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【逃げ切れるか 2】

処置室にて待っていたのは
救急を担当されている先生でした
イメージ的には
ひらパー兄さん...
いや
岡田准一さんのような
小柄の部類に入るだろうが
看護師さん達への指示は
芯の通った声音で冷静沈着な軍師を連想させる好漢であり
非常に丁重かつ明瞭な語り口に好感と安堵を感じました

救急の現場で想像していた
患者に逃げ場のない口調とは程遠く
先の地元病院から持ち来たるデータを丹念に目を通された後
先生の私への第一声が「このCRPの数値でよく歩いて来られましたね」と
ゲル「(突っ込むトコそこかと思いつつ)いえ、そこの信号からですので」
と緊迫感の無い受け答えから始まったのでした

しかぁし
ソフトな受け答えをされてはいるが
先生は詰め将棋のように包囲網を敷いて来ました
先生「外科にベッドを確保しており先生も待機されたおられます」
ゲル「ありがとうございます。しかし家に帰って薬で散らしたいのです」
先生「明日、何か大切な予定でもあるのですか?」
とても丁寧な言葉遣いではあったが包囲網の輪が締め付けられて来ました
ゲル「特に予定はありませんが...」
先生は視線を私から外し家内に向かって
「入院されていれば急に変化が起きても安心」的な説明をされたので
家内の思考は変化しつつあり
私に向けられたその視線は(我儘言って迷惑かけんな)と語っていました

しかし私の脳裏に浮かぶ外科の映像は
白衣を着た板前さんが両手に持った包丁を研ぐように
シャリーンシャリーンと擦り合わせ、俎上の鯉が動かないように
目を左手で覆い千枚通しのような鋭利なモノで鯉の目を刺し通すそれでした
(あかん、外科のベッドに行ったら帰れんし
この先生の優しさは裏があるんや)と
漆黒な下衆の勘繰で私の脳内が溢れそうでした

しかし
救急処置室には次から次と患者さんがやって来ます
私は「私より大変な方に申し訳無いのでお薬頂いて自宅で散らす方向で」と
漆黒、いやしつこく勇気を振り絞って先生に帰りたい旨をお伝えしたところ
周囲の忙しさを鑑みて一旦引くカタチを取ってくださいました

先生「では今日は抗生剤点滴して飲み薬を出しお帰り頂きますが
   週明け30日に外科で予約をとっておきますので必ず受診して下さい」
と仰って心電図モニターを外し処置室の隣の部屋で
ストレッチャーから寝台に移され抗生剤を点滴して頂きました

私の周りから看護師さんも居なくなり
「俎(ストレッチャー)」から降りたのを実感しましたが
眠れる程の安堵感はありませんでした
何故なら「週明は戦場(外科)」だからです。

《再び続く》

次回も乞うご期待

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