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中国ビジネス、中国学、中国語などに飛び込もうとする人たちに読んでもらいたい書籍②

中国の若者はこれまでの世代とは大きく異なる。
中国マーケティングを行っていると、その事実を常に突きつけられている。
その「違い」を恋愛や結婚という人生の一大イベントという切り口から描き出した一冊。

書名:シン・中国人―激変する社会と悩める若者たち
著者:斎藤淳子
出版:ちくま新書

書影

まさに経済発展の恩恵を享受しながら育ってきた90後世代だが、社会に放り出された後に、現実とまた上の世代との価値観の違いと向かい合わなければならなくなる。

特にモノが溢れ、社会に良質な商品が「普通に」存在していることが、価値観・人生観の多様化を生みながら、社会成長が爆発的から安定に向かうことに市場競争が激化。
自身の価値観に沿った行き方ができないことに悩む姿が、インタビューによってリアルに描かれている。

また「恋愛」、「結婚」という、どの国、どの民族でも重要視される人生のイベントは、新たな価値観と伝統的な因習との間で多くの軋轢や悲劇を生む。
現在中国のZ世代はまさにそれだ。

農村などの地域では男子を望み「伝宗接代(血を受け継ぎ代を重ねる)」ことを求めるが、「家(不動産)」の購入などの経済的なプレッシャーがのしかかる。
それ故に子供のころから英才教育を施し、名門を目指し、高所得者へと突き進む。

だが、今は名門卒業生でも就職へのハードルは高い。

さらには都市部の女性も考え方が「ひと昔前」とは大きく異なる。
いい大学を出て、大手に就職し、以前はそのまま「いい相手と巡り合い結婚」となったが、今は違う。
「事業(キャリア)」に生きることを喜びとする女性も多い。

読みながら思い浮かべるのが「PROYA」の公益動画だ。
同ブランドは3月8日の婦人節に「女性を応援する動画」を配信することで有名だが、その動画が刺さる理由も、本書を読むと想像することができる。

参考:PROYA(珀莱雅婦女節動画)

https://www.meihua.info/shots/4151903489248256

https://www.meihua.info/shots/4667257187320832

さらに彼らを襲うのは「社会の安定化」だ。
2000年代前半はまさにバブル。何をしても右肩上がりにしかならない。
誰もが努力さえすれば(日本とはニュアンスが異なるが)、経済的に豊かになれ、不動産も、社会的地位も手に入る。

だが、社会が安定化していくと「伸びしろ」が無くなる。
どんなに頑張っても、前の世代のようには経済的に伸びるスペースは少ない。
地方都市になれば、バブル時代の意識のまま開発が進められて、結局はゴーストタウン化してしまう例も多い。

「だったら結婚なんてしなくても、1人でいいじゃん」
高度なネット社会のオンライン上のつながりだけで満足してしまう、もしくは「必要な時に必要な時間付き合う「搭子」文化が広がっていく。

「誰もが明日を保証できない競争である“巻”に巻き込まれつつ、ウンザリしている」
そんな状況が見えてくる。
吐き出し先としてライブコマースなど、今までそんな余裕が無かった自分の趣味で自己表現を目指す若者もいる。

そしてこうした中国の社会情勢が若者の日本へのあこがれを駆り立てているという反面もあるようだ。
「日本は“巻(競争)”に巻き込まれなくても生きていける」
日本への留学や移民を考える中国人の友人などからよく聞く言葉だ。

そこに何か、複雑な寂しさを感じる。

日本の経済は中国依存度が高い。
「中国の人にたくさん買ってもらいたい」
などと日本企業からはよく言われる。

ただ、重要なのは、中国社会に生きる「何となくの寂しさ」を理解し、いかにして「中国消費者の心に残り」、「中国消費者に寄り添う」ブランディングを行わなければ、消費者の心に残ることはない。

この本には、そのヒントが詰まっていると言えるだろう。

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