は、姪の存在です。

この姪はどう見ても高校生で17歳くらいではないかと推測されます。最近高校生になったばかりの女の子には見えず、さりとて、もうすぐ20歳になるといった成熟ぶりはないからです。

この姪は、平山の妹の娘です。ある日突然平山のアパートにやってきます。家出をしてきたようです。

そこではじめて劇中で姪を見る平山の反応は、最初誰かは分からないのだけれど、じっと見ているうちに、その娘が姪だと分かる、というものでした。

つまり、平山にとっての、その姪のイメージはもっと幼かったころのものだったと考えられます。その幼かった姪が急に成長しているので驚いたのです。

しかし一方で、姪の側から考えると、幼稚園や小学校低学年あたりの年齢で没交渉となった伯父の家には、いくら頼るところがないにしても、押しかけたりはしないでしょう。

やはり、思春期を迎える小学校の高学年や中学生あたりまでは、伯父と時折会っていて、交流があったと考えるのが自然です。

平山は、そのころの姪のイメージが脳裏にこびりついていて、「大人の女になる寸前」の姪のことがわからなかったのではないでしょうか。

それから、姪の母親である妹は、娘を連れ戻しに平山のアパートの前で待っているのですが、運転手付きの車で来ているのがわかります。自分で外車かなにかの高級車を運転してきているなら、そこそこの金持ち程度なのかもしれませんが、夕方暗くなってまで運転手に仕事をさせる「奥様」というのは、かなりのステータスを持った人と想像されます。

このことから、家出娘である姪が、いかにも育ちの良いお嬢さんであることもうなずけます。

平山の妹は、もともと良家の出かもしれません。つまり平山もそうであると想像されます。そして嫁いだ先も経済的にも恵まれた家のようです。

姪が、小学校の高学年や中学生あたりまでは、伯父である平山と交流があったと考えると、平山は5年くらい前までは、それなりに社会的地位、経済力のある人物だったということが推測されます。

良家の出で、しかも同じような良家に嫁いだ妹なら、娘を自分たちとは異質な社会階層(いやないいかたですが、トイレ掃除を仕事にしている階層)に生きる人間と、たとえそれが兄であろうと、交流させたりしないからです。

つまり5年以上前、例えば10年近く前から平山が現在の生活をしていたなら、姪はおそらくものごころついてからは、ほとんど平山とは交流をもてず、家出したときに頼りにすることはないはずです。

約5年前、姪は中学に上がるか上がらないかの年齢で、伯父であり、それなりの地位にあった平山と交流があった。彼女は平山のことが好きで、憧れの対象だった。何かの事情で、平山がそれまでの地位や立場を捨ててしまったあとも、手紙などでコミュニケーションを取っていた・・・。

平山は何かの事情で、約5年前、それまでの地位や立場を捨て、トイレの掃除人の仕事を始め、スカイツリーが間近に見えるアパートに引っ越してきて、自転車を買い、石川さゆりのスナックに通い始めた。

この映画には、些細なところで露出する他人への差別意識が描かれています。たとえば麻生祐未演じる妹が、平山に「兄さん、本当にトイレ掃除の仕事をしてるの?」と顔をゆがめながら聞くシーンがあります。

しかしその妹の娘である姪は、みじんも平山の仕事を蔑むような態度は見せず、それどころか平山の仕事を手伝います。そうした美しいシーンがあった後に母親が連れ戻しにくる場面に変わるというのも、なにか意味があるのでしょう。

おそらく姪をイノセントな天使のような存在として描き、平山自身と彼を取り巻く社会との「見えない境界線」を気づかせようとしているのではないでしょうか。

◆平山が父親だったら「PERFECT DAYS」はしばらくお預け

こんな妄想をしてみると、平山の姪を演じた中野有紗という女優さんをキャスティングした制作陣のセンスはずば抜けているなと思います。上品さがにじみ出ていて、すごみを感じました。

まあ、ただの監督の趣味かもしれませんがww

ネットでは、実はこの姪が実は平山の娘であり、妹は別れた元女房ではないか、という妄想もあるようですww

自分の妄想を散々書いておいて、他人の妄想を嗤うのはよくないことですがw

妹役の麻生祐未は、劇中ではっきりと、平山のことを「兄さん」と何度も呼んでいます。

別れた亭主と久しぶりに会って「兄さん」っていう女性はいないでしょうw

それからもし姪が娘だったら、姪を2階に寝かせて自分は1階の台所みたいなところで寝たりはしないでしょうし、あんなにコミカルに、寝ている姪のそばを通って植木に水やりにはいかないでしょう。

もちろん、麻生祐未扮する妹が、平山の弟の妻、つまり義妹で、平山との不義の子が姪、つまり実子という設定なら、「兄さん」というのは「義兄さん」という意味だっていうのも分かりますが・・・。

しかしもしそうだとしても、姪を2階に寝かせたときの、あの慌てぶりの説明がつかないでしょう。娘を女として意識するのは、完全におかしいですw そもそもそんなややこしい背景なら、それをテーマにして描くでしょう。

どうやら姪が母親に連れ戻されるときの、平山の様子から、「娘、元妻」という想像ができてしまうらしいです。

何か「今生の別れ」のような感じがするからでしょう。僕もあのシーンは、なんだか変なシーンだとは思いますが、それでも「娘、元妻」というのは考え過ぎのような気がします。

だいたい麻生祐未が別れた女房なら、いまさらハグなんかしませんw

「今生の別れ」のようなあのシーンで見せた平山の嗚咽のシーンは、おそらく、あらためて自分が姪や妹とは違う世界に生きているのだということに気づかされたことを意味しているのではないでしょうか。そして、もう自分は姪や妹の生きている世界には、どうあがいても戻れないのだと思い知るのです。自分が何を捨ててしまったのかを、今さらながら、気づいたのでしょう。娘ではないけど、娘のような姪と過ごした日々に酔ってしまった自分の浅はかさを知ったのかもしれません。

それに、どういう形であれ、まだ高校生にしか見えない未成年の娘がいたら、自分のルーチンで完結した素晴らしい「PERFECT DAYS」は送れないです。

元妻が金持ちだったとしても、平山という人物は、親としての自分の責任を果たそうとするはずです。のんびりアナログカメラで写真撮ったり、スナックに行って飲んだくれたりしないですよ。仕事帰りに駅前の大衆居酒屋に寄って軽く一杯なんてことも無理です。大学進学費用だってかかるかもしれませんしw、トイレ掃除だけでなく、もう1つくらい仕事をしているでしょう。

もっと余裕のない、必死な平山が現れて、おじさんたちが憧れる主人公ではなくなってしまいますw

まだ1人前になっていない娘がいたら、「PERFECT DAYSはしばらくお預け」っていう映画になっていたでしょうねw

日本のお父さんはそんなに甘い生活はしてないですよ。だから、あの映画を中高年男性がこぞって見に行くんですよw


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