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第一章 第二歩 旅立ち

かくして、僕は旅に出るための準備を始めた。

まずは物理的に、近辺整理から。
教師としての生活に必要だった書類や、
小道具たちを捨てる。

次に、パートナーとの
思い出の詰まった物たちとも別れる。
三年も交際していれば、
そりゃあまぁたくさんあった。
「今まで楽しませてもらいました。
ありがとう、さようなら。」
掃除。

思考の整理は、モノの整理から。

さて、視界も良好になったところで、
音楽でもかけながらすっきりした部屋を見渡し、
一番核となる「旅の目的」を考えた。
思考を整理する。

僕の夢は、学校を創ること。
創るためには、
住民が「この学校に通いたい」と
思ってもらう必要がある。

公立の教育現場のことは少し分かった。
次は住民、つまり地域。
住む地域によっても
求められる教育は違うのだろうか。

「令和の住民が求めている教育とは。」

各地域の住民の生活様式からも
見えてくるかもしれない。
そもそもとして、
僕は自分の家の暮らししか知らない。
そして教師をしていた僕の生活は、
根本として
お金を稼いで、物を買って生きる。
となると、知りたいのは、

「人々はその地域で
どのように暮らしているのか。」

広がってきたな。
でもこれではどこに行けばいいのか分からない。

考えるベクトルを変えてみよう。
僕が教育に熱を込める理由はなんだっけ。
そうそう、それは僕が子どもの頃から
抱いていた感情から来る。

僕は勉強そっちのけのスポーツ少年だった。
サッカー、野球と打ち込んだ。
高校までスポーツを続けると
大抵の人が当たる壁に、僕も当たった。
「プロにはなれない。」

勉強にしても、好き嫌いで言えば大嫌いだった。
将来は特に考えていない。
それでも先生の方からたびたび、
その話を持ってくる。
「将来の夢はなんですか?」
「やりたいことは?」
その度考える。いやぁ、何になるのも難しそう。
なぜ子どもながら難しいと分かるかと言うと、
平成後期でスマートフォンが普及してから、
情報が容易く手に入るようになったからだ。

ネットの情報を見るととんでもない能力を
持った人たちが世間にたくさんいることが
分かったのだ。
それでも現実の生活で目にする職業と、
ネットで得られる情報からしか
選ぶことはできない。

つまり、夢は
自分の知りうるモノから決めるしかないのだ。

僕は勉強ができないし、スポーツもダメ。
絵も描けない、音楽もできない。
人を笑かせる芸もないし、
心身を注ぐ好きなものもない。

それでも何か道を決めなければ、
進むことはできない。
僕が高校生までで知っている職業、かつ、
素敵だと思えたものは、教師だった。

そうだ、思い出した。
僕は特別な才能がないからこそ、
同じように嘆いたり挫折したりする子どもに
言えることがあるのではないか。
そう思って教師になったんだ。

材料が出てきた。「旅の目的」に話を戻そう。
仕事も恋人も失い、
特別な才能を持っていない僕が旅をすることで
伝えられることがあるはずだ。
なぜなら、
僕の願いは

「みんなが自分の才能に落胆したり、
環境に打ちひしがれずに済み、
特別な力はなくても笑って生きていけること。」

なのだから。

整理されてきたな。
つまり今の僕の旅の目的は、

・「令和の住民が求めている教育とは。」
・「人々はその地域で
  どのように暮らしているのか。」
・「誰でも生きていける術を探ること。」

さて、目的がわかったところで
次はどこに行くかだが、海外は広すぎる。
日本すらまだ旅行くらいでしか見たことはない。
海外に行くにしても、
まず日本という国を知らなければ。
なぜって?僕は日本人だから。

よし、とりあえず旅の範囲は日本。
とすると、
僕の中で決め方が三つ浮かんだ。

一つ目、家の門を叩きまくる。
んー、ハードルが高い。
そこに行ってなんて言うよ。
あなたの生活を見に来ました!って?
誰?何この人!ってなりそう。却下。

二つ目、サイトで検索してみる。
なんて検索したらいいんだろう。
旅人を受け入れるところかな?
あるにはあるだろうけど、なんか違う。
求人募集サイトと同じだ。
バイトみたいだ。却下。

三つ目、人づて。
僕の旅の意図を理解してくれる知り合いに
世界を広げてくれそうな人を紹介してもらう。
うん、これがよさそうだ。
知り合いだと話もスムーズに進みそう。

さっそく知り合いに聞いてみた。
結局、母の知り合いになったけど。
ズルしたみたいだけどまぁいいさ。
何はともあれ受け入れ先が見つかった。

初めての旅の目的地は、岡山県の上の方。
受け入れ先は個人農家「ほのぼのハウス」。
なんでも農業の知識は要らず、働いてくれたら
ご飯と宿を提供してくれると。
なんて僕にぴったりなんだ!有難い。

よしよし、おっと、ここで問題発生。
どうやって岡山まで行こう。
お金を使えば行けるけど、それじゃあ味気ないし、
「誰でも生きていける術」にはならない。
となると、徒歩?
いやいや〜、修行僧じゃあるまいし。

移動方法を考えている時、
密かに僕の中でワクワクドキドキが募った。

映画でしか見たことはない。
話には聞くけど、そんな人と話したことはない。
ちょっと前に初めて道で見たくらいだ。
それでも、この方法が出来るなら、
お金を使わず、かなりの速度で移動ができ、
色んな職の人に話が聞ける。
よし、!

「ヒッチハイクで行こう。」

目的地と移動手段が決まった。
最後は、荷物と服装だ。

やっぱり旅人といえばバックパックだよな。
なんのやっぱりかは説明できないが、
知らないけどバックパックだろう。
キャリーケースで旅する人なんて
聞いたことがないから。

ヒッチハイクだといっても、
基本は歩けるように荷物は最小限にしないとな。
乗せてもらえず夜を越すとなったら、
テントと寝袋もいる。
さすがに荷物にはお金を使おう。
ちなみに今の僕の所持金は、10万円ほど。
荷物に使えるだけ使って所持金は少ない方が
「誰でも生きていける術」に説得力が出るだろう。
初期投資には目を瞑ってください。

それでも出来るだけ安くしよう。
テント2,000円
寝袋はさすがに10,000円
凍え死ぬのは嫌だから。
農業するから、軍手、カッパ、長靴、水筒。

そうそう、ヒッチハイクといえば
紙とかに行き先を書くよな。
でも出来るだけゴミは出したくないから…
フリップボードにしよう。

あとは服装。
農業もできるし、ヒッチハイクにも適した服。
でもオシャレも切り捨てたくない。
考えた末の服装がこちら。

作業服っぽい深緑のツナギ。
清潔感、明るさを出すために、
白のロングTシャツ。
靴は登山靴。
おっと、今はコロナ禍。
マスクは一応持っていこう。
たくさん持てないから洗えるやつ。

そして、決め手は髪型。
教師一年目ということで我慢して
印象のいい何でもない髪型にしていたが、
旅人なので、伸ばしてみたい。
くるくるパーマでどうだ。
ヒッチハイクでも印象は大事。

完成。
旅始めました!みたいな好青年が出来上がった。
乗せたくなるだろぅ〜。

さぁ、準備は整った。
2022年、23歳、旅人。
季節は春。天気は快晴。
僕を縛るものは何も無い。
視界良好。
気持ちは軽く、
荷物は、重いっ!

一年の教師生活を経て、
日本から学びを得るべく、
ヒッチハイクをして目指すは岡山県。

今日この日より、
僕は「日本とは」を求めて
旅をする。

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