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北米大陸 前と後 3

New York の安全度

初めてNew Yorkに行ったのは、1982年だ。
 
留学中の春学期が終了して、私は一年間で大学院修了を目指していたので、秋学期が始まる前までの期間に単位を取得できる講座を開講する3つの教科を受けなければならない。
 
その講座間の隙間をぬって、グレイハウンドバスの旅を思い立った。何しろ、勉強で身も心もくたくただったのだ。
 
と言うわけで、大学近くのバスターミナルから19時間かけて、早朝New Yorkに下車したのだ。

オハイオ州コロンバスの
グレイハウンドバスターミナル
(キャンパス近くのターミナルとほぼ同じ姿)

今のような携帯がない時代だから、どうやればいいかわからない。ホテルに泊まる予定も入れていない。と言うことはグレイハウンドバスが(当時のCMで言われていた)動くホテルの態であった。
 
そんなことを詳しく述べるのはこの程度にしておいて・・・。
 
夜までの許された時間一杯をNew York散策に過ごす工夫など、当時は持ち合わせていない。そこで東京のはとバスを思い出した。
 
その前に、絶対行かなければと考えていたエンパイアステートビルディングに上って、New Yorkに行ってきた、と言えるようにアリバイ造りだ。
 
それが一段落してからは、早速近くのホテルで問い合わせてみた。運よくそのフロントでチケットが発売され、30分ほど待てばピックアップに来ることになっているとのことだった。
 
昼過ぎまでかけてその観光バスの案内に任せて、自由の女神、国連本部、チャイナタウン、42番街、など、窓から見るだけの場所もあったが、有意義な時間が過ごせた。
 
今にして思えば、ミシガン大学でのナイアガラの滝観光の時と同じように、その後のNew York旅を重ねるきっかけとなる旅となった。
 
その間、勉強のことも忘れ、宿題のことも忘れ(実は3講座期間の合間に口頭試問も予定されていた)思いっきりその時間を楽しんだのだ。
 
そこで、観光バスの案内時間が終了してからは、夜まで歩き回ってNew Yorkの街の雰囲気をたっぷり味わうことにした。
 
私はNew Yorkの怖さをのぞき見してみたかったのだ。勿論、そんな勇気があるわけがない。でも怖いもの見たさに勝るスリルはない。
 
私はNew Yorkにできるだけ長く滞在したくて、次のワシントンDCに行くバスには午前1時のバスに乗ることに決めたほどだ。それまでは、夜のNew Yorkを満喫しよう、というのだ。
 
『ウェストサイドストーリー』に興奮したのは高校生か大学生になったばかりの頃だ。その雰囲気を味わえるのだ。

(「おやじの裏側シリーズの最初に書いた「おやじの裏側 まえがき」に書いた本『Sleepers』に出てくる雰囲気だ)
 
出発する予定のバスターミナルは何階建てだか分からない大きさだった。待合場所は。地上2階から地下2階までで、1~257番乗り場まであった。(これは妻宛の手紙で確認した)
 
DC行きの待合所は、地下2階だった・・・かな?。迷わないように前もって確認しておいたのだ。
何のことはない。ただのスチールイスのようなものが2、30個、ロの字形に並べてあるだけだ。
 
ここだけの話・・・、着替えは上下の下着2着しか持って行かなかった。着替える場所なんてない。トイレで・・・なんてことは怖くて考えたくもない。日本とは違うのだ。
 
それなのに、私は待合所から夜の街に出て行ったのだ。夜の街と言っても、夜のNew Yorkと言う意味だ。
 
とは言え、出て行った場所はウェストサイドだ。「西」(ウェスト)側だ。
 
実際に歩き回ってみて、怖いなんてものではなかった。
目を覆いたくなるショウウィンドウのオンパレードだった。
今でいうポルノショップが並び立っていたのだ。
今と違って、自信もって見せびらかしていたのだ。キラキラする電気。チカチカする電光掲示。それを見るだけで充分怖さを味わえた気がした。
 
どうせならと、おとなしめの店に入ってみた。ドキドキした。若い店の兄さんが、ジトっとこちらを見た。
「May I help you!」
 
すぐに飛び出したい衝動。2度とこんな場所に入ることはない、と思う。だが、店をざっと見まわして、飛び出したい気持ちになった。でも、飛び出すなどとんでもない。必死で深呼吸をしてゆっくりした足取りで出口へ向かう。
 
「No, just looking!」
 
小さい声で、こわごわ言いながら、そっと店から逃げ出した。
私は純粋培養された子供時代をほぼそのままに大人になって行ったのだ。というのはとんでもない自己欺瞞ではあるが、そんな感じでショックを味わった約5分だった。
 
店から出ると、周りは似たような店ばかり。その合間に、二人一組の警官が街のあちこちをゆったりと見守っていた。
 
1988年に妻と一緒に行った時は、さすがにウェストサイドは夕食代わりに45㎝もありそうなピザを夕方買いに出た時くらいだ。
 
グランドセントラル(42番街にあるアムトラックの大きな駅)に行った時には、妻は怖がって私のそばを離れようとしなかった。
 
「早く出よっ!」
 
二人一組の警官はそこここに点在していた。
 
駅から外に出て、イーストサイドを歩いていると、妻が私の手をぎゅっと握りしめてきた。ビックリして見ると、小さな声で怖さを伝えてきた。
 
その指し示す方を見ると、怪しげな男の方に警察があちこちから集結してきつつあった。酔っ払いが観光客にからんでいたのだ。
 
私は一人で歩き回った1982年の時よりも、妻を連れた1988年の方がよほど怖い思いがした。まさか妻をほったらかしにして自分だけ逃げるわけにはいかない気持ちがずっとあったからだ。
 
1988年当時のことだが、はっきりとは覚えていないが、確か、46番通り(東西線の道路)だった気がしている。 
私はそこにGoldを売買している店があることを聞いて、覗いてみたい気がした。買えるわけがないから、せめて見るだけ!の気持ちだ。
 
そのゴールド販売の店が居並ぶ場所は、とてもじゃないけれど、中に入れるような場所ではなかった。
 
まず、入り口がどこか分からない。店の入り口かと思わせる場所にはライフルを持った警備員。ピストルは当たり前。
 
勇気を振り絞って聞いてみた。
 
「店の中に入りたいのですが。。。場所が分からないので教えてください」
 
教えてもらったけれども、入れるような雰囲気は皆無だった。どう見ても貧相な私たちが入れるような場所ではなかったのだ。
 
後年再度その近辺を歩き回ってみたが、その時の様子とは全く異なっていた。ショーウインドーも変わっていた。
 
結局私は7度もNew Yorkに行ってきたのだ。最初の早朝から夜中までの滞在が私を引き寄せてくれたのだ。
 
ところで、その最初のNew Yorkでのことだ。
 
ウェストサイドから怖くなってバスターミナルに逃げ帰ったのが8時頃だっただろうか。
ターミナルの入り口を入ったとたんに、得体のしれない雰囲気が辺りを支配していた。
 
ここからは、私の自費出版本に書いた文章を途中からだが、そのまま『』で写してみる。
 
『途中くたびれて荷物を隣の人に見てもらって、又、外をぶらぶら。30分ほどして戻ったら入り口が変な雰囲気なのでアレッと思ったら、何と私の50センチ目前で白人がでっかり警官に手錠をかけられていて、怖いことにその人と目が合ってしまいました。向う側でもう一人うしろ手にかけられていて、いそいで、待合所に戻りましたヨ。待ってる間酔っ払いが私の側でいろいろ話しかけるので、得意の英語分からん病にかかって相手してたら、1時間くらいしていなくなりました。
『私の目の前に、私が見ても麻薬中毒と言う感じの黒人が一人、グダッとなって座って寝てましたが、警官が二人、何か鼻に突っ込んで、身体をゴリゴリしごいて起こして引っ張っていきました。』(妻への手紙より)
 
地下鉄には4回目の訪問までは、怖くて乗る勇気が湧かなかった。留学した大学の教授が、「やめた方がいい」と手紙で書いてくれたからだ。
 
私が初めて地下鉄に乗ったのは、2002年のワールドトレードセンター(世界貿易センタービル)のテロ事件後を自分の目で見るために行った時だ。
それまでは、兎に角バスばかりを利用したので、観光には時間がかかった。
 
それ以降はバスはやめて地下鉄ばかりに乗って、地下でのストリートパフォーマンスを立ち止まっては見ながら堪能してきた。

地下鉄なら、ハブの駅(東西南北に線が走っている駅)を中心に考えれば、行きたいところを探すのに苦労はしない。
 
バスと比べて待ち時間が短い。途中で降りたくなっても料金には反映しない。1週間乗り放題のカードを買えば、バスも地下鉄も自由自在だ。しかも安い。と言っても、もういくらだったかなど忘れてしまっている。どうせ料金は少し値上げになっているはずだから、知っていたところでがっかりするだけだ。
 
今では、ウェストサイドだって怖いことは基本的にない。夜歩けば、保証はしない。
 
夜地下鉄の駅で電車が来るのを待つときは、アナウンスがある。ホームの前方に安全な待合の場所がありますよ、と教えてくれるのだ。一度だけまだ夕方だったが向学のために行ってみた。これは怖いと思った。ホームの人が寄り付かないような奥の方に設置されていたからだ。キット防犯カメラが始動していてどこかで監視しているのだろう。
 
コロナ以降は、ニューヨークの危険度は上がったと聞く。コロナが危ないということか。それとも人々がすさんで危なくなったということか。私は今のところ出向く気がしないで、海外旅行は行かないことにしている。
 


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