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怒りのマーチ

今週の『虎に翼』もおもしろかった。
1日15分で、内容が濃く事件も多く展開が早いのに
テンポもよく、少ないセリフでも表情が全てを語っていたりして
毎回見逃せない。


ところで、
米津先生が軽やかに歌い上げる主題歌『さよーならまたいつか』も
話題になっているようだが、
わたしが気になっているのは、主人公である寅子の十八番(おはこ)
謎の歌のほうにある。

「うちのパパと うちのママが」と始まる歌詞は
能天気な曲調と相まって、動物の家族を擬人化した童謡のようでもあるが
違うような気もするし、
タイトルもよくわからないけど、どうやらオリジナルではなさそうだし、
(原曲は『モン・パパ』というらしい…?)
パパへのあたりがしつように強い割にえらい陽気に歌うし…
と、不明な点が多いのだが、現段階でひとつわかってきたことがある。

本ドラマにおいて、このちょっと愉快な歌は、
寅子の怒りのテーマらしい、ということだ。


最初の熱唱は、学校を卒業したらお嫁さんになるのが夢だったという親友と
自分の兄の結婚披露宴。
どうしても女性のほうが割を食っているようにしか見えない状況に
もやもやとした怒りを抱えつつ歌い上げた。

そして今週、
死ぬほどの努力で念願の司法試験に合格したものの、
おもっていたのと違う状況に素直には喜べない寅子が
「私たち怒っているんです」と自覚するときまで
脳内に響き続けていたのがあの歌だった。


それにしても『虎に翼』では、色んな人がよく怒る。
いっそ気持ちよく怒る。

怒ることが悪い事かのような昨今の風潮にすっかり手懐けられてきた
わたしのようなものには、非常に新鮮に見える。

もちろん、道理にあわない怒りは論外だ。
なるべくなら、できる限りご機嫌に過ごせるほうがいい。

そもそも怒るには体力がいる。
疲れてきているとどうでもよくなって、
怒ってもどうにもならないし、
まあいいかと流してしまうことも多い。

でも、そうやってあまえているから
いろんな事がおかしくなってきているんじゃないだろうか。

だって、こんなに変わってない。
ドラマは、まだ、かろうじて戦前だ。
法律も今とは全然違う。
それなのに、こんなに今と同じ問題がしっくりきててどうするんだ。

「こんなに苦しんでいる人がいますよ」
「それはおかしくないですか」と、ちゃんと怒る人がいないと
フツーの人は、問題があることにも気が付けないのだ。

怒っても何も変わらないかもしれないけど、
怒らないと何も変わらない。

現代の日本社会は、
実はあまりにも「心身ともに健康で健全な成人の男性」を
参照しすぎている。
殆ど幻想に近いし、もはや例外のほうが多いくらいなのに、
いつまでも気づけていないのは、その辺に原因があるんじゃないかしら。


確かに、ちゃんと怒るのは難しい。
だからこそ、もっと正しく、気持ちよく怒れる人になりたい。
まずは怒りのテーマをもって、
「はて?」と違和感を覚えたときに、その原因に納得できない場合は
「わたし怒っているんです」と自然体で言えるように。

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